独占欲
コンコン、とイェナの扉が鳴る。
「──失礼致します。ナツ、ノエン様がイェナ様の手当てが終わり次第来るようにと仰っていましたよ」
扉の向こうからジャムの声が籠って聞こえてくる。
「はい、わかりました」
そう答えると、イェナに一礼した。
「……ではイェナ様、失礼します」
何も言わないイェナに背を向ける。すると後ろから引っ張られる感覚がして前には進めなくなった。
「……待ちなよ」
振り返ったら、まるで子どもが引き留めるように服を引っ張るイェナの姿。
……可愛すぎる。
「……ジャム」
「はい」
まだ扉の前にいたらしいジャムへ、イェナが静かに命じた。
「ナツはまだすることがあるから、ノエンには違うメイドを向かわせて」
「……承知しました」
それを最後に、部屋の前から気配は消え去っていった。
私は首を傾げる。主人からは何も頼まれてはいないし、手伝わないといけないようなこともここには見当たらない。
「何をお手伝いしたらよろしいですか?」
そう尋ねたら、首をこてんと傾けて悩み始める。
「うーん。そこまでは考えてなかった」
「はい?」
どうやら、先ほどの“することがある”は嘘だったらしい。どうしてだろう、と考えているうちに──
「ナツはオレの所にいればいいよ。ノエンの所に行く必要ない」
独占欲とも取れるセリフが耳に響いてキュン死寸前だった。
「そうだ、ナツ、ちょっと来て」
今度は手首を引かれ、イェナの方に体が傾く。
「うひゃ……っ」
前にも一度投げ出されたベッドの上に、再び転がされる。
「……うん、いい感じ」
そのまま背中から抱き込まれて、二人で横になった。
この間は朝起きたら、私が目を閉じる直前と全く同じ体勢でじっとこちらを見ていたから心臓が飛び出そうだった。
イェナが寝ているところなんて想像もできない。見てみたいのに、後ろを振り向くこともできないくらいがっちりと腕を回されている。
「いい感じ、とは……」
「筋肉とかなくて柔らかいからね、ナツは」
さり気なく貶されたけれど、抱き心地がいい、ということだろう。体温が急上昇する。
「こ、この状況は一体……」
「これは命令。背いたら殺すよ」
久しぶりの「殺すよ」だったけれど──やっぱりどこか温かい。くすっと思わず笑う。
「……なに笑ってるの」
それに気付いたイェナが私の肩を引いて、くるりと体を反転させた。向かい合う体勢になって、更に心臓は激しく鳴り響いた。
目の前にはイェナの胸元。視線を上に向ければすぐそこに綺麗な顔がある。
「ふ、服が皺になってしまいます……」
上質なメイド服。皺になってしまったら面倒だと言い訳して逃れようとするが、イェナは離す気はないようだ。
「はいはい」
腰に回った手がシュルっとエプロンの結び目を解く。
「──え!?」
素早すぎるその手つきに、“この人慣れてる!”と咄嗟に思った。
「ま、待ってください!」
慌てて彼の手を止める。イェナは眉を顰めて「なに?」と言った。
そんな“当たり前のこと”みたいな反応をされても……。
「脱ぎたいんでしょ?」
「そうですけど違います!」




