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価値観

 数時間前──。


 町中から少し離れた荒野で、偶然顔を合わせてしまった兄弟が対峙していた。イウリスはノエンに言われるがまま、二人の姿を険しい顔で見守っていた。


「……なんで逃げた」

 イェナがいつもと変わらない無表情で問い質す。ノエンはイェナの強さを誰よりも知っている。だからこそ“殺される”という恐怖に体が震えながらも気丈に振舞った。

「もう殺しは嫌だと思ったからだよ」

 イェナはその答えを聞いて息を一つ吐く。呆れたような目をノエンへと向けた。

「暗殺一家に生まれてそんなことを思うなんてね」

「落ちこぼれもいいとこ……か?」

「……」

 ノエンが挑発的な態度をとるがイェナは肩を竦めるだけだった。しばらく見つめあった後、イェナが動く。ノエンは戦闘態勢をとるが──。


「──ま、いいや」

「……は?」

 イェナがあっさりと背を向けたのを見て肩透かしを食らっていた。

「俺を殺すんじゃないのか?」

「なんで?」

 振り返り、意味が分からない、という顔をした兄に弟は肩の力が抜ける。

「いや……だって……」

 イェナの性格上、マヴロス家に従わないノエンはもはや“敵”同然だろう。強引に連れ戻すなり殺そうとするなりするものだと思い込んでいた。


「ノエンは“殺しは嫌だ”って思うんだろ。俺は思ったことないけど」

「……ああ」

 イェナの表情なんて長年弟をやっていても読めやしないが──淡々と告げられる言葉には確かに敵意も怒りもこもっていない。

「じゃあそれでいいんじゃない。別にオレがそう思ってるからって、お前が同じように思わないこともあるでしょ」

 ──それはノエンがいつかも聞いた言葉だった。


 良くも悪くも兄であるこの男に影響をもたらす唯一の人物を思い浮かべる。

 あの暗殺一家において不釣り合いな、眩しいくらいに純粋な女。人を殺すどころか殴ったこともないような、自らをプライドの欠片もなく“激弱”と評すメイドだ。

「……お前、本当に兄貴か?」

「なに、喧嘩売ってる?」

「お前みたいなバケモンに誰が売るか!!」

 この精巧につくられたアンドロイドのような男を──彼女は本当に変えてしまったらしい。ノエンは頭をかきながら思わず笑みが零れた。


 イェナは一度目を伏せてぽつりと呟く。

「……ナツが」

「あ?」

「ナツも人を殺すの、好きじゃなさそうだし。すぐ怖がる」

 彼は血を見て泣き、気絶してしまう婚約者を思い出す。

「だからお前もナツみたいに思ってるなら仕方ないでしょ」

 “仕方がない”。それは諦めの言葉ではなくて──イェナが彼女を、ノエンを、理解しようとした証だった。


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