子供のゾンビ
子供は動かなくなった……しかしその動かないゾ
ンビに警戒心も無く近寄るネズミ達、ネズミもゾ
ンビを食料として見ているかの様にかじり出す、
ソレを無造作に掴み取とる……これがこのゾンビ
の生き長らえた原因であった。
食しては体が拒絶反応を示しているのか吐き、ま
た食すを繰り返す、焼くという概念も無い、その
一つ一つがハクの心を締め付けた……ゾンビは最
早、人とは言えない、また人が通りがかり襲う被
害が出るかも知れない。
まだ決意は出来なかった、このまま去るかもしく
は……
そのゾンビは寒さを凌ぐために藁が詰まった場所
に身を起きまた動かなくなった、生存の本能なの
かそれでもハクが動こうとすると身を起き上がら
せたこうして時は繰り返し3日目の朝を迎え始めた
頃、銃声が聞こえ飛び起きたハクは慌て子供ゾン
ビを見た、その姿は既に……
訳の分からない感情がハクを襲った、辺りの銃を
持つ人間を探す、屋根から飛び降り、普段とは違
う冷静さの無い飛び降りの行動に足を挫き、捻っ
た右足を引きずりながらも探した。
その目線の先に悠然と立っていたのはーー
廃墟で対峙した栗栖だった。
栗栖「……つまんねーわ、そんな姿見せるんじゃ
ねーよ」
ハクは足を引き摺りながら無防備に栗栖の胸ぐら
掴んで体を揺さぶった。
ハク「何で!殺した!」
栗栖「……」
「わかってんだろ、お前も」
ハク「……」
掴んだ手がゆっくりと栗栖から解かれる。
栗栖「お前の気持ち、わからなくは無いが、やる
べき事を放棄するのはお前のエゴだ……」
ハク「……」
栗栖「お前を生かしたのは間違いだったかもな」
「まぁいい……」
栗栖は子供を抱きかかえ1人穴を掘った、ハクが老
人ゾンビにした事をそのまま行動した。ガソリン
を撒き丁寧に両手を重ねた後、マッチを取り出す。
栗栖「悪りぃな……」
「次、生まれる時はいい世の中だといいな」
その言葉にハクは心が壊れそうだった、だが同時
に自分の行動に恥じた……答えは解らない、どれ
が正解か何て誰にも解らない。
だけど、栗栖はその答えの一つを自分の罪とし、
其れを背負いながら行った行為に、其れを自分が
しなかった事に。
栗栖がゾンビに放とうとしたマッチを持つ手を握
り、その行為を止めた。
栗栖「……」
ハク「……」
2人はマッチの火が消えるまで無言で会話する。
栗栖は静かにマッチをハクに手渡し呟いた。
栗栖「……お前がやるか?」
ハク「……」
静かに頷くハク、その表情は廃墟で戦った面影な
ど全くない姿だった。
深呼吸を深く胸に刻み、天を仰ぐ……顔は上に向
きながらも指が震えた、一瞬震えた指が止まった
かと思うと一気にマッチの火を灯し、ゾンビに優
しく添える様にマッチを置いた。
『ブォッ……』
火は瞬く間に燃え上がり、辺りを明るく照らす、
その火の暖かさが凍えたハクの体を癒していく。
栗栖の真意は解らない、だが何故コイツが此処に
いたか?そんな事はどうでも良かった、今そばに
いて、ハクを殺そうと思えばいつでも出来た、栗
栖もまた彼に仲間意識を持ったわけでは無く殺意
もあった、だが2人はその共通する想いを胸に、
ゾンビが放つ火の暖を心に刻む様に眺め時を共有
していた……火が消え、やがて煙だけが空に舞う。
そして何故か栗栖は辺りの民家に食事を用意した、
お得意の気まぐれか、それは等の本人もわからな
かった。
食事の支度が出来、暖を撮った暖かい民家の部屋
にハクの首根っこを掴み乱暴に投げ入れると終始
無言の空間と時間の中ようやくハクの震えは止まっ
た、鍋の食事をハクに差し出すも食欲が無いハク。
栗栖「……食え、それがお前の出来る供養だ」
その言葉にピクリと反応するハクは出された食事
をユックリと口に運んだ。
時がユックリと流れるーー
不意に言葉を発する栗栖、
栗栖「お前の甘さ嫌いでは無いが甘さの加減を間
違うと……」
「……」
「いや、もう大丈夫なツラしてんな
今日はもう寝ろ、俺が見張りをしてやる」
ハク「……」
その言葉を素直に受け取り眠るハク、栗栖は懐に
忍ばせた銃を寝ているハクに向けた。
栗栖「……敵にこうものうのうとした姿を見せる
とはな、本物の悪い奴ってのは、いい奴のフリし
て、こうやって人を殺すんだぜ」
栗栖「……」
しかし銃のトリガーを引く事もなく懐にしまった。
栗栖「……チッ」
「その甘さに反吐が出る……」
自分に向けてかハクに向けてか発した言葉の真意
は本人も解らない、言葉とは裏腹に自分の目が優
しい事は栗栖本人も知る事も無かった。
翌朝、ハクが目を覚ました時、栗栖の姿は消えて
いた、ハクは用意された朝ご飯に深く礼をしてソ
レを貪り食った。
そして俯き泣いた、そして再び顔を上げた時、ハ
クの表情は明るい以前の姿を取り戻していた……。




