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迅速


□□集会所□□


御堂父は集会所に皆を集め協力を求める

決意をした。


御堂父「……あ」


「……その」


先程と真逆の事を言わねばならない羞恥心に

戸惑うも意を決して言葉にする。


この言葉を口から発する事が如何に簡単か……

お腹に力を入れ空気を溜め込んだ肺から空気で

声帯を震わせる、やがて空気の振動は音となり

空気中の振動の届く範囲に意思を伝える……


この言葉を口から発する事が如何に困難か……

過去の生きて来た経験に基づく自分否定

親として男として無様な姿を曝け出す、数刻前まで

いばり散らして言った自分との真逆の言葉

情けない、羞恥、プライド、家長としての威厳

自分の歴史、怒り、恐怖、口に出さず意思を伝えず

流されてしまえば楽なのに……


「……」


御堂父「……皆んな聞いてくれ」


「これから俺達は

皆で協力して外にいる奴らを助けよう」


騒めく集会所


御堂母「チョット!アンタ何言ってんの?」


相葉「おい!御堂さん……いや御堂!お前さっきと

言ってる事が違うじゃないか!」


男「そうだそうだ!コロコロ意見変えやがって!」


男「今まで散々威張って奴等追い出そうとした

首謀者が今更何言ってやがる!」


「お前が言った物資が無くなるのは事実だろう

其処にこれか!人も物資も全て無くす気か!」


「裏切り者だっ、このクソ野郎!」


過去の自分の態度や偏見が今ハク達を擁護する事に

より自分に全て跳ね返る……


御堂父「……」


男「なんか言えよ!言ってみやがれ!」


御堂「あ……その」


「すまない……俺は、俺が間違ってた」

膝を折り土下座する御堂


「間違いだ?何が間違いだ!現実は前言った

アンタの言う通りだ!間違いでもないだろ!

で今はこれか、言ってる事が滅茶苦茶だ」


御堂父は言葉を失った現実的な話は確かに以前

彼が行おうとしていた事が正解なのかも

しれないからだ。


御堂父「何が……正解か俺にも解らない

ただ……俺は健の……格好良い父でありたいんだ」


騒つく集会所の人に彼は怯えた、自分にも……

うまく喋ろうと意識すればする程頭が真っ白に

なっていった、本音で喋る事に慣れていない

からだろうか……心の中でふと思う。


「カッコイイ父だ?じゃ今までお前に従ってきた

俺らはダサくてお前が今しようとしてる事が

格好良いてのか、馬鹿にすんな!土下座して

みっともない姿を子供に見せているくせに!」


御堂父「いやそうじゃ無くて……」


男達「こんな奴の言う事なんか聞く必要無いぜ、

此処は民主主義に従って多数決で決めようぜ」


「どうだ!皆んな!今物資は少ない、もう猶予は

無いんだ、もう食われてるかも知れない奴等と、

此処に居る大切な家族守る為に、病人の奴等の仲間

そして其処に土下座して居るアホを追い出す事に

賛成な者は挙手してくれ!」


一番に挙手したのは御堂母であった……


「私は何があっても綺麗事なんか言わない!

アンタがどう思おうが健の事は私が守るわ

酷いと思われても!健が危険な目に会うくらいなら

私はアンタを捨てる」


健の奥さんをきっかけに挙手したのは大多数で

あった、集会所を束ねていた御堂の奥さんの

挙手は周りの者達の迷いを吹っ切らせるには充分な

効果があった。


だが数名はまだ迷った、追い出す事は終わりを

意味する事を知っているからである。

現実と理性、人としての想念と皆の空気に

押されながらもどうして良いかわからない人達……


男達「オイオイ、偽善者がまだ居るな……

いいかよく聞け、人間が熊に勝てるか?

銃だって2丁に弾は50発しか無いんだぞ?

この先人間が俺達を襲いに来る可能性だって高い、

それに異星人もだ、こんな所で皆が全滅しても

いいのか?自分のエゴで皆を危険さらそうとする

奴等の味方するってのか?」


相葉「実益を取れよ!実社会でも正直者が馬鹿を

見るだろ?腹ワタ裂かれても綺麗事言える奴が

この中にいるのか!」


「自分の子らが犠牲になってもいいのか!」


小さく丸くなり今までの威圧感は消え、何も言えず

ただ土下座する御堂だった。

上手く説得出来ない自分、言い放った言葉は

もう取り返しがつかない現実に怯えてた御堂だった


そんな父を側で見ていた健が壇上に駆け上がった。

父を抱きしめる健、すがる様な目で母を見た


御堂父「健……情けなくてごめんな、こんな筈じゃ

無かったんだが、カッコ悪いよなぁ」


背中を丸め小さくなった父の傍で健は言う。

「お父さん最高にカッコいいよ!」


御堂父「……こんな情けない姿なのにか」


健「堂々とする姿を見たい訳じゃ無いよ

堂々と正しい事をしようとしてるお父さんの方が

今までの何百倍もカッコいい!」


父を背後に庇う様に両手を広げ立つ健


健「父さんを虐めないで!」

「母さん僕を大切に思ってくれてありがとう

でも僕は母さんの事も父さんの事も集会所にいる

友達の事もみんなの事も……皆んな守りたいんだ」


相葉「虐めてる訳じゃ無いんだよ?

