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獲物

「──誰が?ただの仕事相手でしょ」


 イェナが応接室の扉を閉めながら彼の言葉をバッサリと切り捨てるとアロはくすくすと笑う。

「つれないなあ」

 ソファに座って足を組むイェナを横目におぼんに乗せていた紅茶をテーブルの上に移す。

「こちら召し上がってください」

「ありがと、ナツ」

 イェナがすぐに紅茶を口に運ぶとアロが私の顔をじっと見つめた。

「ああ、キミがナツなんだね。イェナがいつもキミの入れる紅茶はおいしいと言っていたよ」

「……光栄です」

 ふふ、と一見人の好さそうな笑顔を向けられてドキッとしたが、漫画の中の数々の悪行を思い返して思い留まった。


「……ねえ、イェナ。このコもここにいてもらってもいいかい?」

「……なんで」

 イェナが探るようにアロを見据える。アロは何でもないことのように微笑んだままだ。

「華があるじゃないか」


 ……絶対に嘘だ、と直感する。私の知っているアロはそんなに無駄なことはしない。何か良からぬ理由があるだろう。この人はいつも“面白そうだから”という訳の分からない理由で事態を最悪へと運ぼうとするサイコパスなのだ。

「……別にいいけど」

「キミもいいかい?」

「はぁ……」


 主人であるイェナが首を縦に振ったのだから私には拒否権はないだろう。アロは恐ろしいほど強く殺人快楽者であるが、イェナも実力においては引けを取らない。いざというときはイェナに頼るしかない。命の危機なら──きっと助けてくれる……はず。そもそもアロは強い者に興味を示すバトルマニアでもあるのだから、激弱な私に興味を抱くわけもないか……と言い聞かせてイェナが座るソファのそばへ立った。


「おや、ここへきて座ったらいいのに」

 アロがそう言って自分の隣の空いたスペースをポンポンとたたく。恐ろしくて顔を青ざめながら首を横に振った。くっくっ……と喉を鳴らして笑う男に鳥肌が立つ。

「オレが許さないよ」

 イェナに腕を取られて、少々強引にだが彼の隣に腰を下ろすことになった。これでアロにちょっかいをかけられることもないだろうと胸を撫で下ろす。


「……本当に大切なんだねぇ」

 自分の太腿に肘を乗せ、頬杖をつくアロ。その表情は“面白そうな獲物”をみつけた時と同じ顔だった。……何を企んでるんだ。



 そこからは以外にも真面目に仕事の話をしていた。どうやら次の仕事は複数人で遂行するらしい。パーティー会場での暗殺依頼とのことで、怪しまれないよう会場に潜入する必要があるとのこと。二人によって打ち合わせは淡々と行われていく。

「対象についてと会場の情報なら書斎にあると思うけど」

 立ち上がったイェナに「取って来ましょうか」と申し出るが、確認したいことがあるからと断られた。


「……アロ」

「なんだい?」

 応接室を出て行こうとしたイェナが立ち止まって振り返る。いまだニコニコと愛想の良い笑みを浮かべるアロを鋭く睨んだ。

「ナツに指一本でも触れないでよ」

「……ハーイ」

 釘を刺す様に私にも一瞬視線を向けて「おとなしく座って待ってなよ」と忠告した。



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