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可愛いお願い

「──おかえりなさいませ、イェナ様」

 玄関で帰宅したイェナを迎える。なんだかいつもより元気がないように感じたのは──気のせいだろうか?

 何故か気になった私は彼の後ろをついて部屋までお供した。


「……どうしたの」

 部屋に入り振り返ったイェナが私の前髪をかき分ける。冷たい温度は相変わらずだけれど、その手つきは最初にあった頃よりずっと優しい。

「それは、私のセリフです。何かあったんですか?」

「……どうして?」

「なんとなく──イェナ様の様子がいつもと違う気がして」

「……そう。君にはそう見えたの」

 一度目を伏せたイェナは、いつもなら着替えるところをそのままでベッドの上に腰を下ろした。


「今日、ノエンに会ったよ」

「そうですか……」

 ノエンからは聞いていたが、改めて物語が進んでいることを実感する。“私もです”──とは、言わない方がいい気がした。

「殺しは嫌なんだってさ」

 いつものように淡々と告げるが、その声にはどこか寂しそうな色も含まれていた。


「……許せませんか?ノエン様のこと」

 ノエンの様子から察すると、予想しているよりも展開は悪くないようだが──イェナの本心はどうなのだろうかと気になって尋ねる。

「うーん、以前なら、許せなかったしノエンの言っている意味が分からなかっただろうね。……でも、ナツに会って分かったことがある。考え方は一つじゃない。ナツを見てて『ああ、そんな風に考えるんだ』って思うことが増えた。俺や家族の考え方ばかりじゃなくて、人の数だけ価値観があるんだって」

 あまりにもイェナからは、かけ離れた言葉の羅列。考えもしていなかったイェナの思いに感激してしばらく声が出なかった。


「──だからもうノエンを責めないよ。ま、会った時は敵だから攻撃するけど」

 その言葉でハッと我に返るとベッドに座るイェナに近付いて──。

「えらいですっ!素晴らしい!イェナ様素敵すぎます!」

「……ちょっと、やめてよ」

 感情のままに、彼の頭を撫でていた。それはもう、わしゃわしゃと豪快に。

 少しばかり迷惑そうな顔をするが、振り払う様子はないイェナに頬を緩める。


「あ、でも!イェナ様の命を狙うハンターと、依頼された暗殺対象意外──殺してはいけませんよ!?」

「……別にオレ、アロみたいな戦闘狂じゃないからね。いいけど」

 あっさりと了承してくれたイェナを見て──猛獣使いになった気分だった。随分と丸くなったものだ。

 小指を出して“指切りげんまん”をする。イェナはこれまた怪訝そうにしていたけれど、拒否はせず言われるがまま長く綺麗な小指を出していた。


「──ねえ」

「はい?」

 指切りをして満足した私とは反対に、不満げな様子の彼。機嫌を損ねるようなことは──心当たりがありすぎて分からない。

「……なんでやめたの」

 そう言うと、ベッドに座ったまま必然的に上目遣いで言ってくる。意味が分からなくて首を傾げていると、右手を取られて彼の頭の上にそっと乗せられた。

 ……これはもしかして、“よしよし”してほしいってこと?

「えっ?やめてほしいんじゃ……」

 さっき拒否──というほど強くはなかったけれど、“やめて”と言っていたのに。きょとんとする私にふい、と目を逸らして

「……いいから続けなよ」

 と何とも可愛らしいお願いをされた。




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