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普通じゃない

 バーカウンターに並ぶ二人の見目麗しい男。“見目麗しい”とは主に女性に使う言葉ではあったものの、店内にいる女のどれと比べても見た目の良さに秀でているのは確かだった。


「──このコは?」

 アロがぴらっと一枚の写真を取り出し、イェナの目の前に置く。そこに写っていたのは綺麗な顔立ちをした女性だった。

「ブス」

 一言で切り捨てたその写真はイェナの手によって握り潰され灰皿へと放られる。

「このコ」

「却下」

「じゃあ──」

「無理」

 アロが様々なタイプの女性を写した写真を並べるが、どれも一刀両断して容赦なく捨てていく。しっかりと見つめる間もなく、視界に入った一瞬で決定を下す。まるでどこかの敏腕アイドルプロデューサーが履歴書を吟味しているかのようだ。


「──じゃあこのコ」

 そして最後にアロが取り出した写真。そこには今までの女性たちよりもあどけない笑顔を浮かべる少女──。

「……普通。てかナツじゃん」

 写真を数秒見つめ、今までとは違った見解を出す。アロはその時点で可笑しくて仕方がない様子だ。

「あーあ。せっかくイェナの恋人にふさわしいコばかり集めたのに。結局はなっちゃんかい?みんな美人じゃないか」

「どこが?」

 少なくとも、この男が“普通”だと言った少女と比べると──一般的には“美しい”と呼ばれる女性ばかりのはずなのだが。

「じゃあこの中で一番美人だと思うのは?」

「いない」

 もうとっくに捨て去られてしまった写真たちを思い返すまでもなく、イェナは答えた。きっと既に彼の頭からは、あの写真の女性の顔は一人残さず消え去ってしまっているのだろう。


「……じゃあ、一番可愛いと思うのは?」

 何気なく発した問いかけに、返事は期待していなかったのだが。イェナは恥ずかしげもなく淡々と答える。

「……そんなの、ナツでしょ」

 アロはその端正な顔に浮かべた微笑みは崩さないものの、絶句していた。

「……即答だね」

「可愛いんじゃない、普通に」

 惚気話と言えばそうなのかもしれないが、男の顔からはあまりにも感情が読めない。


「……だから他の男が寄ってくるのかな」

「え?」

 苛立たし気に──というよりは寂し気に吐き出された愚痴のような言葉に、アロは耳を傾けた。

「ナツはすぐに男に気に入られる。アロ……君も含めてね」

 恨めしい視線を送られるが、自慢の笑みと酒を勧めることで誤魔化す。


 少女のことになればあまりにも感情が表に出るようになった、とアロは思う。またしても悪戯心が擽られる気分だ。

「彼女は何か惹かれるものがあるよね」

「ムカつく。だからさっきも──」

 そこまで言って口を閉ざしたイェナに優しく続きを促す。

「さっきも?喧嘩でもしたのかい?」

「……イライラした」

 思えば酒を飲むペースはいつもより早かった。彼が飲みすぎて酔ったところなどアロは見たことはないため、あまり気に留めていなかったが。

「なっちゃんはなんて?」

「……泣きそうな顔してた」

 そう言った後、小さくため息をついたのは見逃さない。“面倒だ”といった感情ではなく──“どうしよう”と思い悩むような、そんな瞳だった。


「──イェナ。そんなんじゃあ、なっちゃんに嫌われるよ?」

 女の子には優しくしないと──と言いかけて、アロは口を閉ざした。イェナが彼の言葉に考え込むような様子を見せたからだ。

「嫌われる……ねえ、俺って“普通”じゃない?“普通”じゃないからナツから嫌われるの」

 アロが指摘したこととは的外れな答えだったが──珍しく何かに悩む様子を見せたイェナ。アロは驚きつつもまた新たな面白い展開が見られる気がして内心ワクワクしていた。

「そうだね、ボクも人のことは言えないけど──イェナは“普通”とは言い難いよ」

「ふーん……」

 アロの答えに対して驚いた様子はなかったものの、あまり納得はしていなさそうだ。

「キミやボクみたいな特殊な人間はね、普通の人間から見れば恐怖の対象でしかない。今はそうじゃなくても、いつかはきっとズレが生じる。いつか──ナツもキミを見て怯える日が来るかもしれないね」

「……うん、ナツはオレを怖がってた」

 屋敷を出る前、苛立ちから彼女に冷たい視線を送ってしまったことを思い出す。体を揺らし、その目は怯えていた。


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