苦闘
クリス「立てるか?」
手を差し伸べるクリスも差し出す誠も傷だらけだ。
誠「……あぁ何とかな」
少しか細い声で返答し2人は熊を見つめた。倒れたその
巨体はピクリとも動かない、目を見るとゾンビ化した
熊では無かった……大抵のゾンビは右脳左脳前頭葉の機
能に反射器官が弱いと思われ瞼の閉じる回数も少なく
充血気味だから判別はしやすい。
熊は本来個別行動するも、野生動物も本能でこの歪ん
だ地球を生き抜く為に群れで行動する様になったのか
は解らない、が……群れで行動していた現実はただ想定
外それだだけであった。そんな事は現代社会に於いて
も災害等理論上でも正確ではないのだから。
【何が起こっても起こった事は必然である】
クリスがバイクに跨りエンジンをかけ状態を確認する。
『キュルキュルキュルキュル……ブォン!』
『ドッドッドッ』
クリス「……無事か」
誠も同じくバイクに跨る……
『キュルキュル……キュル……』
エンジンは掛からなかった。
誠「クソ……駄目か」
『ブォンブゥオン』
バイクを誠の側に付け手招きするクリス。
クリス「交差点東でバイクを補充しよう、乗れ」
誠はクリスのバイクに乗り交差点東の地点へと向かっ
た、その間に予備の木刀をリュックから取り出す誠。
誠「野生は厳しいぜ……もう予備の木刀使う羽目になる
とはな」
クリス「そうだな2匹で既に一台のバイクとバットそれ
にボロボロの俺達だからな、木刀がお前の切り札の武
器か」
クリスは胸のナイフホルダーからサバイバルナイフを
取り出し誠へ手渡した。
誠「ナイフか……あんま好きじゃねーんだよな、それに
後何本か予備もある、いらねぇよ」
クリス「熊に日本刀とかならいざ知らず木刀で挑む自
体が無茶なんだぞ、打撃系の武器は筋肉と脂肪の塊で
ある熊には適切な装備とは言えないぞ」
クリス「念の為だ持っとけ」
誠「俺のポリシーに反するから返すわ」
そう言う誠に多少イラつきながらも呟く。
クリス「後で熊を調理する為と思って持っとけ」
誠を見ると子供の様に嫌な顔をあからさまに見せたが
クリスの真剣な眼差しを誠も理解した。
クリス「いいから!……いや頼む!持っててくれ」
誠「……解った解った」
彼等2人が走らせる道の隣筋通りから悲鳴と共に熊の唸
り声が聞こえる。
クリス「人の悲鳴だ!誰も居ない筈では」
誠「子供?」
耳をすませ声の元を辿る、
「……いや間違いない!子供の声だ!急げ!」
バイクを反転させアクセルを全開に交差点とは離れた
隣の筋通りをまた西側に向かい急ぐ、そして2人の目に
映ったのは今にも子供が襲われそうになっている光景
だった。
腰を抜かし後ずさる子供にノシノシと近づく熊。
クリス「チッ……突っ込むぞ!」
誠「ああ!ぶちかませ!」
アクセルを回し2人の乗るバイクが加速する。
誠「もっと加速しろ!ボケ!」
クリス「これ以上は、無理だ!このままぶつけるにも
お前もわかってんだろ!バイクは後部にいる方がコケ
た時ヤベェって事位よ!お前が危ねぇんだよ!」
誠「ツベコベ言わず回せ!俺は大人だ、そして襲われ
てるのは子供だ!このままだと子供は確実に殺される、
大人が子供守らねぇで誰が守るんだ!」
クリス「……だが」
誠「心配してくれてんだよな……だがな俺は必ず立ち
上がるから心配すんな」
クリス「……」
クリス「……わかった」
「しっかり必ず立ち上がれ!このクソヤンキー!」
「行くぞ!オラァアア!」
誠「いけ!かっ飛ばせ!」
フルスロットルでバイクは駆けた、軽くウィリー気味
に加速するバイクは後輪の凄じい摩擦にアスファルト
から煙を立てロケットの様に一気に熊目掛け突っ込ん
だ、泣き叫ぶ子供の前にいた熊が立ち上がり咆哮する、
時間はもう無い、限界までアクセルを回すクリス。
クリス「届けぇえ!」
襲う熊の横から鉄の塊のバイクが加速をつけぶち当た
る、肉の塊と鉄の塊がぶつかり合う重低音の様な衝撃
音が辺りに響き渡った。
凄まじい衝撃が辺りの砂を巻き上げ視界を遮った、強
い衝撃音の後辺りに静けさが漂う……
「……」
バイクの転がる音はサーキットで見る転倒シーンの様
に音だけでも数回跳ねる様に転げ飛んだとわかる金属
音だけを奏でた……
泣き叫ぶ子供の声以外、止まったバイクから車輪から
フレームが曲がりカタカタと走りの余韻を奏でるかの
様に音がする、やがて冬の北風が辺りを吹き荒び土煙
りを飛ばして全容が露わになった。
倒れるクリスが少し身震いをさせユックリと地面に
手を付き身を起こす……
「ペッ」
口に入った砂を徐に吐き出し立ち上がった。
「クソ!痛てぇ!」
悪態を吐きながらも子供の側へ走り寄り服についた砂
埃を払いながら怪我が無いか確かめるも無傷に安心の
ため息をつく、
クリス「良かった……痛く無いか?怪我はないか?」
子供「……うん」
「誠は?誠は何処だ!」
辺りをキョロキョロ見渡し探すも姿は見えず……。
「誠!何処だ!返事しろ!」
「……」
「おい!ヤンキー!約束したじゃねーか!立ち上がれ!