コレが社会という物何だよ?

子供には解らないだろうけどさ」


「それに守るってを子供に何が出来る?」

失笑する相葉達


健「社会って何?こんな社会僕達は子供は

望んで無い、僕達は大人になったら、

貴方達の様な大人になる事を大人は望んでるの?」


女達「私達は貴方達、子供に普通に

暮らしてほしいだけなのよ」


御堂母「こちらにいらっしゃい!私が

守ってあげるから!そんな情けない男なんか

ほっといて!」


健は母の言葉に涙を流しながら悲しそうな表情を

浮かべた……


健「普通て何?諦める事?人を虐めたり、救う事を

無視したり、多数決で自分の意思を曲げて

生きて行く事なの?」


「そんなのヤダよぉ……」


御堂父「……健」


照子「よっこらせ……チョットごめんよ」


「貴方達の意見ももっともだ」

「私達が出て行くよ……」


照子さんが年配の集まる仲間達を見た、

皆が照子の方を見て頷いた。


「すまないねぇ……皆んな」


「口減らしは私達がするから皆、争いを止めて

仲良くしておくれ、争いの種は食料だ、これで

一つ問題は消えたわよねぇ」


「ただ言っておくよ……熊の被害はまだ終わって

ないよ、作物の畑は全てで5つ、そのうちの集会所

周り以外は既に壊されたと聞いたよ」


騒つく会場内


「残りはこの集会所周りの三つだけだ」

「私達が出て行っても食料は足らないだろう

そして熊が冬眠に入るまで此処を襲う

可能性も高いんだよ」


「願わくば皆、現状を知って生き抜くんだよ

先の短い年寄りの願いは若い衆、アンタ達が

無事で生きていてくれる事に尽きるから

そして未来は貴方達が作るんだよ……」


更に現実を突きつけられた集会所の人々は混乱した


近藤「くそ!何だってんだ!この状況は!

