作る
襲い来る鎧男にハクは握っていた物を投げた。
鎧男の目に映った物体は小さい物でダメージを与
えられる気がしない程の小石を投げた?と思わせ
る程である、避ける程も無いソレを念の為、鉄で
出来た鎧の小手で振り払おうとするが妙な音を立
てソレは腕に付着した。
『カシャン……』
鎧男「?」
鎧男は付着した物を取り払おうと、腕をバタつか
せるもソレは腕から外れない、
鎧男「?何だコレは……まっ、まさか」
悪い顔をするハク、
ハク「ご名答、もうお分かりですねぇ」
そして再度投げつけた。
『カシャン……』『カシャン……』
鎧男「ケッ磁石なんぞついたって!」
2個、3個、次々に追加される石、最初は力任せに
腕を動かすが徐々にその腕は胴に着き、離れ辛く
なってゆく、捥がく腕や胴、首に付いた磁石は鎧
の男から自由を奪い始めた。
それは磁石であった、俗に言う『ネオジム磁石』
百均にもよくある、ありふれた商品だ。特に磁力
の強いこの磁石が複数個、鎧に付着させたのであ
る。
鎧男「お?おお?あー!腕が!胴に!外れねぇ!」
ハクは最後に持っている磁石を全て投げた、
『カシャ!カシャカシャ!』
けたたましい音が鎧に響き渡る、腕に足、全てに
屈強にくっ付いた状態で、足すら両足同士がくっ
付き、バランスを崩し倒れる鎧男にハクは近づく、
ハク「……芋虫みたいだね」
鎧男「この!くそ!外しやがれ!」
ハク「……」
鎧男が持っていた肉を仮面の上に投げつけた。
鎧男「ちょ!や、やめてくれ!身動き取れないん
だぞ!ゆ、許して!」
ハク「……ゲームだよ」
やがてゾンビは肉を喰らうべく鎧男に一斉に覆い
かぶさって行く、一体、そして一体と蠢くゾンビ
の醜悪な肉を貪る姿が仮面を通して見る佐藤を恐
怖に陥れた……
鎧男「やっ!やめてくれ!ギャァアア!」
振り返りもしないハクは皆の所に戻り、そして反
撃は始まった。
ハクの指示により、正人らも協力、生き残りの武
装ゾンビに残りのネオジム磁石を各自が一斉に投
げつけ、ソレは同じく武装ゾンビ同士をくっ付け
る、そこに、金属で出来た辺りに散らばる物を投
げつけるのだった。
やがて武装ゾンビは買い物カゴやバケツと言った
金属を体に付着し続け、見動きも出来ず倒れた。
栗栖「はっ!磁石か!おもしれー!あんな物でク
クク、近寄る事も出来ない武装ゾンビを倒せると
は!短銃を持ってたとしても頭や心臓の弱点はちゃ
んとカバーしてあるから倒すのも6体数では無理ゲ
ーだってのによ!しかも武器では無く、ゴミで倒
せるなんて……ククク、俺の生きて来た、力には
力が全ての世界である筈の定義が……アッハハ!」
腹を抱え笑い転げる栗栖。
佐々木「あん!どーなってんだ!まさか武装ゾン
ビまでも……だが、まだだ!見ろ、お前らが付着
させた金属のゴミから出る音でゾンビが集まって
来だぜ」
確かに、けたたましい金属音で捥がく武装ゾンビ
の音を他のゾンビが見過ごす訳は無い、徐々にま
た数を増やして行くゾンビ達。
ーーハク達ーー
正人「ゾンビが集まって来た!見ろ!あんなに沢
山来やがった!どうする!」
ハクは陸と晴が下敷きになった材木置き場に足を
踏み入れ眺めていた、そこにマチェットを持ち歩
みよる佐々木。
佐々木「ほら、どうした、俺にも磁石投げてみる
か?はははっ流石にもう磁石は無いだろう、1人、
1人俺が直々に殺してやるよ……」
ゾンビ数体が佐々木を襲うが唸るマチェットで軽
くあしらう佐々木、イカレてはいるが佐々木の強
さは本物である、狂気と強さ、キレる事が武器な
彼がのし上がって来た武器と言ってもいい、平和
な時代から逆らう者は、尽く狂気を含む暴力で潰
して来た、その容赦無い行動は周りに恐怖を与え、
逆らう事はしなくなる、彼が狂気を増幅させた原
因もそこにあった。
ハクは一本の棒を手に先をアスファルトに付け、
棒の先を地面へと押しつける様に回る、そして地
面を削る様に数回同じことを繰り返す。
佐々木「……何してんだお前、このゾンビの前に
武器もなく頭おかしくなったか?」
彼がそう思ってもおかしくは無い、水中銃の矢を
全てゾンビに放ち、手持ちも武器は無い、そこら
辺に使えそうな武器は無い、何をしでかすか解ら
ないハクを警戒し辺りを見廻したが佐々木の視界
に映る物は……
木箱、大きいが武器には重く振り回したとて、マ
チェットの敵では無い重くて素早く振り回せる者
は怪我をした晴以外は居ない……
後は……
買い物カゴもプラスチック製なのはチラホラ、
紐、竹箒、酒の瓶、自転車、後は晴が下敷きになっ
た木材くらいだった。
(ハッ、使えそうな物は無いな)
佐々木「おら!どうした、こいよ」
近づく佐々木の前に立ちはだかる陸、手にはナイ
フをシッカリと握りしめていた。
佐々木「ちっさ!、実力も無い、武器もどうだ?
