ハードクエスト
誠はユックリと包囲網を展開する様に近づく
熊三頭を前に着ていた服の袖を破り、怪我をした
腕に握れ無い木刀を固定する様に括り付ける。
(クリスすまねぇ、手首痛めてんの本当は左手
なんだけどよ、怪我の少ないお前の体力をこんな
初っ端で使わす訳にはいかねぇんだ、なんかあった
時は……お前が)
熊を睨みながらも怯まない誠
「待たせたな熊ちゃん」
「俺を囲もうって腹か……頭良いな、逃げさねぇて
訳か?だけどな俺も引く気はサラサラねぇぜ?
纏めて来られるより助かるってもんだ、
囲むのは逃げる奴には効果的かもしれねぇが……
「へへっ」
人を見極める程、頭は良くねぇな、
まっ俺も人の……いや熊の事は言えねぇが
俺は……トコトンやるぜ」
握る木刀を2刀流に変え頭に巻くハチマキが風に
なびく……
「元暴走族、楽鬼……いや」
「青葉大学サバイ部、荒木誠行くぜええ!」
ーークリスーー
「しつけーな熊、良いかガキ、距離が今より
狭まったら背中を1回叩け、そして広がったら
2回だいいな」
子供「解った」
距離を一定に置く、その意味は集会所から
遠ざける為であった、子供を置いて一早く誠の
いる場所へと戻りたいクリスだったが集会所が
襲われれば本末転倒、それこそ誠に顔向けが
出来ない、早る気持ちを抑えバイクを
北側へと走らせるのだった。
その間も熊は彼等を追うのをやめようとする事
三回、その度にバイクを反転させ、
エンジンをふかし煽る、それでも此方に興味を
示さない時はブレーキターンの勢いで熊に砂利を
飛ばし威嚇を繰り返した。
北に向かう理由は調査段階で発見したゾンビが居る
場所への誘導策であった。
その作戦は上手くいった、互いが食料と見なす
ゾンビと熊が戦いを始めたのを見極め、クリスは
ゾンビと戦う熊の背後に周り込み、ボウガンを
足に数本叩き込む、怪我を負った熊は攻撃力と
走るスピードを失い、ゾンビ数対と対等の力で応戦
する事となる。
クリス「これで両方の足止めも出来た、ガキ!
良くやった!急ぎ戻る、シッカリ捕まれ!」
子供「僕も集会所で皆んなを守るんだ!迷惑かけた
分も!振り飛ばされてる暇なんかない!行って!」
クリス「……ハッ言うねぇ、いいかガキ、
お前の単独の行動決して褒められたモノじゃねぇが
俺達がお前の行動に意味を持たせてやる
愚かな行為だとしても誰かを守ろうとする
その気高い行動はやがて繋がり大きな渦になる」
子供「……」
クリス「無事済んでお前は集会所から
褒めちぎられんだ!爽快だろ!俺達にその手伝い
させてくれ!子供でもお前は男だ!」
子供「うんっ!」
「じゃ僕とクリスさん、誠さんも一緒に戦う
友達って事だよね」
クリス「友……あぁそうだな」
「と……友達だ」
クリス(友か……俺にそんな資格はねぇがな)
(だが悪くねぇ……いや最高だ!しんどい苦しい!
だが!最高だ!アドレナリンが耳から
吹き出そうだぜ!)
彼等は走った、その1秒、1秒に人の命が掛かって
いる事を骨の髄まで染み込ませながら……
事前準備した走りやすい道を、クリスが誠がゴミを
広い、邪魔な物を排除し準備した道が『今』彼等の
命を繋ぐ時間を太くして行く……
『キー!ブォンブォン!』
「着いたぜガキ……相棒にガキはねぇな、
名前聞いていいか?」
バイクを降り振り向いた子供は元気よく答えた
「僕の名前は御堂!御堂健!」
クリス「御堂?」
「……」
クリス「そうか健……集会所は任せたぞ」
「うん!」
集会所から御堂父とその仲間が駆け寄ってきた。
御堂父「大丈夫か!心配かけるんじゃねぇ!
このバカタレ!俺に恥かかすんじゃねぇ!」
そう言うと手を振り上げ健に平手打ちをした。
健は小さな体ごと地面へと倒れた。
泣きそうになる健にクリスは語りかける。
クリス「相棒……寝てる暇はねぇぞ?」
涙を流し健は立った……
「お父さんゴメンなさい……」
御堂「お前が無事で良かった……」
「お前が連れ出したのか?このクソ野郎!」
御堂仲間「お前達が来てからロクな事が無い!」
「出て行け!」
御堂父「今すぐ追い出してやる!」
「お前ら、病人ごと今すぐ此処から
叩き出して来い!子供を危険な目に
合わせやがって!」
健「違う!違うよ!僕を助けてくれたんだ!」
御堂父は健の言葉に耳をかさなかった、
御堂父「ゴチャゴチャうるせーぞ!ガキが大人の
話に口だすんじゃねぇ!奥で大人しくしとけ!」
クリスは黙って聞いていた。
健「違う……違う」
その言葉はやがて小さくなって行き、
囁き声に変わる。
ハクを連れ出そうとする御堂仲間を追いかけもせず
ただバイクに跨り動かないクリス
御堂父はクリスの前に立ち胸ぐらを掴んで睨むも
一行に動かない。
その目は一点、健から一切目を離さなかった。
連れて行かれる健が振り返りクリスを見た。
健「助けて……お兄さん」
クリスはただ健を見ていた。
クリス「……」
ただ、無言で健を見つめるクリス
健「……僕、今……助けて?」
「違う!」
健は御堂仲間の手を振り払い大声で叫んだ。
「違う!クリスは悪くない!」
2人に駆け寄り胸倉を掴む御堂父とクリスの
間に体を押し込め無理矢理引き剥がした。
健の目はしっかり父を見た。
健「僕は友達だ、僕がクリスさん、集会所の皆んな
父さんも母さんも守る」
御堂父「偉そうに子供のお前に何が出来る!
邪魔だ!どけ!」
そして再び健を平手打ちにしようとするも
当たる寸前クリスはその手をしっかりと止めた。
健「お父さん、僕が集会所を守る、
そしてクリスも僕が……僕が守る!」
御堂父「……お前」
目に涙を一杯にして逆らう我が子を目の前にして
御堂父は困惑した。
クリス「健……いや相棒、集会所は任せたぞ」
健「うん!早く誠さんの所へ行って!
此処は僕に任せて!」
一気にアクセルを吹かせる
『ブウォオオオオン!』
クリス「いいか御堂、健は俺の友で相棒だ……
1回目はいい……だが2回目のような感情で
今度手を出したら俺が黙ってはいない」
そう言い残すとクリスは集会所を出た、
そして誠の居る場所へと急ぐのであった。