クソ野郎!」
「……」
「おい……マジかよ」
すると離れた場所から手が上がったかと思うと誠は立
ち上がった。腕からの出血が酷く右手で左手を支える
様に立った。
クリスが側に駆け寄り無事を確かめる。
クリス「おい大丈夫か?」
誠「……」
「俺はヤンキーじゃねぇ」
誠の腕に包帯を巻き止血しながらも喜んだ。
クリス「……プッそうかそうか!大丈夫なんだな、安心
しろお前はヤンキーだ!筋金入りのな!」
それはクリスにとっては最高の褒め言葉として口に出
したものだった。
誠「ヤンキーじゃねぇって言ってんだろボケ」
クリス「あぁ何でもいいさ……よしじゃあ、お前は休め、
こんな所まで飛んだんだ、無事な筈は無い後は俺に任せ
ろ」
誠「バーカ、休んでる暇なんぞあるか……お前はその子
連れて集会所まで行け」
クリス「馬鹿野郎そんな傷で何言ってやがんだ!」
だがクリスの背中側、距離は50メートルに位置する場
所に新たな熊が3頭近づいていた……
クリス「……そう言う事か」
腰に携えたナイフを抜こうとするも誠が抑止する。
クリス「ならお前が連れて行け、此処は俺に任せて、
な?そうしろ」
乱れた髪をかき上げ誠が子供の頭を摩りながら言った。
誠「もう大丈夫だ、今此処の性格のクソ悪い兄ちゃん
がお前を集会所まで連れてってくれるからな」
誠「生憎、さっきの転倒で右手首痛めてな……お前が行っ
てくれ」
クリス「馬鹿野郎!それなら尚更お前が!」
誠「さっきお前のわがまま聞いたろ?今度は俺の番だ
ろうが、アクセル回せねぇんだよ!早く行け!」
クリス「……クソくそ!解った!」
誠「へっ素直でいい子だクリスちゃん」
クリス「……直ぐ戻る、無事でいろ必ずだぞ?」
弾1発が入った銃を誠に投げる、ソレを受け取る誠。
誠「あぁ……必ずだ」
クリスは嫌々ながらも優先すべきは子供の安全、ソレ
は彼自身も同じ気持ちだったが熊3頭の前に誠を残し行
く事に身を引き裂かれる様な気持ちでバイクを走らせ
たのだった。
クリス「クソ!なんだってんだ!晴もだ!ハクもだ!
誠もだ!アイツら自殺志願者か!」
(2人がかりで2頭撃破が精一杯だったクセに三頭、そ
して怪我、バイクも無いんだぞ……)
「おいガキ!何で1人で彼処に居た」
子供「ゴメンなさいゴメンなさい……」
クリス「いいから答えろ」
子供「僕のお父さんがお兄さん達を追い出す話を聞いて
……今夜なんでしょ?ご飯や薬が有れば、有れば喧嘩し
なくていいと思って……ゴメンなさい」
クリス(……優しさの負の連鎖か)
「お前はお前で戦ったんだな……そして俺達の為に、
お前も立派な戦士だったんだな」
子供「でもでもゴメンなさい、こんな事になるなんて」
泣きじゃくる子供の幼気な優しさに攻める気等はさら
さらは無いクリスだった。
クリス「もう泣くな、お前は立派な男だ、いいか?誠
はやられない(そうだアイツが簡単にくたばる訳はね
ぇ!俺が信じ無いでどうする)今度はお前が集会所を
守る番だ、出来る事をやれ、無謀と勇気は違う、頭で
考えろ、お前の出来る事を、大人だ子供だ何て言って
る環境じゃねぇからな」
子供「僕に出来る事……」
クリス「そうだ、人には役割ってのがある、俺はお前
を1人の男として仲間としてお前に集会所を託す、そし
て俺は俺のなすべき事を為す……俺達で集会所の皆、
守ってやろうぜ?」
子供は頷き涙を拭った……
クリス「ホレ」
バイクの後ろの子供に拳を突き立てる、ソレを見た子
供も拳を当てがい互いが意志を固めた。
子供「あ!お兄さん!背後から熊が追いかけて来てる!」
クリス「問題ねぇ!おい相棒!子供扱いしねーぞ!しっ
かり俺に捕まれ!」
子供「解ってる!僕も男だから!」
クリス「……へっ泣けてくるわ」
「よーし!飛ばすぞ!」
(誠待ってろ!出来れば建物に逃げて凌いでくれよ……)