じゃどうしろってんだ!」


相葉「……」


「じゃあ口減らしの人数増やすしか無いな」


照子「!」


「何言ってんだい!私達はアンタ達が仲良……」


相葉「黙れババァ」


「いいか皆んな!もう猶予は無いって事が

今わかったと思う」


近藤「仕方ない事だな」


壇上に上がる元御堂の手下にあたる父軍団


相葉「此処からは俺達が仕切らせてもらう」


「生きるための仕方が無い方法なんだ、

そしてコレが現実だ」


「理論的に現実はこうだ、物質の数からいって

保険をかけて今から口減らしの人員削除を行う

畑は残り三つ、ここの収容人数から言って30名は

出て行ってもらう、異論は認めない」


「先ずは近藤、お前達にも出て行ってもらう」


近藤「はっ?何でだ!ふざけんな」


相葉「お前達家族は先ず体が弱い、此処に在籍する

子供は30名だ、同じく病気がちなお前達は危険だ」


「同じ子供であっても病気リスクが高い危険な

子供は例外無く同じだ」


「子供を個人として扱わず人数として合理的に

判断する」


主婦達「そんな……子供に罪は無いじゃない!」


相葉「罪とか可哀想とかそう言う感情論は

どうだっていいんだ今は生き残る為に

間引きする必要がある」


「嫌なら出ていけば良い、答えは追い出すのと

変わらん、むしろその犠牲に感謝する」


「そして独身者も全て出て行ってもらう」


男達「おいおいふざけんな!」


「子供主体の考えだ、辛いだろうが守る者が無い

お前達は最優先で出て行ってもらう」


「今までの力仕事には感謝する、だが男手が必要な

作業はもう無い、ハッキリ言うともう用はない」


男達「用が無くなればこの仕打ちか!クソが」


相葉「……まだわからないのか?だから出て行って

もらう事になる事が、愚かな奴は今後風紀を乱す」


「そして女は残す」


「理由は子供のお守りに食う量が少なくて済む」

「後は若い女に限定だ」


女達「ふざけないで!それって、若いが対象て

私達にアンタらの性奴隷になれって言ってる様な

もんじゃ無い!」


照子「子供の前だよ!アンタ達!言葉には

気をつけな!」


女達「もうアンタは部外者でしょうが!口出しする

権利もないの!黙って!」


相葉は女の方を見た。


「人間が生き残るための決断だ、間違った事は

言ってない」


「全滅するか?よく考えろ、答えはこれしか無い

愚かなのはどちらだ?合理的かつ事実を述べている

だけだろうが、俺だって言いたく無い事を言って

お前らはあーだこーだ言いながら何を率先して

来た?口だけの奴等が!」


「お前らのが納得する答えをいちいち模索

していけば無駄に時間を食うだけだ

そしてやってくるのは……終わりだ」


「……」


「最後に言う、ここに残れる自分になれる様に

俺達に協力するんだ、そして生き残れる事に

選ばれた家族、自分を想像しろ、

守る為に頑張って来たじゃないか、家族の為に

今それが現実に行えるかは自分達の

判断で決まるんだぞ?よく考えろ?」


会場は騒ぎパニック状態となった。

今や相葉率いる力自慢の軍団が逆らおうとする

者を力で押さえ付けていった。


相葉「勘違いしてる様だが言っておくわ

会社でもどうだ?母体である会社は解雇するだろう

無能な者から排除するのは過去の歴史から見ても

現代から見ても何も変っちゃいないんだよ

余計なものを排除しないと会社自体が潰れるんだ

お前ら会社でもどうだった?働けば金が貰える、

だがさぼりに頭を使い給料が少ない、体勢が悪い

等文句ばかり言って会社自体を危なげに

してきたろうが、言う事聞いて働く奴が報酬を

受け取る価値が有り、それをしないものは優先的に

クビで当然だろうが」


「なりたくてなった職業じゃ無い?あぁ結構だ

やる事をきちんとしていればな、今のこれと何が

違う、同僚か自分がリストラに会うかもしれない時

自分が生き残った時は、よかった自分じゃ無くて

と本心から思うだろう、口では可哀想だ等言って

置きながら直ぐに忘れる奴のことなんざ、

それが今なんだよ、嫌でも従うなら

此処に入れてやる」


「母体である会社が無くなれば働く事すら出来ない

賃金が安かろうがゼロと比較にもならん

そんな事すら解らない馬鹿が多い、

そして今、その金が命という訳だ」


「金は今は食料とも言える、守るものは重役、

つまり俺達だ、役に立たない人間が

会社を倒産に導く」


「それぞれが、男、女の役割、そして能力を

生かせる奴を残すのに間違った事言ってないだろ」


「何をそんなムキになってんだ?別に夜出て行け

なんて御堂の様な酷い事は言ってない、此処以外で

楽しく暮らせばいいだろう?食料も生活保護も

保険も何も無いがな」


「どうだ?現代風に馬鹿なお前等でもわかる様に

説明してやったこれでわからない奴は此処に

居る資格は無い」


近藤は元仲間に押さえつけられながら言った。


「ふざけんな!俺にも子供がいるんだ!」

「子供を守るって言ったじゃねーか!」


相葉「……さっきも言ったろうが、弱い子供は他の

子供に悪影響を与えかねんからだと」


「もう平和な時代じゃない、今こそ淘汰される人間

との区別は仕方ない、そう……お前の家の子供は

『ただの子供というカテゴリ』にはいって

いるだけで弱い子供は守る対象ではないんだよ」


「現実は厳しいなぁ」


男「ふざけんな!」


相葉は仲間に目で合図する、すぐ様仲間の軍団が

集団で男を取り囲み反対する男に暴行を加えた。


執拗に殴られる男を見て周りに恐怖が蔓延していく

男「ヒィゆ、許して……出て行くから」


相葉「最初から素直に従えばいいのに……」

相葉の子供「パパ!酷い!もうやめて!」


相葉「お前は子供だから解らないんだ、黙って

父さんの言う事だけ聞いていればいいんだよ」


「子供達、これが現実だ、社会に於いてもそう

甘え許される時代は去った、今『大人になる時』

それが今なんだ」


「俺だってこんな事したくない、だが社会のルール

が変わっただけなんだ、そう……ルールが」


会場に電気がついているにも関わらず恐怖と絶望

先の見えない状況に暗い空気が色濃くその場所を

支配していった……


御堂「すまない健……父さんカッコつける事が

出来なかった、今までの業と言うやつか

健……父さん……自分でも何が正しいか

よくわからないよ」


健「父さん……嫌だよ出て行かないでよぉ」


マイク放送「あーただいまマイクのテストちう!」


相葉「何だ?誰だ!」


その声が集会所の空気を変える事となる。


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