俺の持つマチェットと比べ、俺は強いぜ?陸ちゃ
んよ?」
陸「……もう逃げるのは嫌だ、僕は自分でしでか
した事の償いをする……」
手足は震え、最早半泣き状態でも、晴を守ろうと
彼の本能は足を後退すべく脳に指令を出している
だが彼はソレを拒み続けた。
佐々木の背後に見えるゾンビ10体ほど、近づいた
三体は佐々木のマチェットの餌食となり倒れはし
たが餌に見えるのはハク達も同じ、近寄るゾンビ
に恐怖が増す。
陸「お前はイカれてる!」
佐々木「武器もない強さもない、お前らが言うの
はただの負け犬の遠吠えなんだよ」
マチェットを天に掲げた。
「力だ!全ては力で決まるんだよ!命の重さも快
楽も権力も!全ては力が有るものが握るのさ」
無謀ともいえる行為だが陸には戦闘経験が無く、
その衝動に従い突進するしか手は無い、陸がまさ
に動こうとした瞬間、陸を押し除けハクが佐々木
の前に立った。
佐々木「なんだ?お前武器も無しに、何だその手
持った棒は?しかもソレ桐の棒じゃねぇか……ク
クク、そんなの一瞬で折れちまうぜ?お前、桐は
軽いが柔らかさは木材の中でもダントツに弱いの
しらねぇのか?」
ハク「……」
ハクは佐々木の前で180センチ位の貧弱な木の棒を
地面にドン!と置いたかと思えばシッカリと付着
させ体をクルリと回転させた。
佐々木「?」
更に地面を数回擦る様に押し付けるのだった。
佐々木「なんだ?なんかのおまじないか?」
木の棒は先を更にザラザラとしたアスファルトで
削られる。
佐々木「……」
佐々木はマチェットで構えた、顔をマチェットで
守る様に、陸の目には何故、佐々木がそうしたか、
検討も付かない、だがその答えは直ぐに出た。
ハクが棒を佐々木に向かい槍を投げた……ヒュン
という音を奏で佐々木の頬をかすめ飛んだ棒は佐
々木の背後に迫るゾンビの心臓に刺さった、そし
て佐々木の頬から血が流れた……
佐々木「……お前やぱムカつくわ」
ハク「陸、皆んなの所へ行って桐素材の棒なら沢
山あった、それの先をアスファルトで削るんだ、
陸「は、はい!」
正人らは女性はそれを作り、男達はそれを武器に
ゾンビを刺し倒して行った、
ハク「武器がない?はて?」
佐々木「……お前さっきから、鎧の時もだが、倒
し方やワザと俺の言ったこと反論するモノをワザ
ワザ作るな……」
ハク「アンタが言う強さなんて所詮、その程度だ
からね……」
『尽く潰してあげるよ』
ゾンビ集団は使い捨ての出来る武器の精製により
増える数よりもやがて倒す数が勝り、正人達によ
り数を減らしていった、対峙するハクと佐々木、
見守る晴に栗栖、戦況は複雑化してゆく……。
【今日のポイント】
DYIでよく使われる桐は軽く加工がしやすい、研磨
するものが無ければアスファルト、コンクリート
は目が細かい滑らかにする最後の研磨にも向いて
いる、テカリを出すのは掃除もだがストッキング
は安く使いやすい。




