幼きクリス②
栗栖10歳
ロシアで日本の名前は外国人と丸わかりだ、そし
て金持ちの多い日本人となれば金にたかる糞か無
ければ妬みによる差別は確実だ、こう言った国か
ら見れば日本はテーマパークのような夢の国だ、
こう言った事を想定しての栗栖ではなくクリスと
言う名前にしたのだろう。
俺はその名の通りクリスと自分の名を言っていた。
寒さの激しい日だった、俺は仲間といつもの日課
コソ泥に明け暮れてた、1日一食、パンでもあり
つけたらパーティー気分だった、この時は町でも
少しばかり有名なレストランのゴミを狙っていた。
今日は忙しいらしく残飯も大量に出そうだ。、ロ
シアの冬は寒い、食べ物も腐り難い状況下での残
飯は有り難いものだった、3時間ひたすらゴミを出
すのを待った俺達は夜もふけ深夜0時頃になりよう
やくゴミを出しに来た店員の隙を突き残飯を漁っ
ていた、毎日の様に、生きる為だ、平和ボケした
市民には飯は出て当たり前、働こうが働かなくて
も何処かしら飯が湧いてくる、お前らっ残飯を美
味しく頂くものの気持ちがわかるか?人の食いさ
し他人の水知らぬおっさんが齧ったものでも食い
物の味は変わらねぇ、空腹に人生の終わりを感じ
た事があるか?寒さに寝れねぇ夜を味わった事が
あるか?人の悪意剥き出しの世界で1人放り出され
て抵抗する力も持たず夜を過ごせるか?
明るい笑い声に豪華な食事、その時の僕の目には
違う人種……いや別次元の人間達の様に僕の目に
は映った。
壁一枚で変わる環境……明るい家族、豪華な服、
温かいご飯、明日は何しようか……なんて話し声
が聞こえる。
その空間からたった1メートルの差が極貧に凍える
寒さ、明日どうなるか解らない現状、予定は何と
か生きる事に食べる事……僕達に時間と言うモノも
与えられてはいないのだ。
子供が言った「明日も暇だ……」
そんな言葉が耳に入る、彼等にはそのあまり余っ
た時間で毎日当然のように出される食事、そして
教育、将来は自分の力で金を稼ぐ力を身に付けて
いくのだろう。
僕達は……この一瞬、そして彼等に当然とでも言
う様な教育の中に『暇』という僕達には感じる事
すら与えられない現状、そして1日1日『暇』を
持て余した彼等と生活に追われ『暇』と言うもの
が存在しない僕らと未来の差が広がって行くのだ。
今もこうして……
今夜はどうもパーティーがあった様だ、何時もよ
りゴミが豪華だった、ひたすら喜んでいた俺らだっ
たがパーティーとなると何時もよりゴミが多く出
される事に気付かなかった……
2度目のゴミ出しの時、漁っている俺達を店員が見
つけ俺達は逃げた。
「まてコラ!毎回毎回漁りやがって!後の掃除、
誰がやってると思ってんだ!クソ餓鬼!」
毎回ゴミを漁る俺達に苛立っていた大人達は俺達
を捕まえ殴る蹴るの暴行にただ耐えるしかなかっ
た、寒さで体が上手く動かない俺達は直ぐに捕まっ
た。
「オラオラ!今日は客に文句言われて丁度ムカつ
いてたんだよ!」
クリス「すいません……すいません」
右、左、拳が子供の俺の頬にぶち当たる、馬乗り
になって殴ってた店員の顔は少し笑っている様に
も見えた。
血が口の中で暖かい……そんな感覚を痛みより強
く感じた事を覚えている、手足は寒さの中待って
いた事により感覚はなく、それは殴られる痛みを
も消し去っていた。
こういう事があると、その時は平気なのに後にな
ると感覚が戻り激痛を伴うのだ。
俺達は引きずられ町の外れの森に連れて行かれた。
其処は小さな、それでも子供には大きい穴が空い
ていた、其処に無造作に放り込まれた二人だった。
クリス「イチチ……大丈夫?エルロ」
エルロ「大丈夫……っておいクリス!」
「ブッ……前歯折れて無くなってるぞ」
クリス「ホント?」
ざっくり切れた口に手を当てるといつもある筈の
感触が口に無い、確かに折れてる様だった、痛かっ
たケド二人は笑い合った。
クリス「まぁ乳歯だし生えてくるしいいさ」
エルロ「だけど困ったね……この高さじゃ」
