昔話 道場編③
深呼吸をする晴そして、ハク同様手の平を
広げ耳に当て、ライオンの真似をする晴
師範「こら!晴!お前まで、やめないと
試合没収するぞ!」
海堂側の応援仲間も怒号が飛び交う、
「試合舐めてんのか!海堂君、ふざけた奴
ぶちのめせ!」
「ボコボコにしてやれー!」
しかし晴にはもう、その怒号も耳に入らない
晴陣営も彼の性格をよく知る者ばかりだ
彼は人を馬鹿にしたりなんか決してしない
困ってる人間をほっけない熱い奴、信頼に
たる人間とは晴の様な奴だと
しかし彼の行動には理解は出来なかったが
反論する野次も飛ばせようがない、なんせ
ライオンだ……
だが、疑う者は晴陣営には居ない、
彼の今までの生きて行ってきた実績や心は彼の
異端な行動一つで変わる薄っぺらいモノ
では無かったからだ。
押し黙るも試合を信じ見つめ続ける晴陣営
その時晴が動いた、彼は空手スタイルでは
無くタックルの様に一気に距離を詰め海堂に
押し迫る、その行動に一瞬驚く海堂も迎撃
する前蹴りを放つも、一瞬で晴はサイド
ステップで側しスピードを落とす事なく
海堂をすり抜ける際に横から正拳突きを
放った、その突きは当てるだけのものでは無く
更にサイドステップを生かした横からの体重を
乗せた横突きと言うべきか
海堂もそれに反応し左外受けで受けるが打撃が
重い、体勢を崩しながらも右正拳
でカウンターを入れるよう放った……
が、狙った場所にある筈の晴の姿は既にその
場所には居なかった
(なっ何!)
思うが一瞬、海堂の顔の下からアッパー
気味の拳が顎を捉えた
(なっな何が起きた!)
師範「一本!」
開始線へ戻り体勢を整え直す海堂
海堂(何だ、何が起きた……)
事の経緯にまだ脳がついていかない海堂は
パニック状態だった。
晴の方を見た海堂
その姿は人間でありながら獣であった晴の姿
が映った。
晴は考える事を一切遮断したのだった。
ハクが意味するモノ、それは本来の晴の
持ち味である単純さに実直な性格、
何より疎かにしない練習量の賜物であった。
体はもう攻撃に対処する本能をハクは理解
していたのだった、彼の持ち味は余計な事を
考えず、自分のしてきた行動、つまり自分を
信じる事である。
晴(俺は俺を信じる、そして信じたハクを
疑わなかった事が俺の強さだ)
師範「試合始め!」
迷う海堂君にチャンスというモノではない
野生の肉食動物が草食動物を狩る様に、
何も考えず飛び込む晴、
焦る海堂はハク同様足刀蹴りで対処するも
体が反応し素早く一直線上に伸びる海堂の
蹴りを体を捻り横腹をかすめる様に避けた。
右腕でその蹴りを挟む様に左手を前げ前に
押し出すように体事ぶつかる晴、体重の
乗った打撃というよりはタックルに近い攻撃
に対し海堂は足刀を晴の右手で閉じ込め
られた片足状態に、その体重の乗った
タックルを支えられる訳も無く、地面に叩き
つけられた。
しかし躊躇が全くない晴は自らも体重を乗せ
倒れ込んだ勢いを生かし、海堂の体に一番
近い自分の部位、頭を使いヘッドギア越しに
頭突きを見舞ったーー
「一本!二本先取にて稲森の勝ち!」
「両者礼にて試合終了」
試合は終わった、晴の圧巻である。
晴「こんな俺の戦い方があったのか……
俺は実直に技を磨く、それを活かすには
俺自身が自分を信じ、自分の体で覚えた事を
信じ切る事で、考える時間を全て攻守に注ぎ
込めるのか……」
正に実直に生きた晴ならではの戦い方である
ハクとは正反対とも言える彼の戦い方を
知った晴であった。
そして昼を挟み、とうとう念願であった
ハクとの試合が始まる。
ーー準決勝線が幕を開けるーー




