籠城④
ーー廃墟ーー
「おっと、寝ちまった……」
朝だった、雲は怪しかったが雨は止んでいた、飛
び起きるとすぐに手元にあったドラグノフのスコー
プを覗き込みハクの様子を伺った。
「生きてるのかなぁハクちゃんは……」
覗き込むハクは慌ただしく何か準備をしていた。
「……?」
「体調悪いくせに何慌ててんだ?」
スコープでハクの居る建物付近を探る……
「何かマズい環境でもなってんのか?」
右、左そして奥、慎重に辺りを探るも何も変化は
感じられなかった。
有るとすればゾンビの数が結構減っていた、大人
しくするハクに獲物を見失ったかのように霧散し
ていくゾンビ、だがそれでも簡単に脱出出来る数
では無い……だがハクなら何か面白い手でも考え
てるのか?……などと期待で胸躍るクリスだった。
「ふむふむ何をしてるんんだろう……何やら手に
ハンマーを持ち始めたぞ……」
「左手で鉄パイプを持ったな……曲げようとして
るのか?いくら細めの鉄パイプとは言え頑丈そう
な物を選んだな、簡単には曲がらねぇぞ……」
やがて少し離れたクリスが居る場所にもハンマー
の打ち付ける音が聞こえて来た。
『カァーン……カァーン……』
「あーぁ顔が真っ青じゃねぇか……」
「あ……吐いた」
「ホラホラ、無理するからじゃんハクちゃん、そ
れにゾンビが音に反応して、うじゃうじゃ集まっ
て来てんじゃん、何をしようとしてるか解らない
が……その選択肢、賢いとは言えないぜ?」
入れ立てのコーヒーをいつのも様に口にして鼻歌
混じりで観察を続ける、時間は刻々と過ぎるも鳴
り続け響く打撃音、缶詰を食べ、あくびをしなが
らテレビでも見てるかの様にトンカチを叩くハク
を見つめて2時間が経とうとしていた。
ハクはよろめきながら、その建物から落ちそうに
なる場面もチラホラする、その度に、無意識に安
堵のため息を出すクリスだった。
「おいおい……つまんねぇ終わり方したら承知し
ねぇぞ、もういっそ此処で撃っちまうのが優しさっ
てもんか?」
(だが……わからねぇ、何作ってんだ、危険を犯
してまで……助かる道は朝のあのゾンビが少し減っ
た時間だった筈、それ程体力が残ってないのか?
確かにHPはもう殆どない筈だし……だが2時間も
ハンマー振り続ける体力があったなら逃げれた気
がしないでも無いが)
「よくわからん奴だとは思っていたが……やっぱ
わからんな奴は、愚かな行為を繰り返す、愚か君
とでも名付けてやろうか」
下らない発想に自分で笑うクリス。
お腹一杯になりハクの様子を再び見ると、ハクは
その建物横にある電線のはしる鉄塔に懸命に鉄パ
イプを曲げて作った、ちょうど『?』の形をした
フック状の物にロープを繋げた道具を懸命に投げ、
引っ掛けようとしている。
「鉄パイプをフック状にしてた訳か……普通のフッ
クじゃ大きさが足りないから作ってた訳ねぇ」
近くの場所を確認するーー
「鉄塔からの脱出ねぇ、まぁ悪くは無い……が、
やはり愚かか、さっきの朝のタイミングより賢い
とは言えないな愚か君」
まるで観察するついでに状況を分析してみた。
「君の体力であの鉄塔を渡るには相当な体力が必
要だぞ、電気は通って無いだろうが、それに風も
強い、雨も凌げない、風邪を引いて熱もある、クー
ルじゃ無いぜ……やり方全てが」
「奴に期待した俺の見当違いだったか……」
電柱は何故か破壊しないグリマンだった、それは
何故か?何か理由があっての事だろう、建物を破
壊するにも縦や斜めに切った後は確かに多かった、
理由がある筈だ、後に異星人がそれを使う考えは
捨てきれない、人類の生き残り発見の為に衛星を
残した意味とも繋がる、だが2人には見当もつかな
かった、だが恐らく後者だろう。
30分かけようやくフックが自分の居る高さから紐
の限界近くの高さにある鉄柱を捕らえる、体をロー
プを縛り、クッションになりそうなものを片っ端
から体に巻きつけるハクの様子が見える。
跳び移る際に振り子の原理で鉄塔に体をぶつける
衝撃を和らげる為だろう、なんせ飛び移るのだか
ら勢いは凄まじい、骨が折れる程の衝撃が鉄柱に
ぶつかった際に生じる事だろう、それを考えての
保険である。
「ようやく移動か……ん?」
ハクはその建物から何やら大きく壁に文字を書い
ていた。
『……何々?おにぎり美味かったよ』
『あり……』『がと……う』
「おいおいバレてんじゃねーか此処に俺が居るっ
て事、やぱ油断出来ない奴だなぁ」
面白そうな場面に食い入るように見るクリス。
「おっまだ続きがあんのか、どれどれ……」
『その建物……』『柱が……倒れ』『……そう』
「……倒れ?」
「何!」
クリスは慌て身を起こし辺りを見廻した、確かに
異音はしていた、ミシミシと……よく見ると最初
みたヒビがかなり大きくなっていた事にようやく
気付いた。
「クソ、毎日同じ景色だから気付かなかったか!
俺とした事が」
急ぎ、辺りに逃げる方法を探るも脱出ルートの答
えは出なかった、彼は備蓄も多く時間を掛ければ
ゾンビは去る算段をしていたからこそ兵然として
いたのだった。
「まずった……」
そして再びスコープを覗くと既にハクの姿は見えな
かった、だが壁に書かれた文字には続きがあり其
れを読むクリス。
『其処から動かないで、今……行くから』
「は?」
「……行く⁈」
スコープを鉄塔に向けハクを探すと彼は其処に居
た、鉄塔にミノムシの様にぶら下がったハクは体
に巻きつけた耐衝撃様のモノをナイフで切り体重
を軽くして懸命に紐をよじ登っていく。
雨で濡れた服等が地面へと落ちて行くのが見える。
「お……い』『……何故?来る」
「お前だけなら逃げれたろうが……俺は優雅にお
前を見てたんだ……ぜ?まさか助けに?その体で
その体調で?」
まだ彼はそんな都合のいい話は到底信じる事は出
来ずにいた。
口から出た言葉はーー
「馬鹿じゃねーのかアイツ本当の、まぁいいや、
どうせ家族の事もわからねぇ、今、俺がどうなろ
うと別に誰も構やしねぇ……」
空を見上げ囁いた。
「クソッタレな世の中に未練もねぇ……」
自分でも気付かない程の少し寂しそうな表情を浮
かべ……
「そうだな……」
「未練はねぇ……こうなったら最後まで鑑賞させ
てもらいましょうかね……愚か君、まっ俺もトン
マだけどな」
蠢くゾンビにいつ倒れるかわからないクリスの居
る廃墟、そして其処に近づこうとするハク、しか
し時間はあまり残されては居なかった。
【今日のポイント】
鉄塔(鉄柱)緊急時には人が乗っても切れない強
度は過去の事件等で見た事はあるだろう、しかし
危険は極まりないが、地面に降りず、危険を回避
する第二の道路としての使い方もあるだろう。
しかし彼等の様な緊急時においてに限るだろう、
普段は電圧6000ボルト級の電気が送電される訳
だからだ。
ゾンビ社会に置いても危険であるが人の手の入ら
なくなった送電線等は腐食や老朽化に高度が落ち
る可能性も高い事からお勧めはしないが……
高度が上がると風も強い事を頭に入れとこう。




