幼きクリス④
穴からの生還を果たしたクリス、しかし休む暇は
無い、母が心配しているだろう、俺は身を起こし
動かなくなった腕と足を引き摺って帰路に向かう。
その途中にはエルロの家を通り過ぎる、彼もまた
貧しく家と言っても窓も無いただの小屋側を通り
その家の壁に身を置いた。
聞こえてくる話し声……
エルロ母「アンタ、クリスとはまだつるんでるの?
あの家庭は追われてこの地へ来たの、まぁ此処じゃ
普通の話なんだけどさ、噂ではマフィアの愛人か
なんかだという話もあるわトバッチリは御免だよ
稼ぐにしたって相手を選びな」
エルロ「大丈夫だよ母さん、仲間もあいつの事は
本当の仲間だとは思ってないから、鈍臭いし仕事
の邪魔なんだよね」
確かに慣れない地域と裕福では無かったが一時は
平和に過ごしたクリスが彼等とつるみ仕事を覚え
るのに手間取った事は仕方なかった、現実だった。
クリスが来る前は仲間で一番鈍臭いのはエルロだっ
た、だからエルロはクリスに近付いたのかも知れ
ない、自分より劣る相手とつるむ事で自分の価値
を高めたのだろう。
クリス「……へっそう思ってたのか」
痛む足や腕よりも心が痛かった、その場を去り足
は家へと向かった、悲しさを原動力に愛してくれ
る母の側に一刻も早く行きたいと願う歩速は早まる。
そして家に着いた……母は泣いていた、その姿を
見た時、俺の出した答えと行動は正しかったと思
えた、俺が苦労したあの瞬間はこの抱き締められ
る絶対的な愛の為、暖かい母の温もりに今まで以
上の安らぎを覚えた。
そしてそれはただ単に自分の命を守っただけでは
無く、母が俺を思う気持ちをも救ったと幼心に思
ったのだった。
俺は疲労からか高熱を出し5日間寝込んだ……そし
て回復した時、俺は一人町に出かけ大人から奪っ
た銃を手に入れ、仲間の元へ戻った、弾は5発、仲
間は5人……右のポケットに隠す銃を握り締め、左
のポケットには小銭を握りしめてーー
俺は仲間の集まる小屋の外に着いて、直ぐには
入らず仲間達の話に聞き耳を立てた。
ダレン「おいもう6日も経つがクリスの奴来ない
な……」
エルロ「あぁクリス?少し前に穴に落ちてたよ、
俺だけじゃ助けられなくて置いてきた」
カールソン「置いてきたのかよ、ひっでーな」
エルロ「だって落ちたのはアイツのヘマだったし
俺だって助けようとしたさ、でも大人は誰も俺達
の話なんか聞いてくれないし、助けを求めても来
てくれる訳ないじゃないか」
ゴーシュ「まぁそうだな、コソ泥が一人減れば向
こうも助かるってもんだからな……」
ダレン「一人消えたって誰も気に留めないからな
此処じゃ、だが一人消えたってなると仕事の分担
がなぁ」
エルロ「彼は役に立たないって言ってたじゃんダ
レンがさ、いや皆もそうだ」
ダレン「まぁ確かにそうだな、アイツが居た所で
足手纏いだったな、まぁ正直面倒だったんだよね」
ゴーシュ「あー俺も思ってた!」
カールソン「俺も俺も、最初は俺がクリスと組ま
されるんじゃ無いかと冷や冷やしたぜ」
エルロ「酷いよみんな、厄介な事はみんな俺に押
し付けるんだから……」
そう言うと仲間達は笑い合っていた……思わず右
手に隠す銃を握る手に力が入るのを感じる……。
仲間のリーダーはダレンだ
レベルは10 戦闘能力は30
他はいい所レベル5だ 戦闘能力は20
エルロはレベル3 戦闘能力は15
そして俺は……レベル2残念ながら戦闘能力は10
だが俺は拳銃を手に入れた。ゲームの世界で言う
聖剣ってとこか
大人はレベル30てとこか基本戦闘能力は50、だが
今の俺は大人だって指一つで倒せるそうレベルは
低くてもチート武器を持っている、今の俺はレベ
ル2でありながら戦闘能力は拳銃チートのおかげで
100てとこか。
用心深く小屋の外に側にあった小石を投げると、
その音に気付き仲間達が気付く。
ダレン「おっとお喋りは此処までだ、ひょっとし
てクリスじゃ無いか?運のいい奴だな、助けられ
たのか」
そして間を置いた俺は小屋に入った、無論今の話
を聞いてない前提にする為だ。
したたかに、そして自分の力で俺は這い上がる決
意した顔で……
ポケットに隠した銃を握りしめて……
クリス「久しぶり」
エルロ「無事だったんだね!心配したよ!」
俺はエルロの顔を見た、さぞかし気まずい顔をし
てるのだろうと……
しかし違った……
彼は悪びれる事もなく兵然としていた、だがそれ
は、穴で感じた優しさや思い遣りを知らないから
かも知れなかった、この場のこの社会ではコレが
……『普通』なんだ、そう思った。
仲間がクリスの周りに集まって彼の無事を喜んだ
だがそれは裏の顔を知ったクリスにとって反吐が
出る程に吐く息ですらヘドロの様に感じた。
今までは普通に仲間だと思っていた時には全く
思わなかった、醜悪で汚く荒んだ肉の塊め!それ
以外思わなかった。
ダレン「さっ、じゃあ大切な仲間が揃った事だし
仕事だ仕事!」
そう言うと何時もの通り町の地図を広げ、観光客を
狙ったスリの作戦を練り始めた、クリスの前に地
図を囲む仲間、それを見つめるクリス。
クリスの目の前に曝け出される無防備な背中が5つ
ゴーシュが地図を見ながら背中を見せたままクリ
スに話しかける。
「おい何やってんだよ早く来いよ」
クリス「……」
「あぁ……」
握る両手に力が入り静かに手をポケットから出し
彼等の背中に向けて鉄の塊を向け、そして少し間
を開け口を開いた、薄暗い電球の明かりが何処か
らともなく入る冷たい隙間風で揺れ幻想的な空間
だった……震える体が一瞬止まった。
クリス「……おい」




