葛藤
佐々木『おい、晴に代われ』
指示に従い正人は手に持つトランシーバーを晴に
渡そうとする、その表情は暗く、そして晴の友人
であるハクを殴った事、今まで助けてくれた事に
対し罪悪感の様な物を抱いた表情だった。
晴「正人、別に君を恨んじゃいないさ、大丈夫、
ハクも同じ気持ちだから……」
正人「すまない……解ってんだ、指示に従っても
俺達を助ける気なんて無い確率の方が高いって……
元々殺そうとした奴等何だし……」
落ち込む正人を見て笑う晴の目は透き通っている、
その真っ直ぐな目が更に正人を苦しめた。
晴「気にするな、大概、誰だってそうするさ、
気になるならハクを見て見ろ」
正人「……」
恐る、恐る、言われた通りハクの方を見るも確かに
気にしてる様子は微塵もない、それどころか、もう
次の手を打つ為の準備をしている様にすら感じる。
ハクは鼻歌を口ずさみ、何事もなかったの様に
リュックを弄っている、そして、消毒液と絆創膏を
取り出していた。
正人(気にしてはいないか……傷の手当ての為か)
少しホッとする、こんな状況で鼻歌歌いながら怒り
もせず、試行錯誤できる訳はないわな)
望遠鏡を使い監視する佐々木もその行為を見逃す
訳はない。
『ガー……』
『おい聞こえるか……正人』
正人は嫌々ながらもトランシーバーのスイッチを
入れ応答する、
『おい正人、奴が何か取り出したな見せろ』
正人「はい……」
用心深くその動向の一つ一つを監視を怠らない佐
々木だった。
正人がハクに近付きおもむろに手を出した。
「あ、の……さ、さっきはゴメン、でもでも仕方
無かったんだ、リュックの中から出した物、渡し
てくれない……かな」
ハク「いいよ」
正人「絆創膏に消毒液……だよな」
ハク「あ、ソレ皆んなに順番で渡して」
正人「……」
ハク「あと……コレと」
握らされた物を見た正人が何に使うのか全く理解
は出来なかった、がコレには意味のある事位は理
解した。
(コイツ!この状況下でやはり何か考えてたんだ
諦めて無い……だけどコレが更にアイツらの怒り
を煽る事位わかんねーのか)
一瞬、怒りに似た感情を持った正人ではあったが
諦めない2人を見て葛藤する。
正人「コレ、アイツに見せ……るぞ、俺をまさか
信用するのか?……こんな状況じゃいくら、お前
達だってどうしようも無い事位、わかるだろ……
もうアイツらの勝ちなんだよ……屈するのがあた
り前なんだよ」
正人の目は淀み疲れ切っている、肉体的な疲れ、
精神的に追い詰められた疲弊、諦め罪悪感、ここ
に辿り着くまでの経緯、裏切り自分に嫌気がさす
もまだそれを繰り返す事にーー
ハクは正人の目をジッと見ながら呟いた。
ハク「正人が屈してるのはアイツらにかい?自分
にじゃない?」
その一言は正人に響いた、良くも悪くも……怒り
にも似た感情が溢れ出る、
『お前ら俺らを巻き込むんじゃねぇ!そして、今
までの自分、更に変わりたい自分に』
正人「……」
ハク「負けるのも勝つのも屈するのも悔しいのも、
怖いのも、全部……ぜーんぶ!自分に、だよ、正
人が見る世界は君だけのもの、僕の見る世界は僕
だけの物、時男、陸、美香ユキ、みんなそう、同
じ世界にいて干渉出来ても自分が見る世界は自分
の意思で変わるんだ」
正人「……」
押し黙る正人は振り向き手に持った絆創膏と消毒
液を佐々木に高々に振り上げた。
佐々木『……消毒液と絆創膏か、まぁいいだろう、
最後の情けだ、配っていいぞ』
ハクはリュックから絆創膏を人数分、正人に渡し
それを順番に1人1人手を握り丁寧に配った。
ハク「さてと!」
彼は起き上がり満面の笑みを浮かべた。
ハクは晴を見る、そして晴はハクを見て頷く。
ハク「さてと……逆転と行きますか!」




