ハク
戦い続ける2人、互いが身を削り血を流し
協力し合い2頭を倒す。
追い込まれる側を上手くフォローしあう2人
打撃と切撃が入り乱れる。
一頭と言えどボスゾンビ熊の耐久力は凄まじかった
痛みの無い、恐怖の無い、筋肉と爪の武器、そして
脂肪に覆われた最強防具に2人は攻めあぐねた。
何度も何度も攻撃するも熊に疲れたといった表情は
見られなかった、出血も少ない、持久戦では明かに
人間の方が不利だった。
誠「ハァハァ……ちょ……休憩」
クリス「……ハァハァ休んでる暇なんかねぇぞ!」
クリス「誠!そっち行ったぞ!」
言うが早いか熊は丸太の様な前足で誠の顔を目掛け
鋭い爪を振り回す、空気が重く感じるかの様な
腕の振りは、避けた誠の背後にあったゴミである
冷蔵庫を軽く3メートルは吹き飛ばした。
追い討ちに転がる誠に襲い掛かろうとすると背後に
陣取るクリスが背中目掛けサバイバルナイフを
突き刺す、熊は今度はクリスを攻撃しようとすると
誠が背後から攻撃
彼等は互いを囮、そして守り易い様に熊を中心に
常に前後に陣をとっていた。
攻めきれない熊、だがそれは誠達も同じである。
しかし持久戦に持ち込まれた2人の体力は
限界が近かった、動きにも余裕が無くなり追撃する
攻撃もゾンビ熊に『攻撃をしている』という意識を
持たせるのにも苦労し始めたのだった……
意識を持たせないと1人に集中させてしまう
そんな事になればいくら背後から攻撃したとしても
元々致命傷を与える事が出来ない状況に1人は
確実に殺されるからだ……
本能でも攻撃を意識させ反撃させる事によって
コンビネーションは成り立つのだ。
辛うじて隙を突きナイフや木刀で応戦する彼等
だったが一際でかいゾンビ熊の脂肪は厚く、攻撃を
繰り返す筋組織に達する致命傷を与えられずにいた
次第に打撃の衝撃は吸収され
裂傷はただ脂肪を裂くだけ
クリス「ラスボスは流石に強えな……」
誠「あぁ強え……幾ら切っても脂肪をかすめてる
気しかしねぇ……な」
誠「力も半端ない、あんなの一撃でも
食らったら首から上がぶっ飛んでくわ」
クリス「どうする……」
誠「どうしたもんかね……」
「お前のバイクでラストだ派手にぶつけて
終わるってのがベストだが……」
クリス「あぁ……俺も賛成だ、だが」
誠「そうだなコイツ、俺らの意図を
読んでるみたいだな」
熊はバイクに近づけさせない動きを見せていた、
多くの熊との戦いを見ていたボス熊は彼等の
戦い方を学んだようであった。
脳の活動が本来正常時の人間と違い脆弱だった分、
狩りに特化した本能である左脳の働きだったかは
解らないが熊はそれを行なっていた。
クリス「知能指数は誠以上か……」
誠「……」
「面倒臭さはクリス以上か……」
クリス「……」
その時熊が前後に陣取る彼等2人を尻目に横に
向かい顔を向け低い唸り声をあげるのだった。
その方向を見る2人の視界に1人の男が映り込む
誠 「おい……あれ……ハク!」
クリス「確かにハクだ」
ハクであった、1人道路の真ん中に一本の
杭を足元に転がしボーと突っ立って居る姿だった。
誠 「ハク!元気になったのか!」
クリス「ハク!元気になったのか!」
誠 「様子がおかしいぞボーと突っ立ってる」
クリス 「誠!熊がハクの方へ向かった!」
そう叫ぶ2人を他所目にボスゾンビ熊が
動き出していた。
熊はゾンビ化しているとは言え普段と変わらない
中に闘争本能や食欲が異常に高まっている生き物
その闘争本能は誠、クリスと言う強敵のターゲット
から一番弱そうなハクへと向けられたからだ。
人間の様に加勢する人間が増えるのをいち早く
排除する思考を本能で感じたかはわからないが
弱いモノを狩るというのは自然なモノである。
クリス、誠は同時に熊の後ろを全速力で追う
だが駆ける熊に追いつき、更に追い抜き
ハクを救う事に間に合う筈は無かった。
『ドンドンドン』
時速50キロにもなろうかと言うスピードで
熊はハク目掛け一直線に駆ける。
だがハクは一向にその場から逃げようともしない
道路の状況も逃げるには走り難いヒビや割れ目で
アスファルトの段差が激しい場所だった、
逃げ込む建物も最早今から走り出したとしても
熊はハクを背後から安易に殺せる位置だ。
誠「アイツ!まだ熱で頭混乱してるのかも!
