ファイナルアンサー
誠は一頭の熊に目星を付け猛然と駆け寄り接近する
熊も戦闘態勢を整え猛る姿勢を取った。
誠「威嚇の意味知ってるか?
それはな……俺を恐れてる証拠だ」
威嚇は大抵自分を大きく見せ相手に対し恐怖を
刷り込む、虫や鳥、動物にも同じ事が言える
精神的なものも同じであろう、
この動作は人間も体が大きい事や物事を大きくする
言葉や仕草を【虚勢を張る】とも同じ事が言える。
立ち上がった熊にためらう事なく突進、躊躇ない
スピードに熊のフック気味の平手打ちよりも早く
懐に飛び込んだ、一瞬躊躇すれば誠の首は簡単に
へし折られていただろう……
全力のタックルをかますも熊の巨体は
微動だにしない、大きく身体ごと跳ね返される……
がこれも誠の想定通りだった。
跳ね返された事により距離が木刀の間合いピッタリ
となる、躊躇していれば平手の餌食、そして空を
切った攻撃にすかさず間合いを確保した誠の戦闘
センスは凄まじかった。
躊躇いや恐怖は逆に命を落とす、無謀に見える
突進は自然界に置いて逆に少ない経験に熊も
対処出来なかった。
すかさず右手の木刀を離し括り付けた左手の木刀を
両腕でしっかりと握り野球のバットスイングに
切り替え渾身の打撃を叩き込む、
誠「いただき!身がすくねぇ足狙うぜ!喰らえ!
弁慶の泣き所ぉお!」
メキメキと音を立てて熊が崩れる、足を引きずる
姿勢となった熊が身を引く、すぐに臨戦態勢を
整えるが誠は既にソコには居なかった。
誠は一頭を動けなくし包囲網が崩れた一角を突破
近くのビルへと駆けていた。
誠「ハァハァ危ねぇ……弁慶て熊にもあんのか?
あの場所が弁慶かはしらねぇが上手くいったな」
ビルへ駆ける誠に残り2頭が地響きを立て
走り追い掛ける、牙を口からあからさまに見せ、
涎を垂らしながら肉の塊は駆けた。
背中に伝わる地面の振動が熊接近を誠に体で
伝える。
誠「マジか!早え!」
全速力でビルへと駆ける、そして寸前で到達した
誠はドアを閉めノブを握りしめたがその瞬間
『ドーン!』
ドアに体当たりした熊の衝撃で誠は吹き飛ばされた
流石600キロあろうかと思われる熊のスピードの
乗った体当たりにドアもその形をおもむろに変形
踠き破壊したドア上部から何とか身を乗り出し
中に入ろうとする熊、尖り切った鋭い爪の右手を
ガリガリと音を立ててドアに身を乗り出す。
だが誠も怯みはしない、すかさずクリス戦で見せた
付き攻撃の態勢を取り構える。
「熊さん、顔が丸見えだぜ?」
捻り込む様に渾身の突きを放つ
しかし熊はすかさず手で棒を受けるも凄まじい
突きに、流石に受けきれず手ごと顔面へと
押し出される様に弾け飛んだ。
「チッ!仕留め損なった……か」
隙間は危険と判断した熊は体当たりでドアを
破壊する方向へと攻撃を変えた。
何度も地響きを立て体当たりをする熊
破壊されるまでの時間の猶予は無かった。
すぐ様階段を上がる、2階へ到達後にはドアは
破壊され、熊も誠を追った。
「いらっしゃい~」
其処にはニヤリと笑う誠が居た
2階事務所を見た誠は素早く机を持ち上げ階段を
上がる熊目掛け投げつける。
「喰らえ!デスクアタッークっ」
「ついでにセットだ!オフィスチェアアタッーク」
机は熊を巻き込み一階へと転げ落ちる。
あるだけの机と椅子を投げ終わると一気に屋上まで
駆け上がった。
「ハァハァ……」
後ろを振り向きながらも駆け上がる、一段一段
戦う時は感じなかった痛みが徐々に戻ってゆく
息を切らし屋上のドアまで到達……ドアを手で
回すも開かないドア
『ガチャガチャ……』
こちら側はクリスの担当だ、主要な高い建物は
ドアが開いている筈
クリスを信じ辺りを見渡す……
準備に余念が無い彼の性格を信じた。
「何処だ!何処にある」
無造作に置かれた雑誌に植木鉢、散乱するゴミを
慌て書き出す様に探す。
クリスの性格は慎重だ、無い訳はないと
信じる誠だった。
熊の息が徐々に近づくのがわかる
『フゥ……フッ……』
「三階ってとこか……」
(奴は慎重だ……なら全てに置いて不利と思われる
事はしねぇ筈だ、熊相手だとしても人間対策も
含んで隠す場所……)
雑誌や新聞を束ねてある物を見た
「これか!ナイフを持たせた意味も」
急ぎ縛ってある紐をナイフで切り新聞を
ばら撒く様に探すと鍵はあった。
同時に熊が姿を現した、誠を見た熊もまた階段を
駆け上がる、波打つ脂肪の巨体が迫る中、
ドアを開けた誠が鍵を閉める。
屋上のドアは簡素で鍵は閉めた物の体当たり1発で
歪み変形する。
『ドン!ドドン!……ドン!』
そして遂にドアは破壊され茶色い巨体が
逃げ場の無い屋上へと現れた……
その熊の前に乱れた髪を整えて頭には鉢巻を
しっかり閉めた誠が居た。
誠「さぁ最終決戦だ……」
誠vs熊タイマンの始まりだ。
一気に詰め寄り弱った誠に威嚇はせず
突っ込んで来る熊に転げながらも避ける
すかさず反応の早い熊も右前足の爪で追い討ちを
掛けるが寸前で誠も其れを避けるが上着に爪が
引っ掛かり誠の体ごと3メートルは吹き飛ばした。
『バキバキ!』
誠は滑る様に屋上に干してあったシーツと物干しを
巻き込み転げた。
「イテェ!パワーあり過ぎだろ!裕太かテメェは」
急ぎ纏いつくシーツを剥ぎ立ち上がる誠
「裕太なら力なら対抗出来そうだな……金太郎め
今度あったらからかってやろう……」
「はは……呑気だなおい俺」
ユックリと獲物を追い詰める様に警戒しながら
距離を詰める熊。
満身創痍な誠の目は諦めの言葉は見当たらない程
冗談を言いながらも鋭く熊にメンチを切り続ける。
木刀を床に擦りながら誠も円を描く様に動く
だが熊も左右に動きながらも意図するかの様に
誠の背後に鉄柵しかない場所へと誘導していた。
誠から見ると不適に笑う熊の表情を感じた。
誠「笑ってるのか?ヘヘ……楽しいよな
俺も何だかんだで楽しくなってきたわ」
不気味に笑い合うかの様に見える状況だった。
そして遂に誠は壁の無い側に
追い込まれて行った……
右前足を闘牛の猛る様な仕草で爪を立て
コンクリートの地面を抉る。
砂埃に似た煙状の粉が辺りに霧散した。
誠「……追い詰められちったな」
再び鉢巻を締め直し両手に持つ木刀に力が入る
誠「ここでいいのか?ファイナルアンサー?」
熊「……」
誠「……」
誠「へへっ……」
木刀を熊に突き出しいい顔で笑いながら言い放つ
「来いやぁああ!」
 




