終結
緊張が辺りを包む……時折彼らを襲うゾンビは時
男達によって倒されていたが、ハク、栗栖、佐々
木三人は其処から誰もが動けずに居た、栗栖の持
つ銃は右手で佐々木を狙う、更に懐に忍ばせてい
た銃を取り出すと徐にハクの頭に突き立てた……
美香「どうなってんのアレ……誰がだれの命を狙っ
てるのか解らない……佐々木はハクに向けては解
るけど、特にハクと栗栖は解らないわ」
ユキ「栗栖は佐々木とハク……両方に銃を突き付
けてる……」
陸「どうなってもハクさんが倒れたら刺し違えて
も俺は奴等を許さない」
怒りに満ちた顔でゾンビを倒しながら睨みつける
そんな陸を見ていた時男も槍を持つ手に力を入れ
た。
時男「そん時は俺も付き合うわ陸」
正人「おいおい俺も忘れんなよ、これで3人だ……
1人は助かる、後は生き残った者が晴と女達守るぞ、
いいな?」
頷く3人であった。
その情景を横目で眺めていた栗栖が問う。
栗栖「……ハク、晴、お前達に聞きたい」
ハク「……」
栗栖「最初に言っておく、このゲームの首謀者は
俺だ、言い訳はしねぇ、そして質問だ」
栗栖「何故コイツらクズを助けた」
ハク「晴が助けた」
栗栖「理由はそれだけか?」
ハク「それだけだ」
栗栖「なら途中で置いて行くチャンスは何回もあっ
た筈だ、お前も晴も、何故置いて行かなかった」
ハク「彼等はもう置いて行く理由がない……君が
言うクズはもうあの中には居ない」
栗栖「裏切ったり女を置いて行く様な人間がか」
ハク「生きる為の決断でしょ、そうするしかない
場合もあるのも理解はする、それに悪い事は
していない」
栗栖「……悪い事か、まぁ確かにな」
ハク「人は成長する、現在の彼等で判断しない晴
の英断だ、そして僕達は現に今こうして全員無事
だ、ソレが答えだ」
栗栖「青い、甘い、お前そんなんじゃこの先生き
て行けないぞ?特に晴、アイツはな……」
ハク「俺も晴も1人じゃ生きては行けない、君だっ
て同じだ」
栗栖「……」
「なぁ?仲間って何だ?同じ目的を持って、行動
し、それが終わったら敵にもなる、裏切り、裏切
りられ結局は人は1人なんじゃねぇのか?俺が生き
てきた国は、今まで一緒にやってきた仲間に裏切
られるなんて事は日常茶飯事だった……人は自分
の為になら、恥やプライドも捨てる、今までのコ
イツらの様にな……所詮綺麗事並べてるだけじゃ
無いのか?」
ハク「綺麗事かどうかはそっちが勝手に考えて解
釈すればいい、俺達はお前達に評価される為に動
いてもいないし、生きてはいない」
ハク「じゃあ聞くが君は俺をなぜ助けた」
栗栖「はっ、ただの気まぐれだよ」
佐々木「お前気まぐれで俺たちを裏切ったっての
か、てめぇ……」
ハク「僕も気まぐれだよ」
栗栖「……」
佐々木「コイツもいちいちムカつく奴だぜ……俺
を無視してんじゃねーよ!俺が喋ってんだよ、黙
れクソが」
拳銃を握る手に力が入る。
栗栖「うるさい佐々木、弾くぞコラ」
緊迫の空気の対象がコロコロ変わり異様な雰囲気
の中、ハクと栗栖だけは冷静に見えた。
栗栖「……」
栗栖はとぼけた顔をするハクを睨み付けるもハク
は違う次元にいるのか、空気が読めない馬鹿なの
か、ただ不思議な空気を纏っていた、それは栗栖
が生きてきた殺伐とした世界には居なかった、安
心感?いや違う、不思議?まぁそうだがソレも違
う……。
今はボヤけてるが彼も生きてきた人生の中で人間
に愛想を尽かし、未来に希望を持てずにいた、そ
の中でイライラしていた感情、ソレは人間に向け
てのモノ社会に向けてのモノ、言葉では上手く言
えなかったが、思春期に起こり得る常にイライラ
に似た感情に自分自身でイラつき爆発しそうな己
を感じ現在に至っていた。
想像?いや創造というべきか……人間を見ている
と明るい未来など来ないと心の何処かでは希望を
持ちたかった過去の自分への葛藤なのか、嘘だら
けの政治から、利権争い、金、汚職、欲望、町で
