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情報屋

 


「──失礼します、お茶をお持ちしました」

 応接室の扉をノックして入室すると、ソファに座って資料のようなものを眺める男性が私を見て頬を緩めた。

「ありがとうございます」

「……いえ」

 目尻の垂れた優しい目元。微笑んだその顔はあまりにも柔らかくて見惚れてしまうほどだった。アロのような目立つイケメンではないものの、“理想の旦那さん”を具現化したような人だと思う。


「……イェナ様はもうすぐ来られますので」

「はい、わかりました」

 主であるイェナのお客様。アロでないことに安堵して、原作には一切登場しなかった目の前の男性を興味深く凝視した。すると当たり前だが彼も私の視線に気付いて困ったように笑う。

「あなたは、新しく入られたメイドさんでしょうか?」

「はい、ナツと申します」

 慌てて軽く会釈すると、顔を上げた私がまだ少しばかり不思議そうな顔をしていたのか──

「私はフランと申します。情報屋です」

 と私が聞きたいことを教えてくれた。


「──情報屋さん?」

「はい、表向きは探偵として、裏ではイェナのような人たちに情報を売って商売をしています」

 爽やかに笑うその人は、まるで裏なんてなさそうな人に見える。

 情報屋。それは暗殺者にとって非常に重要な取引相手に違いない。彼からの情報で依頼を遂行することができているのかと思うと、目の前の優しそうな男性を尊敬の眼差しで見てしまった。


「……いろいろなことを知っているってことですか」

「そうですね、この世界で生きていると様々な情報が入ってきます。良いものも、悪いものも……」

 ふと、フランの表情が曇る。微笑んでいるのは変わらないけれど──。

「私の情報で誰かが殺されていると思うと何度もこの仕事を辞めようと思ったのですが……生きていくために仕方がないと言い聞かせているんです。貴方のような清らかな女性とは住む世界が違うと言うべきでしょうか」


 好きでこの仕事をしているわけじゃない。外見において一つも似た部分は見当たらないのに、このマヴロス家の次男を思い出す。「そんなことないですよ」と言いかけて、口を噤んだ。確かにそもそも住む世界は違っていたのだから。きっとフランが言いたいのはそんなことではないのだろうけど──。


 そこまで考えて、ふと思い立つ。この人なら知っているだろうか。私がこの世界に放り込まれた原因を。そして私の現実へ戻る方法を。


「──あの、お聞きしたいことが……」

「なんでしょう?」

 意を決して伏せていた目を彼に向ける。大きく息を吸って、言葉と一緒に勢い良く吐き出した。

「“異世界”への行き来について、何か知っていることはありませんか?」

 目の前の男性の顔が驚愕に染められ──そして怪訝そうなものへと変わる。

「──それは」

「あ、もちろんタダで教えてもらおうなんて思っていません。フラン様へ正式に依頼します。調べていただくことは可能でしょうか」

 彼の反応で分かったのは“この人は何かを知っている”ということ。それならば、と慌てて“依頼”をすれば、相手も仕事だから仕方がないと思ったのか──。


「……はい、それが私の仕事ですから」

「ありがとうございます……!」

 ゆっくりと頷いた。今日はイェナの依頼でここへ来ているため、後日彼の事務所へ訪問することを約束した。



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