空を見上げる景色が降り注ぐ雪で見え辛い。
二人は声が枯れんばかりに大声で助けを呼んだ、
しかし無情にも反応は何もなかった、空気は乾燥
し声を張り上げるのにも口の中の水分が持ってい
かれる感覚がする。
やがて声を出すのも諦めた……
□恐怖一歩□
僕達は身を寄せ合い30分が立った。
何時間も経った気がする程その時間は長く寂しい
音は木から落ちる降り積もった雪が落ちる音、吹
き荒ぶ風、それだけだった……。
互いの足や手を体に密着させて凍傷を防ぎながら
助けを待つ、しかし寒さにこの町だ……穴に落ち
た子供がどうなろうが意に関するものでもなかっ
た。
□恐怖2歩□
此処は内戦も激しく警察等と言うものは存在はし
ないからだ。
エルロ「どうしよう……このままじゃ
本当に俺達」
クリス「その先は言うな!言ったらそうなるぞ!」
俺は考えた、最初は恐怖を感じると言うより店員
の暴行が終わるという喜びの方が勝っていた、ま
さかこんな恐ろしい感覚が人間には備わっている
とは思わなかった。
「絶望……そして」
□恐怖3歩□
それは徐々に近づいてくる足音に感じた、頭に降
り積もる雪が飛ぶ位、頭を振り恐怖を力で払おう
とするが1分、そして2分、時間が増える度にその
恐怖は力を増して行った、寒さが尚それに加担す
る。
クリス「誰もアテに出来ないなら何とか僕らの力
で切り抜けよう」
クリスは立ち上がった。
「この高さなら肩車すれば上がれるんじゃ無いか
な?」
エルロ「どっちが上?」
クリス「俺のが体重軽いから俺が上になるよ」
エルロ「……」
クリス「どうしたの?」
エルロ「置いて行く気だろう……」
クリス「ばっバカ言うなよ!置いて行く訳ないじゃ
無いか!」
恐怖に正常な考えが出来ないのかエルロは首を縦
に振る事はなかった。
エルロ「みんなそうだ、そうやって僕を置いて行
く僕は人を信用なんか!信用なんかするもんか!」
クリス「……」
幼少期を普通の暮らしをしていた自分には解らな
い何かが彼をそう思い込ませているのか……
クリス「わかった!じゃ僕が下で支えるからエル
ロは先に上がって誰か呼んできてよ」
エルロはやっと首を縦に振った、体重の重い少し
デブな彼を支えるのは大変だったが何度も体勢を
崩し膝がズルむけになりズボンから血が滲む。
エルロも必死に手を伸ばし穴の淵で体重を少しで
もかけまいと奮闘する、僕はそのエルロの姿を見
て奮闘した。【助けたい】そう思った。
エルロの奮闘はただ助かりたいだけなのか解らな
かったが俺の負担を軽くする為の行為に幼い僕の
目には映った、最後の力を振り絞り彼を持ち上げ、
脱出に成功したエルロ、
クリス「……やった」
僕は力を使い過ぎたのか殴られた口と擦り剥けた
膝の出血で体力が無いのか、その穴の場でへたり
込んだ足首に激痛が走る。
「痛てっ!」
エルロ「どうしたの?大丈夫?」
クリス「足挫したみたい……」
エルロ「それじゃ上がれないじゃない」
クリス「そうだね、人呼んできて」
エルロ「わかった!でもこの時間だし人がいなかっ
たら諦めてね」
クリス「……それどう言う意味?」
エルロ「そのまんまの意味だよ?誰もがそうする
しそうやって僕達は自分の身を守って来たんだ、
助けてもらって言うのも何だけどクリスは甘過ぎ
だね、そんなんじゃこの先一緒に行動しても、い
つか仲間を巻き込むよ?」
俺はエルロが何を言ってるかわからなかった、だ
が今なら、ハク達を見た後なら少しわかる気がす
る、時男達がそうだった様に優しさを見た事が無
い者達はその意味が、その行動自体が『解らない』
のだとーー上手くは言えないがきっとそうなんだ
と思う。
エルロは去った、だが彼が助けを連れて来ると俺
は信じて疑わなかった。
しかし待てど暮らせど助けは来なかった……
寒さの中、横たわる雪が冷たい事も忘れ、何故か
涙が出た、しかし寒さはその涙すら凍らせ、目
は開かなくなり暗闇だけが僕を支配して行った……
 




