#5 リカント武具店
支度を整えて宿を出た俺とエストは、まずある場所に向かっていた。
冒険者になる上でかなり重要な意味を持つ場所であり、そこであるものを購入しない事には始まらない程に。
「ヒロトさん、武器持ってなかったんですか?」
そう、武器である。
昨日は防具を整えたのだが、どんなスタイルの冒険者になるのかを真剣に考えてから武器を選んだ方がいいと考えた俺は、武器の購入を後回しにしていたのだ。
まあ、寝る前に考えたおかげで使う武器は決めている。
後は現物を見てどれを選ぶか、だけである。
「マップによればこの通りを真っ直ぐ行って......あ、ギルドまでの道の途中にあるのか」
「丁度良かったじゃないですか。私もワンドは持っているんですけど、攻撃力のある武器を持ってなかったのでついでに買いたいですし」
腰に差した白いワンドをさすりながら、そんな事を言うエスト。
やはりというかなんというか、エストは冒険者としての分類上、魔法使いのカテゴリーに入るらしい。
そして、彼女が持つワンドというのは所謂触媒の様な物だ。
簡単に言えば、ワンドを通して魔術を行使する事で暴走率の大幅なダウンと使用する魔術の効果を多少上昇させることができる出来る様で。
一応何も触媒にせずに魔術を使用する事も可能だが、制御が難しい上に威力は完全に自身の魔力依存になる為、余程の上級者でもなければそんな真似はしないらしい。
因みに制御が出来なくなると、酷い場合魔力が逆流して最悪死に至るそうだ。おお、怖い。
「エストはどんな武器を買うつもりなの? 魔術攻撃がメインだとあんまり大きな武器は持てないと思うけど」
「そうですねー......。無難にナイフにしておきましょうか。扱いも簡単ですし、何より軽いですから」
なるほど、確かに武器を買う上で重さは重要だな。
......そういえば、俺のステータスって神様が強化してくれてるんだっけ。
折角だから、それを生かした特性を持ってる武器にしたいな。
「あ、見えてきましたよ!」
エストが指さす先には、目的地である『リカント武具店』の看板が。
他と比べるとかなりこじんまりとした店だが、色々ある武具店の中でアルバーさんがここにした方がいい、とまで行った店なのだ。
間違いは無いだろう。
あの人はこの街に精通している(らしい)そうだからな。
「さてと、ここで間違いないみたいだし、取り敢えず入ろうか」
──────────
中に入ると、そこには台に置かれたメイス類の打撃武器や、壁に掛けられた槍と剣、そして斧。
ほのかに鉄臭い匂いが漂う、まさに武具店といった場所だった。
まあ勿論本物の武具店に来るのはこれが初めてだけど。
少し店内を見回っていると、店の奥から誰かの足音が聞こえてきた。
「おお、いらっしゃい。どんな武器を探してるんだい?」
奥から出てきたのは、見た目にして四十代後半ぐらいの男性。
ゴーグルのようなものを付け、腰には数本工具を携えている。
如何にも鍛治職人といった人だ。
エストはそそくさとナイフ売り場へ行って色々物色しているようなので、俺は俺の買い物をする事にした。
「あの、この店に魔力依存で威力が上がる剣とかってありますか?」
「魔力依存で威力が上がる剣......ねえ。一応ウチでも取り扱ってるんだが、ちょいと値が張るぞ?」
それは折り込み済みだ。
その為に少し多めに金貨を持ち出してきたのだから。
「お金ならあるので、どんな物があるか見せて貰えますか? 出来れば、色々見たいんです。剣の事はよく知らないので」
「よし、分かった。それじゃちょっと待ってな」
そう言って、店主──バルトというらしい──は店の奥へと消えていった。
「あの、ヒロトさん」
「ん? どうしたの、エスト」
既に会計を済ませたのか、革の鞘に差されたナイフを手に持ち、エストが不安そうな顔をする。
「ヒロトさんは紫鉱製の剣を買われるんですよね?」
紫鉱というのがイマイチ分からないが、魔力剣の材料か何かの事か?
と、エストは近くにあったメイス武器を手に取って俺に手渡す。
手渡されたメイスの打撃部分は黒色の成型色で統一されているが、よく見ると所々紫色の光がチカチカと光っている。
「これも紫鉱製の武器なんですけど、その......」
そして申し訳なさげにタグを見せて来て......。
『金貨 六枚』
「なっ!?」
高い、高いなオイ!
いや別に払えない訳じゃないけど、金貨六枚って......。
理由を聞いてみれば、詩玉単純なものだった。
「紫鉱石って、錬金できる人がとても少ないんです。だから、どうしても紫鉱製の武器って高くなっちゃうんですよね......」
「な、なるほど。......まあでも、払えない額じゃないし、これから冒険者になったら依頼で稼げるでしょ? まあ、大丈夫だよ、うん」
昨日宿に帰ってから数えてみたのだが、今持っている貨幣は金貨が二十一枚、銀貨が六枚、銅貨が三枚に、鉄貨が四枚。
銅貨と鉄貨は食費等に使う小銭枠に使うとして、なるべく金貨と銀貨は温存しておきたいところだ。
遠出するとなると馬車が必要になるのだが、レンタル料がものによっては金貨二枚するというので、安いものを使うにしてもそれなりに値は張るということだろう。
と、そこへ大きな包みを担いだバルトさんが戻ってきた。
「待たせたな。これがウチで取り扱ってる魔力剣だ」
そして、空いている台の上にその包みの中身を広げる。
曲刀、直剣、細剣、双剣......と、沢山の種類の剣が並び、そのどれもが刀身に紫色の光を散りばめている。
「まあ手に取って自分に合うものを探してみな」
「それじゃあ、失礼して......ん?」
「どうしたんですか? ヒロトさん」
その中の一つを手に取ってみたのだが、妙に手に馴染む感覚がある。
こう、なんというか自分の身体と剣が一体化したような......ううむ、説明しようとすると難しいな。
他の剣も試してみたが、どれも同じ感じだ。
この感覚はなんなのかと、バルトさんに聞いてみると笑いながらこう返された。
「あれだな。アンタ、無意識の内に自分の魔力を流し込んでるんだよ」
魔力を流し込む?
そう言われてみると、体から刀身の先へ何かが流れていくような感覚があるようなないような......。
「ヒロトさんはまず魔力剣を扱う前に魔力そのものの扱いになれた方がいいみたいですね」
隣でエストが苦笑いをみせる。
参ったな。能力は強化されているけど、それそのものの扱いには体が慣れてないのか。
「ハハハ、まあ急ぐ事は無いだろ。ちゃんと慣らしてからまた来な」
「ですね......」
結局、魔力剣の購入は断念。
取り敢えず一番体にあった鋼鉄製の片手直剣を購入しました。トホホ......。
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店を出て、エストが俺の袖をクイクイと引っ張る。
何事かなと思って彼女の方を向くと。
「宿に戻ったら教えてあげますから、気を落とさないでくださいね」
だとさ。助かるけど多少の劣等感に襲われるね、コレ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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