救い
絶体絶命の時は迫る……
懇願する様に誰かの助けを求め叫ぶ、
正人「誰が助けろっー!助けてくれよ!こんなの
おかしいだろ!警察はどうした!消防は!レスキ
ューは!救急……」
声が途切れ途切れ小さくなる……
「車は……誰でもいい!助けろよ!」
天に向かい叫ぶ、足元からのゾンビの呻き声の重
低音が突き上げる様に鳴り響く最中、黒く変色し
腐敗した指が魂を肉を求めコンクリートの摩擦で
削り取れながらも、それでも尚、生者の命を求め
て土塀の壁をひたすらによじ登ろうとする。
絶望の中に聞こえる声が錯乱する彼等の幻聴の様
聞こえ始めた。
謎の声『……な』
『なん……』
正人(……ん?)か細い囁やく音に反応する正人
『……』
『汝……』
その音に気付いたのは正人だった。
正人「……シッ!何か、何か聞こえる、頭がおか
しくなっちまったのか!俺は」
頭を抱え、顔に爪をたて悶えて苦しむ仕草で正人
は発狂しそうな精神状態であった中、か細い声の
出所を探った。
「……」
続け天の声が聞こえる……
『汝、助けが欲しいか?』
正人「クソ……幻聴か、うるせー、でも、でも、
だけど、それでも!」
すがる様に声を喉から絞り出スノだった。
「……たっ、助けて欲しいです!」
『では懺悔するが良い……』
「何をだよ……」
『無いのか……お前は聖人君主であるのだな、お
かしい……我の手帳に貴殿の名は記載されてはお
らぬ……だが、しかし、貴様が聖人君主ならば、
私に出番は無い、失礼』
正人「ちょ!ちょっと待って!あ、有りました!」
あれやこれや、今まで自分がしてきた事を懸命に
話す正人。
……5分経過
『お主……長い』
「すすすいません!心改めますから!」
『では次、ユキとやら……長くなるから懺悔で無
くてもよいぞよ……思う事を素直に話すが良い、
あっ……手短に』
ユキ「神様なの?ねぇ!神様なの!……何で普通
に暮らしたいだけなのに、何で私だけこんな目に
合うの!」
『普通に暮らせば良い……』
「どこが!何処に普通があるのよ!」
『無ければ作れば良いだけの事……』
ユキ「テレビもベッドも無い!何も無い!何処に
も無い!無い無い無い!」
『皆、人間が作った、お前も人間であるだろう?』
ユキ「……」
『次、美香ぁぁ……』
美香「諦めたわ……もう……どうなったっていい
わ……」
『では飛び込むがよかろう……』
美香は下を見る、腐ったゾンビと目が合い思わず
顔を背けた、こんな風に私はなるの?生きたまま
食われてしまう、それは想像を遥かに超える恐怖
であった、美香には飛び込む勇気は当然無かった。
『それが生きる意志であるぞよぉ……』
『では次、時男』
時男「人間なんて所詮こんなもんだろ、俺は悪い
事はしてねえ、置いていったのも自分が生きる為
だ、此処に居る者も他で今まで出会った者も、皆
んなヤバくなったら逃げてった、俺も同じ事をし
ただけだ」
『では置いて行かない人にお前がなれば良いだけ
の事……他人の真似をする必要が何処にあるのだ』
『では次、陸……』
陸「僕は自分が嫌いだ……弱い自分も、何も出来
ない自分にも」
『好きになればいい』
『ぶっちゃけ……』
『痛っ』
陸「……ぶっちゃけ?」
「痛っ?」
『最後に晴……』
晴「あーそうだなぁ……小6の時、ハクの家に遊び
に行った時、冷蔵庫にプリンがあって、ハクが楽
しみにしてたの知ってて食べちゃった事あったな
あ、後、饅頭も、アイスも……」
『……』
『おーぉお』
『まー……』
『えー』
『わ……』
『……』
『地獄行きじゃぁぁ!』
晴「……てか遊んでないで早く助けてくれよ!」
笑いながら晴は壁背後に向かい叫んだ。
ハク「ほーい」
下にゾンビが蠢く絶体絶命の緊張感とは程遠い緩
い会話が彼等にとっては違和感を感じる。
「……ちと待ってよ、よっと、準備完了!」
前方からのチェーンソーの金切り音とは違う静か
なモーター音が背面から上がり徐々に彼等の頭上
