土地
比較的新しい古民家を見つけたハク、中の様子は……
2階建のソーラーシステム完備、だが中はか
なりダメージを負っていた。土台になる柱を撫で
て呟く。
ハク「よく頑張ったな……」
壁は襲撃の後か、いやコレは異星人の破壊の仕方
では無かった、それは辺りを見回した時理解した。
火事の後が多く、傷つけられた後に銃痕の無数の
跡が辺りの家に多かったからだ、横たわるゾンビ
にしても同じ事が言えた。銃痕にナタの様な刃物
による刃痕……恐らく、否、100%人の仕業である。
悲しい気持ちになるハクであった。
動かなくなったゾンビを集め、土を掘る。
辺りの車からガソリンを抜き取り、纏めて焼いた、
無論衛生上、伝染病を防ぐ為のものではあったが
手を合わせ、祈るハクだった……
医者や特殊技術のある者は極限の状況では殺され
る率は低い、コレもその対象者のエゴだ……邪魔
者は殺される、ごく自然で極めて不自然な現象。
人は大地と共に生きてきた、食べ物を作れる、こ
の横たわるゾンビとかし、そして朽ち果てた老人
の知恵が努力が人を生かすと言うのに目の前にあ
る物の価値しか見ない、中には子供のゾンビも居
た、人間は恐ろしい、異星人襲来に関わらず平和
に見えた現代でも弱き者の犠牲は常に付き纏う、
将来人類を担う子供ですら過去人の歴史はその命
を無常も残酷に人の手や思想そしてエゴで奪って
きた。
人類としてのものではなく自分のみに生きる人の
末路が見えた……誰かの為に生きる、その誰かが
また誰かの為に生きる……それが繋がってーー
その思いを断ち切るかの様に動く者に反応するハ
クジッと手を合わせ辺りの気配を無言で探る、焚
き木は目立つ、普段なら危険が伴う事はしないハ
クではあったが本屋で会った2人のゾンビの様に断
ち切れない想いがあった時はソレをしてしまう。
更には佐々木や栗栖と言った様な人物に会った廃
墟での出来事が彼に何かを感じさせたのかも知れ
ない、人間かゾンビか……また異星人か、集団で
移動する異星人では無い、彼等は圧倒的な強さと
火力で動く、派手で、力を誇示するかの様な戦闘
狂の感じはしない、だとすれば、答えは二つ。
『人か』
『ゾンビか』
太陽の位置はハクの背中、接近までの距離は太陽
の高さと影の距離でわかる、後は風の音と木々が
なびく音、それ以外のノイズを探る……
(左後方から音がする……)
(足を引きずる音……)
人間ならば銃器もしくは武器の使用、この距離で
発生も無し、ならば武器、だが引きずる音を隠さ
ない微かな音、答えはゾンビ、そしてそれは体重
の軽い……。
ハクは恐る恐る振り向いた、その先に現れたのは
恐れた通り幼き子供のゾンビであった。
ハク「あ……」
小さなゾンビに思わず後退りしてしまう、片手に
持ったビリボ君のスタンガンの電源を確かめる、
だが焦りからか上手くボタンを探せない、当たり
前の様に今まで使ってきたビリボ君の取り扱いに
も手間取るハクの表情は暗く固かった。
ハク「……」
ボタンを指に置きゾンビに近づく、向こうも同じく
近づいて来た、理解はしていた、だが心の奥で生
きている子供と信じたかったハクであった。
声を掛けてみるーー
「こんにちわ……」
無言である。
動きも左右の足が変に動いている、ゾンビの特徴
右脳、左脳、前頭葉のバランスが整っていない証
拠だ、人は真っ直ぐ歩く事を自然とバランスをと
る、だが真っ直ぐというバランスという概念が外
れれば前へ進むといった結果論が優先し、更には
早く走るや歩くと言った学び工夫すると言った人
の特徴を失うからだ……
何度も後退りしながらも祈る様に声をかけた、し
かし現実は甘くなかった。
あの戦果を生き残ったとして子供、まして1人で生
きられる環境なんて今の世には無かった、大人で
すら生きる術を持たぬ者、警戒心の無い者は人に
殺されるかゾンビに殺されるか侵略者に殺される
か、病気に殺されるか、飢えに殺されるか無理に
食べたもので食中毒を起こし自然に殺されるか……
ハクは現実かどうか何度もゾンビを見た、そして
立ち止まり後ずさりを繰り返す……
そして逃げた……
理解はしていた楽にさせてあげる事が、いや、そ
れ自体が本当に楽になるのか……見たく無いもの
を見ない、やりたく無いものをやらない、それを
否定したハクに降りかかる己の定義真実が解らな
い……ゾンビは人を求める飢餓状態の獣に近いハ
クを餌にしか思って居ない事は明白ではあった。
追いかけてくる子供ゾンビはまるで迷子の子供そ
のものの様に見える……それから逃げるハク逃げ
ても、始末しても彼は人間界で罪を背負う事にな
る、それは法律という曖昧な人間の定義では無く
人としての己の心の法律のようなモノにだ。
彼は放置してあるドラム缶から民家の屋根に登り
子供が諦めるのを待った……。
時は過ぎ夕暮れを迎えた……。
かれこれ5時間は屋根にいる、空腹にお腹が鳴るも
食事があっても喉を通る事はないだろう、持って
いるサバ缶の蓋を開け、屋根の裏から降りてゾン
ビとの距離を開けた場所にサバ缶を置くーー
だが冷えたサバ缶を食事とは思わないソレは興味
を示すものの食べようとはしなかった。
「……」
この頃は初秋、日が暮れ始めると肌寒い風がハク
を襲う、荷物は民家に置いてきた、自然と体が震
え始める……だが彼はゾンビから目を離さないで
いた。
ハクは体を持っていたロープで壊れた屋根の柱に
体を固定した、震える手で普段なら屋根の上でも
暖炉を取る事は出来た、だがこの時何も頭が回ら
なかった、裏から降りて近くの民家に身を潜め夜
を明かす事も出来た筈なのに。
ソレには理由をつけるなら一つはあった、子供の
体躯は小さく、狭い隙間から侵入される恐れもあ
る此処以外でも暗がりのゾンビで一番恐ろしいの
は接近に最も気付きにくいのは子供のゾンビであ
る、だがその理由とはかけ離れた感情がハクをこ
の場に留まらせていた……。
【今日のポイント】
人の接近には影が最もわかりやすい
明るい電灯もその効果はある、背後から来る者に
大して、振り向く事は加害者側の緊張を高め、危
険を伴う環境の場合もある、しかし時間の余裕も
ない、逃げる時間を稼ぐには、相手に悟られない
事もまた手段だ、足音に注意し、ごく自然に出来
るだけ近くの民家に我が家の様に入り、逃げる事
もまた手段の一つである。