起こるイザコザ、ネット社会や、普通に見える家
庭ですら感じる人の醜悪さや軽率さにーー
だが彼等の行動は確かに未来を明るく感じさせた。
彼はソレに魅入られたと言うべきか、もっとコイ
ツらを見たい、彼の苛立ちの原因、そして希望、
今まで居なかったコイツらは、力で対抗するしか
ないと思われた栗栖自身の絶対的常識を何度も軽
く越えた。
それに今はゾンビ、更に其れを越える侵略者の存
在それは絶望しか見えなかった、圧倒的火力の違
い最早、地球人に異星人に対抗するだけの勢力も
軍事も残されては居ない、いや元々宇宙に対する
攻撃手段を持ち合わせてはいない人類が勝てる筈
はない……彼等が今後、そのまま去るかも明確で
はない、生き残ったとしても、人間が作る未来は
暗い、また繰り返すだけ。
ーーだがそんな事が?いやいや無理だ……ソレは
俺にも解る、だが、コイツなら?そう思わせる何
かを持つ奴等を見たい衝動に駆られていた。
どうせ先に無い未来なら……
栗栖(まぁ……もう少し様子を見てみるか、俺の
求めるモノがなけりゃその時、殺ればいい……気
が変わっても殺りたきゃいつでも殺れるからな)
栗栖「なぁ佐々木、お前は兄貴のビジョンが成功
したとして、その後、お前はどうする」
佐々木「あん?そん時は俺は幹部だ、好きにやる
さ、今まで苦労した分俺を馬鹿にした奴らに俺同
様の痛みを味わせてやる、自由に生き、人を操る、
俺はこの世界で今まで操ってきた奴等になるんだ、
ワクワクするだろうが其れをやれるチャンスなん
だよ、今が、この時代が!」
栗栖
佐々木「お前の兄貴にはカリスマ性があるのは理
解しているだろう、アイツならこの腐った世の中
を変える事が出来るかも知れん、いつ侵略者が来
ても圧倒的な力でそれを排除し、暴力の極みを持っ
て世界を統一するんだよ、まだ小さいコミュニティ
だが誰かがやらねばならない」
「弱い者は強いモノに従う、のし上がりたけりゃ
強くなりゃいい、自然界の法則そのものだ、俺た
ちは弱い者からそれを奪う、弱い者は強い者へ従
い守られる、前はそれが金であっただけで今とな
んら変わらねぇ、別に言い訳するつもりはねぇが
支配されなければ生きてはいけない人間もこの世
には多いのも事実だ」
栗栖(……コイツの言う事も一理ある)
「まぁいいさ……ともかく此処で一番力のある武
器を所持してんのは俺だ、コイツは殺させねぇ、
それとハク、晴、別にお前らの味方になった訳で
もねぇ、ただの気まぐれだ」
晴「今はそれでも構わない、皆が無事なら、お前
が敵であろうが味方であろうが構わない」
ハク「一票追加」
栗栖「三票対一票で可決だ佐々木」
佐々木「……」
栗栖「だが、こう言った状況はレアだ、俺達以外
にも、こう言う奴らは沢山居る、いや、逆に多い
だろう、暴力に長けた人間が今の時代、生き残っ
た可能性の方が遥かに高い思想を掲げ、統治した
コミュニティがまた人間を支配しようとする、コ
レは免れない人間の性だ……」
その時、突然上空に軍のヘリコプターが現れた。
『ドババババババ』
凄まじい風が辺りの細かい塵やゴミを巻き上げ渦
を巻くーー
時男「なんだ!なんだ!へ……ヘリコプター?」
ユキ「やった!私達、助かったのよ!」
ヘリ「武器を捨てろ、私達は米軍のヘリだ、抵抗
するものは撃つ」
声がしたかと思ったと同時に何処からともなく現
れた武装した兵が銃を構え規律の取れた統率の元
彼等に近づいてきた。
栗栖「チッ、まぁそういう事だ」
「いいか、過去を見ても経済が破綻した国の末路
を知れ、メディアが隠した真実が今お前たちにも
降りかかっている、犯罪は横行し、それが当たり
前の社会である事を、そして人類は大きい変化が
起こる度にいつも同じ事を繰り返す、今の時代も
しかりだ、時代により変わる正義をお前達はどう
生きて行くか見せてもらうぞ」
そう言い残すと慌て、栗栖に佐々木は状況が混乱
する中、逃げる様に姿を消していった、辺りにい
