執事総動員
「またえらく抽象的だね」
呆れたように肩を竦めたロール。そんな彼の様子に苛立ったように舌打ちをする男。
「強さにだっていろいろ種類があるでしょーが。単純に力の話?技の熟練度?」
鼻で笑いながら言葉で詰め寄っていく彼には、いつもの朗らかさなんて皆無だった。
「面と向かってハイ今から戦います、正々堂々勝負しましょうっていうレベルの話ならどっかの大会でも行けば?」
冷ややかな声は静かだけれど恐怖を覚えた。それはこの男も同じだったらしい。ぐっと黙り込む。
「ここは暗殺一家。この家での“強さ”とはいかなる手段を用いてでも素早く殺すこと。こうやって目立つようなことして人質っていう足手纏いをつくった時点でお前の負け」
そう締め括ったと同時に、あたりに強い風が吹き抜ける。
「……ロールが手こずっていると聞いて何事かと思いましたが……この程度ですか」
すらりとしたシルエットが現れる。
「ジャムさん!」
彼の登場に安堵すると、ジャムは「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「しょーがないじゃん。ナツが捕まってんだもん。俺一人で暴れてもしナツを傷つけちゃったらイェナ様に合わせる顔がない」
唇を尖らせたロールの表情はいつもの明るいものに戻っていた。
「……そうですね。所かまわず暴れる貴方にしては賢明な判断です」
眼鏡をくいっと上げて小さく息を吐くと、大男を見上げた。
「……それで、ナツを返してはいただけませんかね?」
ジャムはあくまでも丁寧だが、拒否できない威圧感を感じる。
「ああ、返してやるよ!」
観念したように男が言ったため、ホッと息をついた──その瞬間、私の体が浮遊感に包まれる。
「きゃ……っ!」
二人とは逆方向へと放り投げられたのだ。この高さからでは──かすり傷、では済まないだろう、なんて考える時間があるほど、上空へ浮き上がる体。
「──ナツ!!」
慌てた二人の声が聞こえる。目をぎゅっと瞑って必死でご主人様の名前を呼んだ。
ポスッ
体が千切れそうなほどの衝撃や痛みも、地面に叩きつけられた音もせず、意識もはっきりしている。柔らかな衝撃にそっと目を開けると
「──大丈夫?」
「……アンさん」
綺麗な顔をした男に抱きかかえられていた。微笑んでいるけれど、どことなく、怖い。
──怒っている、と咄嗟に思った。
そして辺りが黒く靄がかる。その原因を探れば、それは目の前のアンや険しい顔をしている執事二人から発されているのだとすぐに分かった。そして同時にそれが“殺気”だと理解した。
「悪いけど……この子に手を出したならこっちも笑ってはいられないんだよね」
「これは最悪手です」
ロールやジャムも、怒っている。今まで見たことのないくらいに。自分に向けられた視線ではないのに、本当に殺されてしまいそうな気になって思わず腰を抜かして座り込んだ。




