正装=正義
『──一時間後、迎えに行くよ。ドレスはボクが用意するから気にしないで。キミはなにもせずに待っててくれればいい』
そう言って電話を切ったアロの言う通りに自分の仕事を終わらせて待つ。
電話を終えてから一時間きっちりでやって来たアロはもう既に正装で、黙っていればさすが美形。どこかの国の王子のようだった。そんな彼に会釈すると、不敵に笑って私に包装された大きな箱を差し出した。
「これに着替えてくれる?髪型やメイクはアンという執事に頼んであるよ」
「はあ……」
大きくため息をついて、自分の部屋で着替える。箱から出てきたのは淡い水色のドレスだった。以外にも、センスはいいらしい。可愛らしいそれを身に纏うと、まるでお姫様にでもなった気分だ。途中で「背中のチャック上げようか?」と扉の向こうから声がしたので丁重に断った。
着替えて出てきた私をこれでもかというほど褒めてくれたアンにヘアアレンジとメイクを施され、人生で一番美しく生まれ変わった私にアロは満足そうに頷いていた。
そしてアロのエスコートのもと、タクシーに乗り込んで会場へと向かう。鼻歌交じりでご機嫌なアロの隣で、私はまともな移動手段で良かったと感謝するばかりだった。
「……ここがパーティー会場だよ」
タクシーを降りて見上げた建物はマヴロス家にも匹敵する大豪邸。その煌びやかさに思わず目を細めた。
「私は何をすれば……」
粗相のないように再度確認するが、アロはニコニコと笑って具体的な指示はくれない。
“何もしなくていい”とは本当に厄介な言葉だと思う。パーティーなどと縁のない生活を送ってきた私には礼儀作法も知らなければそもそも何をする場なのかすら曖昧なのだ。
「ボクの恋人として隣でいてくれるだけでいいよ」
そう言った彼に「はいはい……」と頷きかけて、ふと動きを止める。
「“恋人”……?」
聞きなれない単語が耳に入って聞き直せば、アロがまたあの何かを企んだ笑みで首を傾げた。
「ウン。言わなかったかい?」
「……聞いてません」
「じゃあ今言ったよ」
……騙された。そう気付くのがあまりにも遅かった。イェナの超絶不機嫌な顔を想像して意識が遠のきそうになる。
だがそれも、すぐに引き戻された。
「アロ、遅い」
聞き間違うはずのない声が私の背後から聞こえて、絶望感に襲われる。アロは新しいおもちゃを与えられた子どものように嬉しそうだ。
「やぁ、イェナ」
片手を上げて笑うアロ。私はもちろん背後から近付いてくるイェナの気配に身を縮めることしかできなかった。
「……パートナー、ちゃんと連れて来たんだ」
「もちろんだよ。ハイ、ご挨拶しようか」
アロに肩を掴まれ、強制的に回れ右をさせられた。私と目が合ったイェナの表情は何とも言えない──目を見開いて驚いた様子を見せたあと、瞬く間に不機嫌になる。数秒前に想像したあの顔と寸分違わず同じだ。




