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幼きクリス⑤


俺は奴等に言った。

「……おい」

殺意のある口調だったかも知れない、振り向く仲

間達、グレーの目に小汚い服、そして現実を知っ

た今、俺の目に映る奴らはゴブリン以下のクソ野

郎共だ……


俺は仲間の1人1人に目をやりその姿を焼き付けた

そして静かに目を閉じて上を向いた……普段ある

景色、だが気にも留めなかった屋根に埃が積もり

視界に入っていたであろうが気付きもしなかった

周りをしばし眺めた。


置いてかれた事、彼等の真実の自分への存在価値

醜悪で猥褻な大人達の事、そして社会やこの国の

事、再び口を開いた俺が出た言葉は同じだった。

「……おい」

ダレン「っだよウッセーな!」

「……」

そして……

俺は……


握り締めた鉄の塊を奴等に向けて差し出した。

ダレン「お、お前……」

ゴーシュ「何んだよ……それ」

カールソン「俺達仲間……だろ」

エルロ「……」


人生って何だろな


人って何だろね


その時の彼等の顔は今でもハッキリと覚えている。

俺は……決断した。


クリスの出した手は右手の銃ではなく左手に握り

しめられた硬貨だった。

クリス「……暫く顔見せなかったからお詫びだ」

エルロ「カペイカ通貨かよ」

カールソン「まだあんだろ?仲間だからな

分け合おうぜ!」

エルロ「……足らないよ全然」

クリスは包帯でグルグル巻きになった痛々しい手

でポケットから更に1枚の5000ルーブル紙幣を彼等

の前に突きだす。


ダレン「おわっ!もってんじゃねーか!」

持っていた紙幣を手から離すとヒラヒラと落ちて

ゆく金をジッと見つめる、右や左に揺れながら落

ちる紙幣に人生重ねた。


揺れ動く金、人を巡り掴もうとしても手をすり抜

けてゆく金……そして逆らえない重力に今の自分

を見た……足掻いた所で行き着く場所は地面、そ

して最後に落ちた地面の金は落ちようが存在は金

である価値にーー

クリス「……拾えよ」


それに群がる仲間達、それを見下ろし眺めるクリ

スだった。

(……これがここの生き方なんだ、俺はコイツら

無しでは稼げねぇそれが現実だ、今は)

クリス「詫びだよ、取っといて……」

その時の俺は酷く冷たい目をしていただろう。


彼等にとって悪は悪では無い、それが当たり前の

環境で育った彼等や、その親も含めコレが生活で

ここでは当たり前だからわからない事に、


(復讐するにも力が足りねぇ……先ずは自分を生

かす力をつけてからだ、今此処でコイツらを殺っ

て何になる、それこそ俺は詰みだ……俺の人生ゲー

ムはまだ始まったばかりだ)


それからの俺は此処で生きる知恵や生き方をコイ

ツらから学んだ、それだけじゃねぇ、もっと強く

ならねば自分自身はおろか守りたいモンすら守れ

ねぇ……これが現実だ。

『人を信用しない』(裏切られる事はねぇ)

『社会を信用しない』(どうせ何もしてくれねぇ)

『そして……自分を信用しない』(心は邪魔だ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『人は利用』(裏切る側なら裏切られる事は無い)

『社会は人を操作する』(俺が人支配する)

『そして……自分を封印する』(強くなる)


俺はしたたかに生きた、生きるコツを熟知し更に

其れを高める努力を惜しまなかった、遊び呆けて

る奴らを尻目に俺は努力し続けた。


そして俺が15になった頃にはダレンを押し除けこ

このリーダーになっていた、そして俺はもっと深

い闇に手を染めていく……

生きる為に……

愛する家族の為に……

俺は16となった時、初めて彼女が出来た。

彼女の名はミラナ。


彼女の家庭は複雑だった、言葉では言えないよう

な仕打ちを受け施設へと入るも、空爆でその居場

所すら失った彼女を俺達が仲間に引き入れた。


此処では仲間と連まなきゃ汚い大人の人身売買の

獲物になりかねない、子供は子供なりに自衛の為

に身を守る術を持たねば長生きは出来ねぇ、彼女

は俺の母さんとも仲良くしてくれた、気立てが良

く、人を恐れる傾向はあったが、俺や母さんには

心を開いてくれた。俺にも守るべき人間が二人に

増えたわけだ、今や俺のチームはこの地区界隈では

逆らう者は居なくなっていた、内戦にも参加した、

マフィアに誘い入れられてからは、余計力が増す。


まぁ汚い世界だが俺は子供ギャングから大人のギャ

ングへとレベルアップしたって事だ。


そこに入ったのも家族や仲間を守る為だった、汚

い大人への防護策はその汚い大人を統べる物のよ

り強い力が必要だったからだ、俺の家族や彼女に

手を出すボンクラはこの町にはもう居ない、俺は

あの時復讐しなくて正解だった。


金にもそんな困る事はなくなっていた、溜まり場

には好きなゲームもある、俺を救ってくれたゲーム

知識、そしてゲーム内の世界は俺をこの薄汚い世

界から現実逃避させてくれる……銃は手放した事

はない、ゲームの世界に居ても俺は心から安心し

た事はない。


『家族だけだ……安心できるのは』


今や復讐等どうでもいい話になっていた、一時の

感情の恐ろしさを今思う、あの時、衝動に駆られ

ていれば確実に今は無い、俺が戦地でも仕事でも

上手く立ち回れたのは人を信じる事をしないから

だと思っている。


ーー信じず利用するーー


この世は使う者と使われる者の2種類しかいない

外の俺は人を人だとは思わない、無造作に湧きで

るCPUキャラクター扱いはそれそのものだった。


だが心は……寒かった、心の囲炉裏は家族のみだっ

た、だが家族の為に心を捨てた俺に俺と言う存在

価値はあるのだろうか……家族と居る俺と外の俺

どちらが俺なんだ、俺は誰なんだ……


心を持たぬ俺は機械なのか……そもそも心とは何

だ……必要なモノなのか。

俺は人が……嫌いだ

嫌いだ……

そして……寒い


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