幼きクリス①
俺はガキの頃は人が好きだった……
育った町は裕福な者が一部、大概は貧乏人だ、金
持ちは俺達、貧乏人を食い物にして犯罪に手を染
めさせる、その荒稼ぎした金で毎日、優雅で楽し
くやってる訳だ。
幼少期の頃はまだまともな暮らしをしていた。見
た事ない親父が日本人らしく仕送りがあったそう
だ、、それも俺が5歳の頃位から止まり、母は貯金
を切り崩し俺を育ててくれていた、仕送りの殆ど
は将来の俺の為に残そうとしてくれていたが仕送
りが止まって暫くした時、悪い事は続く、内戦激
しいこの国では、同じ国の人同士が争い殺し合う。
隣の仲良くしてくれていたと思っていたお兄さん
がある日、突然家に銃を持って入ってきた、国の
為だと言い、母の想いの詰まったその金を奪って
行った……。
何が正義だ……
何が国の為だ……
お前らの勝手に始めた戦争に俺達を巻き込むんじゃ
ねぇ!幼心に俺は思った事を憶えている。
母は泣いて俺に謝った……母さんは何も悪くない、
俺は謝る母さんに何も出来なかった……母もこの
環境に俺を育てる負い目があったのだろう、だが
どうしようも無い。
この環境に時代に人に何に謝ってるのか……恐ら
く母自体も良くはわかっていないだろうが、その
全てに悲しむ母がを見てるのが辛かった。
ワザと明るく振る舞う事が俺に出来る精一杯の行
動だった……質素な食事に明るいとは言えない電
球での生活、冬は寒く暖房も無く身を寄せ合い寒
さを凌ぐ毎日、外を見ると建物に空いた爆撃の穴
それに銃痕の跡、子供ながらにそれに模様を思い
浮かべ楽しむなんて事が出来ると思うか?その一
つ一つに人の悲しみが刻み込まれている位、ガキ
だってわかっちゃいるさ。
家賃が払えず滞納を繰り返しては大家が怒鳴り込
んでくる事なんて日常茶飯事だった、事あるごと
に泣く母を見る度に俺は心が締め付けられた。
僕は幼な心に口減らしの為に出て行こうとした時
が一度あった……行く宛てもない俺は隣町の公園
で空を見ていた、母は懸命に俺を探し出し、俺を
抱きしめて言った。
『貴方が私の生きる理由なの』と……
俺は母を守ろうとこの時、心に誓った……逃げる
のでは無く立ち向かう事を……
『何を傷つけようと……』
子供が1人生きていくには無理な町だった、子供は
拐われ臓器を取られる等、然程珍しくは無い、ま
るでジャングルだ……群から逸れたモノは獲物。
更に金が無くなった俺達を暖かく迎える人は町に
は居なかった、差別が俺達、家族を襲う、つい前
まで仲良くしてた友達家族すら近寄ろうとはしな
かった。
更にこう言う事態になった人間の行き着く先は犯
罪しか無い、食う為に知人から金を奪い、マフィ
アに身を売り麻薬やドラッグの売人となる者も多
い、窃盗を繰り返し生にしがみ付く……その事を
彼等は知っていたからこそ距離を置いたのだろう。
住んでた場所を追われ、家賃が安い土地へと俺を
連れて逃げる様に町に追われた。
全てが最悪だった……
大人の都合で始めた戦争、俺たち弱者や子供の命
を奪い何が未来だ、くだらない大人達の都合で奪
われる命をお前達は考えた事があるか、国の諍い
国益、上部だけの知識で並び立てられる正義に、
ネットやテレビで話される文字列は人の命よりも
重いのか?俺は人が憎い、軽口で戦争を語る者、
武力を持ち国益を上げようとする悪意の集合体で
ある政治、それに追従する民衆に言いたい、狭い
地球の中でクラス、町、市、国、カテゴリに分け
何を奪い合ってるのか、もう一度言う、人の命は
お前達が臭い息で吐き出す論争よりも俺たちの命
は軽いのか、どうしてアメリカ、ロシア、中国、
日本、白、黒、黄色、どうして分けたがる、お前
らは馬鹿だ、どうして人という一つの根本にある
物を忘れる……命という言葉は一文字だ、だがそ
の人の人生に詰まってる未来は一文字だけで表す
文字としてしか見ていない者が多すぎる……『命』
とはなんだ……俺もまた歪みそれに染まる。
住んでた場所より遠く500キロ離れたこの場所は
治安も悪かった……周りはストリートチルドレン
が溢れ、最初は怖かったのを覚えてる、母に手を
引かれ歩く、子供の目が人の目が……
『諦め』
『怠惰』
『無情』
『麻薬』
『犯罪』
その町の状況を訴えていた、太陽は皆に平等に照
らす、だが何故だろう……視線を何処にやっても
町は暗く空気が体に重くのし掛かる様だった。
明るい筈の大通りさえも暗く湿った感じだった。
全身からピリピリとした感覚、動物が危険を自然
に警戒する様な空気に俺は母の腕にしがみついた。
路地を見ると病んだ様な目をした大人がコチラを
見ていた、彼は何を考え何故そこに座っているの
か大麻の様なものを使っている者もいた、子供も
平気でタバコを吸っている、それを咎める者も居
なければ興味も無いといった感じだった。
壁は銃痕の跡が見える、一つ二つでも無い、そし
て珍しくも無い……
建物の二階を見ると年老いた老人が家族の写真
だろうか、窓の無い部屋で写真を抱きしめ声にな
らない嗚咽をあげて体を丸めている……
壁に向かい念仏のような独り言を言う人、路上で
固まって寝る子供達、うなだれ動かない人、生き
ているかも解らない倒れた人……
銃を持った兵士の姿では無い一般人の様ないでた
ちの人も多く見られる、肩に下げた銃を持ちトラッ
クに様々な武器や人を載せ町を走る。
口は悪く辺りにいる民間人を虐げる様にも僕の目
には映った。
『守ってやってんだから、言う事を聞け』
……等と口走る。
誰かが争いを始め、それは個人と言う力ではなく
他人をも巻き込む大きな捩れとなり、やがてもう
個人では収拾が付かなくなる、そういった物なの
だろうか……子供の僕には知るよしもなかった。
しかし此処で生きねば行く場所も無い事は幼い
俺にも感じるモノがあった……
地獄……
俺にはそうとしか見えなかった……本で見た事の
ある架空の存在、だが架空の地獄は見知らぬ未知
の世界の話ではなく、この世には存在する……
俺はただ恐怖に震える体を母に悟られぬ様、堪え
るしか無かった……