たゾンビは兵に一斉に殲滅され瞬く間に晴達は兵
20名ほどに、囲まれてていた。
米兵「大丈夫か?君達、銃は持ってないな」
「怪我人一名確保した、救助する」
マイクでヘリに連絡する兵達。
正人「ふー助かった……まだ残された軍は存在し
たんだ……」
安堵に腰を抜かす様にへたり込む正人達。
陸「あれ?ハクさんは?ハクさんが居ない!」
その声を聞き正人らもハクを探すが姿は見えなかっ
た……晴が陸の耳にそっと話しかける。
晴「大丈夫だ、ハクからの伝言だ、あの時ハクは
銃を持った状況だった、全員の安全をいち早くす
るには今の僕の現状では難しい、此処は一旦引く
事にすると言っていた、俺は怪我をしているから
軍の設備で治療に当たれと言う事だ」
晴(直ぐに追い付くから無事でいろよハク……そ
してハクの次の待ち合わせは誠だ)
(誠、ハクを頼む、そしてハク、誠を頼む……)
こうして遺恨を残した終結を迎えた。
軍はまだ辛うじて機能していたが大きい組織は全
て異星人に襲撃され、国は機能を失い最早、軍と
呼べるものでは無い現状だった。各生き残りで形
成された軍は日本に於いては自衛隊及び在来中の
米兵で指揮形成されていた。
此処日本以外での各国も例に漏れず機能は完全に
停止、各地で起こった侵略は凄まじく、ヘリです
ら簡単に移動出来るものでは無い。
上空に目立つ様に飛べば瞬時に宇宙船からの攻撃
で撃破される為、人民の救助もままならないとの
事だった……通信手段も遮断され、残り少ない
衛星通信も逆探知される可能性もあり安易には使
えずにいた、特に国から国への傍受には的確に異
星人からの攻撃が見られ、防御手段を持つ組織壊
滅の為に残された罠と可能性は高かった。
主要都市の外れにある襲撃を比較的軽い被害で済
んだ場所では美優達が辿り着いた場所の様に人は
集まり避難所として、医療設備も整い、復興を目指
し、現状を回復しようと努力していた。
統率の無い各施設の判断での行動を余儀なくされ
る中、暴徒と化す人間の抑制する統治力も無く、
避難民はゾンビはおろか、異星人、更に危険なも
のは人間そのものであった……きっかけは異星人
襲来だったかも知れない、だが人は過去、何回同
じ事を繰り返したか……
更に銃の弾も有限、生産が行えない今、こうやっ
て軍に発見されることは奇跡にも近かったのであ
る、先は暗い……この現状だけは避けられない現
実だった。この後、軍から知らされる現実に皆暗
い表情を浮かべた……。
【今日のポイント】
実際、戦争や内紛が無い時代はほとんど無いと言っ
ても過言では無い。戦後70年間戦争をしなかった
国は8カ国と言われている国連加盟193カ国の中で
この現状、平和な日本と言えど昭和時代が然程遠
く感じられるだろうか、映画やドラマで見た現実
は、過去に確かに存在した今、架空の小説や漫画
であるような出来事はいつ起こってもおかしくは
無いのである。
その中で人は人でいられるだろうか、倫理や法律
から解き放たれた人類はどう行動するのかーー
誰かが助けてくれる?その確率は時が経てば経つ
ほど確率は減るだろう。誰かを守る倫理は自分を
守る現実に変わるだろう、しかしそれは彼等が言
うように一時凌ぎに過ぎない。
人は1人では生きていけない
それは現実だ、目の前の現実に囚われず、先を見
る事の出来る人間が何人厳しい現実へと立ち向か
事が出来るのか、
生き残りサバイバルを個人ではなく地球全体で見
れなければ人は絶滅危惧種の一つとなるだろう。
食べ物を探すのに一日中かけていては人は生きて
はいけない、力の弱い女子供を迫害すれば種は絶
える、争いの無い世界、絵空事に聞こえるこの言
葉を現実に置き換えた時、夢物語という人は沢山
いるだろう。
だがそれを目指すのに先駆者となるべく立つ人間
が存在しなくなった時、真の破滅は起こるだろう。
そしてそれを為すは1人の人間ではなく個々の人間
が皆持たなければならないであろう。
類(別本編より)




