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怖くない

 しばらくイェナの頭に触れていると、彼が短く息を吐く。

「──ねえ、ナツ」

「はい?」

 何かを確かめるように、慎重に話し出したイェナ。自分の中でも何が言いたいのか探っているかのような──迷っている様子だった。

「……ナツは」

 私が、どうしたのだろう。だけどその先は一向に出てこなくて、だからといって急かすような雰囲気でもない。ただ彼の口から言葉が出るのを待った。


「──なんでもない」

 歯切れの悪いイェナもまた、初めて見る。座った体制の彼はそのまま横に倒れ、布団に身体を沈めた。



「──ねえ、いつもの言って」

 横になったまま、また上目遣いでおねだりされる。今日はひどく甘えたがりだ。

「早く」

 ああ──これは。彼がどこか“不安定”な時だ。イェナが不安そうにしている様子はもちろん目に見えて分かるわけじゃない。だけどイェナは私の言葉を、愛情を欲している。そういう時はどこか気持ちが不安定な時なのだと勝手に思っていた。

「……イェナ様、大好きです」

「……うん」

 何度伝えようがいつも満足そうにする彼を見ると、恥ずかしさよりも幸福感に満たされる。イェナもそうだったらいいな、なんて。

「ぎゅってしましょうか?」

 その満ち足りた気持ちのまま彼に提案するとムッとした。

「……子ども扱いしないでよ」

「ふふ、すみません」

 ベッドに散らばる長く美しい黒髪はひどく扇情的で色気たっぷりなのに。拗ねたような彼はまさしく子どものようだ。


「……はやくして」

「え……」

 ベッドに寝転がったまま、こちらに両腕を伸ばす。本当に恋人にするような行動に私の思考は一気に停止した。

「しないの?」

 動かない私にイェナがどこかしゅん、としたように見えて母性本能が擽られた気がした。

「し、失礼します……っ」

 おずおずと近付いて彼の腕の中に向かう。イェナに腕を引かれるがままベッドに乗り上げて強く抱きしめられた。


 ふーっと大きくため息をついたイェナ。彼のこんな姿を見るのは珍しい。

「……ナツは、オレから逃げないって言ったよね」

「はい、もちろんです。イェナ様がどれだけこの世界から嫌われたとしても──私だけは、あなたを好きでいます。あなたの味方でいますから」

 あやすように背中をぽんとたたいたり撫でたりしながら、ゆっくりと教え込むように告げた。

「……そう、それなら怖くないね」

 “あなたが怖いと思うことなんて、あるんですか”とは聞ける雰囲気ではなかった。だけど──初めて婚約者の弱い部分が垣間見えたような気がして、嬉しかった。


 ──それも、イェナには到底言えやしないのだけれど。


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