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執事たちの雑談

「──極度のストレスと頭の使いすぎでしょうね」

 執事室へ戻ったアンがため息をつきながら残る二名の執事へ事の次第を伝達した。ジャムとロールは怪訝そうに顔を見合わせる。

「ストレス?イェナ様が?」

「相当難しい依頼を抱え込んでいらっしゃるのか……」

 ストレスという言葉とはこの家の中でも一番無縁だと思っていた長男へ、哀れむような表情で労わっているとアンはため息をついて首を横に振った。


「……いえ、あれは………恋の病よ、完全に」

「は?」

 同時に発した声。首を傾げたのもまた二人同時であった。




 数日前──ナツのいないところで、イェナがアンに珍しく相談を持ち掛けていた。

『──ねえ、アン』

『はい?』

 彼から依頼されることは大体決まっており、“生活用品が足りなくなった”“仕事の関係”そして──“ナツに関すること”だ。

 そして長年仕えたおかげで屋敷内で誰よりも読めるようになった彼の表情──尤も、”彼女“が現れてからは完全にその役割は奪われてしまっているのだが。


 そのイェナの表情を見ると、”ナツに関すること“であることが窺える。

『“普通の男”って何?』

『え?』

 そこまでは容易に想定できたとして──彼から投げかけられた疑問については、全くの予想外だった。


『“普通”の男になるにはどうしたらいいと思う?』

『ええっと……?最初からお話していただけます?』

 再度問いかけ詰め寄るイェナに、アンは待ったをかける。


 少しだけ不機嫌そうに眉を寄せた後、彼はゆっくりと口を開いた。

『ナツは“普通”の男が好きなんだって』

『……ナツがそう言ったんですか?』

 あのイェナ専属と言っても過言ではないメイドがそんなことを言うとも思えなかったが、念のため確認を取る。


『ううん、でもオレみたいな”変“な男は選ばないってある人に言われた。愛想尽かされる前に”普通“の男になれって』

『……イェナ様……』

 きっとアロ辺りの意地悪だろうと予想したが、“それは間違いです”と否定するにはあまりにも真剣に悩む主を不憫に思った。





「──ナツに嫌われないように“普通の男”になりたいんですって」

「“あの”イェナ様が!?」

 くらりと眩暈でも起こしたようにジャムが膝をついた。ロールは興奮気味に続きを促す。


「アンはなんて答えたの……?」

「『無理です』しか言えなかったわ……」

「お前強いな」

 冷や汗を流す二人を尻目に、アンは機嫌良く鼻歌を歌っている。今頃二人は仲直りできているだろうと確信めいたものを感じながら──。

(あの二人は不器用な割に素直だもの。きっと本音でぶつかり合えてるでしょうね)



「……イェナ様が普通の男になるなんて、アリがドラゴンを倒すより難しいことかもしれないよ」

 人間らしい感情を手に入れたのはいいが、あまりにも変わり果てた主の姿に──ジャムとロールは揃って、大きなため息をついたのだった。





『──それは、ナツに直接確かめないことには何とも言えませんわ。ですがたとえナツが“普通”の男が好きだとしても……イェナ様を拒否することは、絶対にありませんよ』

 自信たっぷりにそう言ったアン。イェナは納得のいっていない表情を見せた。

『……なんでそんなことが分かるの』

『あら、私の言うことが信じられません?』

『……』

 確かに今までこの執事長が間違ったことを言ったことなどない。ふざけて揶揄うことはあるものの──アンが「大丈夫だ」と言えば、いつもそうなったのだから。


『ナツはあなたが思うよりずっと、イェナ様をお慕いしているのですから』

『そうなの?』

『ふふふ……それはご自身でお確かめくださいな』

 ナツ本人から聞かされる想いももちろん満更でないが、たまには他者から聞くことも悪くないとイェナは思った。身体のどこかが擽ったいような気になる。


 そして彼は無性に彼女の顔が見たいと思い──ちらりと時計を見る。今は庭掃除をしている時間だ。──誰が、とは言わないが。



『……結局、オレは“普通”の男になれないってこと?』

『はい、それは絶対に無理ですわ』

『……』


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