から聞こえてくる……
皆が頭上の景色に注目する中、白い色をしたドロ
ーンが彼等の頭上から湧き出る様に飛ぶ姿が目に
入ったのだった。
時男「ドローン?」
晴「よーし、そのまま下だ!3メートル程下にして
くれたら手を伸ばせば何とか届く」
ユキ「見て!」
ドローンを指差し
ユキ「あのドローン紐が付いてるわ」
ユキが言う通り、ドローンは紐をぶら下げながら
ゆっくりと降下する、さながら彼等にとっては地
獄からの救い、蜘蛛の糸と言った所か。
正人「助かった!マジ助かったんじゃねーか、本
当もう駄目かと」
美香「馬鹿、あんな細い紐で人間の体重支えられ
る訳ないじゃない……」
陸「そう言われれば、確かに……」
晴「大丈夫」
美香「大丈夫しか言わないアンタの言葉に信用出
来る訳が無いじゃない」
そして紐はとうとう晴の手にシッカリと握られた。
晴「握ったぞ!ハク!」
ハク「了解、じゃユックリ紐を引っ張って」
指示通り紐を引っ張り続けると紐はロープへと変
わり、徐々に頑丈なロープへと変わっていった。
正人「成る程、ドローンで運べる重量の軽い紐か
ら始めて、先端を結び、徐々に太いロープへと変え
ていったのか、最初からこの重さのロープなら軽
量ドローンが運ぶ事は出来ないがこの方法なら確
かに」
ハク「着いた?じゃさ、晴、最初に来てよ」
時男「駄目だ!置いて行く来だろう!俺が先だ!
よこせ!」
ユキ「さっき置いていったじゃない!私が先よ!
もう絶対アンタ達信用しない!」
ハク「大丈夫、どうせ晴は何があっても君達を置
いてかなかったでしょ?晴が先に上がっても君達
を置いて行くと本当に思うか?」
正人・時男・ユキ・美香「……」
ハク「いい?言いつけ守らない悪い子はロープ切
るからね」
正人「……わかった」
コレには理由があった、最初に登るのは裏に着い
た時、そのロープを人間の体重ごと引きあげる力
が必要だからだった。
しかも最初に登る人間は滑る壁に対応する力と運
動能力に加えバランス能力も必要があるからだ。
良くある女性から、この状況でもし、それを行え
ば、上がりの遅い、女性に対し後ろの人間で渋滞
が起こる、更に滑落する可能性も高くなり、その
場合、後から来る人間を巻き込むだろう。臨機応
変に対処する事が重要な事はハクの得意とする事
だ。
晴はスイスイと壁を難なく進む、壁の先端に到着
した彼にハクは手に持った物を投げ渡す、それは
木を削り作ったモノでロープとコンクリートの密
着部分、特に角にロープがあたり、引っ張る際に
かなりの摩擦で切れぬように下に敷いたものだっ
た、形状は馬の鞍の様なモノである。
正人側から見れば何を渡たされ、何をしているの
かわからなかったが、その行為は紐を切っている
のではないか?と不安にもさせていた、ここまで
来るのに自らが行った所業は晴も知っている、見
限られたのでは……と自らの行いの結果に不安を
抱く5人だった。
ソワソワする彼等を尻目に鼻歌混じりで土台にな
る鞍状の端にソレ自体がぐらつき落ちないように
丁寧に補強する板を塀の幅に合わせトントンカン
カン、異様な雰囲気の中ではあるが、その姿勢に
安心する5人でもあった。
栗栖から佐藤の鎧の中に仕組んだトランシーバー
から連絡が入る。
栗栖「おい、何か様子が変だ、1人はお前からも見
えるだろう」
佐藤「こっちはゾンビ押し除けるので精一杯なん
だ!鎧から見える視界は狭いのわかるだろう?」
栗栖(チッ使えない奴め……)
「まぁいい、ともかく急げ!逃げられるぞ」
佐藤「は?どうやって?あの状態でか?」
佐々木「つべこべ言わずさっさと行け!」
佐藤「……わかった出来るだけ急ぐ」
栗栖「おい念の為次の用意しとけ」
(まだまだあるぜ、準備の時間はたっぷりあった
からな)
佐々木「ウヒョ!アレか!アイツらどこまで行け
るか楽しみだな!おい、やっとゲームらしくなっ
てきたぜ、了解!」
更に危機は彼等に迫りくる……。
 