ハク!逃げろ!今のお前じゃ熊は倒せない!」
クリス「に、逃げてくれ!頼む!」
叫ぶ2人に満面の笑みを返すハク
誠「わ、笑う所じゃねぇ!焦る所だろぉおお」
「そうだクリス、銃だ!使ってくれ!」
クリス「使ってもう弾がねぇんだ!」
誠「クソ!クソ!」
クリス「クソ!」
だが時は止まらない……既に熊はハクの目の前まで
接近し彼等からはもう熊のでかい後ろ姿しか
見えない位置にまで来ていた
誠 『ハクー!』
クリス『ハクー!』
だが奇跡は起こった……
ハクの立つ前で急に熊のスピードが止まり
跳ねる様な動きを見せたのだった。
誠「いまだ !クリス、なんか解らないが動きが
止まった!熊の両脇すり抜けてハクを
腕ごと持ち上げて逃げるぞ!」
クリス「了解だ誠!」
その瞬間2人は動きの止まった熊の脇を左右に
分かれハクの腕を取り一切スピードを
殺す事なく走った。
誠「ボケ!ハクお前無茶すんじゃねぇ!」
2人に身体が浮いた状態で滑稽な姿で
走り運ばれるハク
ハク「にゃはは」
クリス「運が良かった……何故熊が止まったかは
わからないが……お気楽なもんだな」
誠「まぁコイツはこれでいいんだけどな」
「さてだがあのボス熊どうする?」
クリス「……」
ハク「……」
誠「ハク、いいか?アイツは手強い、
今までの熊とは格が違う、
病み上がりだろ、お前はやすんで俺達に任せろ」
クリス「そうだ、お前は休め、
何とか必ず、必ず何とかするから」
2人は顔を見合わせ苦しい表情を見せた……
ハク「……」
ハク「えと、もう倒れてるよ?さっきの熊?」
再びハクを抱えながら2人は顔を見合わせる。
誠 「は?」
クリス「は?」
2人はハクを抱えながら後ろに通り過ぎた熊を見た。
誠 「……」
クリス「……」
2人が見た熊は何やらバタバタ踠いて、
ハクを救い上げた場所から動かないでいた。
誠「えーと……どう言う事かな?」
クリス「……」
ハクはあの熊と対面した瞬間の説明をした。
ーー先程巻き戻しーー
体当たりごと牙をハクの首に喰い込ませ一気に
仕留めようと今ハクの目の前まできた。
(お前の様な弱きモノは俺の餌だ、もうすぐ側まで
来ている、槍を拾う暇も無く今更何をしようが、
その体事吹き飛ばし牙で噛み付いた首を残し
お前は首から胴体は引き千切られ終わりだ)
と言わんばかりに……
ハク「来たね熊さん、だけど君の敵は
僕じゃ無いよ」
そう言うとハクは足元にある杭の尻部分を
アスファルトの壊れた凹み部分にはめ込む様に
足で軽く踏む、杭の尻はアスファルトに
はめ込んだ形となり45度の角度になった槍の先は
熊にとっては急に現れた魔法の様な
出来事だったろう。
ただただ足を踏み込んだだけでボーと立ったハクは
熊に向かい両手を大きく広げ語った。
ハク「さぁ!君の敵は大地だ!
地球に勝てるかな?」
勢いの乗った熊は寸前で出された杭にブレーキを
かけることも叶わない
槍を構えられたといしても脆弱な人間の力如き
身体ごと吹き飛ばすつもりのゾンビ熊
寸前で2歩下がるハク
杭はボス熊の胴体に一気に刺さり込む
その勢いの乗ったスピードに自分の体重、
そして杭の尻に支えとなった支点の大地に力自慢の
熊も成す全てもなく身体に穴を開けたと言う訳だ。
『熊の持つ最大の優位点、体重・スピード、的が
大きい巨躯』全ての優位点が今全ての弱点となった
巨躯なる熊は杭を支点にハク側に倒れこむ瞬間
熊の脇から状況が解らない2人は誠とクリスに腕を
抱えられその場を走り去った、
後ろから走って来た2人には何がどうなってるか
解りもしなかった、ただ熊が急に止まり熊の
身体が大きく跳ねる様にハクに覆い
かぶさろうとした寸前の光景だった。
ハク「どんなけ強かろうが地球と対決したら
負けるよねw
ついでに熊の自慢の武器を全て利用させて
もらったって訳」
誠 「……」
クリス「……」
誠「あんなに苦労したボスゾンビ熊が」
クリス「何回刺したことか……」
誠「何回気合いの入った打撃を与えたか……」
「ハクさん……」
クリス「その、あの緊迫した状況の空気を少しは
察して……」
誠「……クックック」
クリス「あーはっはっ!コイツは面白れー!」
クリス「アハハッ……腹イテェ」
訳もわからずハクも笑った。
誠「だってよヒヒヒ一瞬だぜ?俺達あんな
苦労したのによ?」
クリス「そうだぞハク、しかもお前、杭置いただけ
じゃねぇか!アハハッ、ゲームで言ったら
ラスボスだぜ?苦労して倒すのが筋だろうが」
3人は笑い合った、大声で、緊迫した空気は今、
光が差し込む様に明るく彩る。
空気を肌で感じる余裕も生まれ世界が彼等から
色を取り戻して行った。
だがその空気をまた暗黒に誘おうとする運命が
彼等の前に姿を現していた……




