昔話 道場編②
ハクと仲君の試合は続くーー
互いに一本取れない状態である、体ごと飛び込む
作戦通り、仲君が勢い良くハク目掛け一足飛びに
動く挙動を見せた瞬間、身長の差もあるリーチの
差を埋める蹴り『足刀蹴り』をハクは放った。
※足刀蹴り(足のくるぶし下の先、踵から足の小指
までの横面を的に当てる蹴り、体勢は回し蹴りと
違い体を開き足を槍の様に突き出す攻撃方法)
リーチを含め、挙動が一直線で飛ぶ足刀蹴りは仲
君の胴目掛け一直線に最短の軌道を描き彼を捕ら
えた。
師範「一本っ!」
小学生に一本取られる恥ずかしさからか、仲君の
顔が赤くなる、明かにこちらから見ても冷静さを
失っていた。
そして二本目、同じ行動をしてしまう、中学生の
体躯の大きさを生かし、力で押し込もうとする仲
君の攻撃はもうハクの思う壺、開始直ぐに考える
隙を与えないと言った作戦なのかも知れないが……
浅はかである、全く同じ再現、巻き戻し再生する
録画のような展開、全くように同じ攻撃を呆気な
く喰らってしまった……
中学生、故の若さか、恥ずかしさと、師範の声、
相手が小学生という事、そして何より何時もと違
う試合で、どう行動するか読めない相手に力だけ
で攻めた当然の結果である。
格下相手、実力が離れている相手ならまだしも、
ハクのステップの速さに気付きながらの失態であっ
たには間違いなかった、しかし其処は道場内でも
中学生の上位組である彼は二本目の愚かな行動に
即座に対応、冷静さを取り戻した。
仲「……ハク、凄いよ、この短期間に、俺のミス
もあったがソレを誘った君の行動もあったろう、
ありがとう、今後の精進に役立つよ」
固い握手をし互いに師匠の合図と共に礼に尽くす。
大野達とは大違いである、町で騒いでる中学生とは
違い仲君は小学生に負けた事をバネにしようとし
た、更にハクを褒める行動に、この道場の素晴ら
しさを感じた。
しかし先程の試合の展開は実際は良くある、人の
動きはパターン化しやすい、技を習っても、いざ
試合等を見ると単純さにお父さんや友人達も俺だっ
たら……何て話を聞いたことが誰でもあるだろう、
俺の親父も良く言っている、念仏を唱えるが如く
そりゃ、しつこくブツクサと酒を飲んでいると尚
更だ、じゃやってみれば良いと、俺は親父に心で
叫んでいる。
しかし手練れになれば成る程、その癖は消え、複
雑さを増す、これは経験による物なのだろう。
晴「お疲れ!ハク!やるな!上級生相手に勝つな
んて凄いぞ!しかも相手は仲君だから余計凄いぞ」
ハク「ありがとう、次の試合は晴とだね、勝って
よ!」
晴「解ってるって!準決勝ハクと当たるからな!
絶対やろうぜ!」
こうして約束は決まった、ハクとの対戦が楽しみ
だ、実際目で見るより、やった方が理解出来る、
何より、こう言うタイプは滅多な事では巡り合わ
ない、試合形式も然りだ、血湧き肉躍るとは今の
感覚なのだろうと俺は思った。
こんな貴重な経験逃すものか……いつかこの経験
は役に立つ、ルールに縛られない彼の戦い方にフ
ィールドの広さ。
そして俺の試合が始まった、体躯のいい俺は相手
が中学生とはいえ引けは取らない、日々体と技も
練習に練習を重ね磨いてきた……
何時もならドキドキが体を少しこわばらせるが、
今の俺には興奮でしかなかった、先のハクとの対
戦が控えているからだ、そして理解している、今
の目の前の試合を疎かにしては先は無い、しかし
足元ばかり見て集中するよりも、先を踏まえて試
合に臨む方が視野が広くなると言うか……上手く
言えないが……そう、腕立てだ、30回やるぞ!と
意気込んでやると20回ほどで心が折れる、しかし
目標を100回に据えてやると……これまた不思議に
30回など序盤という頭が働くのか、辛さを感じな
い位、楽に感じる目標を過ぎ50位は平気でやれる
もんだ……。
師範「両者、前へ!礼!試合開始っ!」
何時もと違う試合形式もあった、ハクの事もあっ
た、先を見る、全ての要因が俺に新しい感覚を経
験させてくれている、今の俺は集中している、そ
して今まで習った、練習した体で覚えた感覚に全
ての考えを切り捨て目の前の相手に集中する。
俺もまだ勝てた事のない相手、年上の仲君同様、
中学生の実力者ではナンバー2とされる海堂君、体
躯は俺と似ている、力は同等、技も俺には同等に
見えた、しかし俺の勝てない要因は何かーー
それは俺には、わからなかった
海堂君の様子見の下段蹴りが俺の足を狙う、難な
くソレをかわし、互いがフットワークを使い円を
描くよに構え動く、
海堂(晴は小学生と侮れない、いつもは俺が勝っ
ているが、正直、ギリギリだ、しかし小学生に負
ける訳にはいかない……)
晴(下段での様子見か、一気に攻めて来ないのは
俺を用心しての事、実力の拮抗は海堂君も認めて
くれてると言う事、しかし、それは簡単には勝た
せてくれないという証……)
晴が今度は掛け声と共に中段回し蹴りを放つ、そ
れを払い受けで、また構え対峙する。
※払い受け、腕の肘を中心に半円を外に出す様に受
ける腕の外側肘から手にあるふくらはぎの様な柔
らかい部分を手を曲げる様にして緊張、硬くし蹴
りの威力を防ぐ受け方、払って受ける、字の如く。
晴、海堂、共々、気合いの掛け声が飛ぶ、まるで
会話しているかの様に呼応してーー
晴「せいっ!」
海堂「うりゃ!」
今度は海堂が一気に距離を詰める、左拳が顔面を
狙う、晴は辛うじて避けるも拳はヘッドギアの側
面を擦り抜けた。
晴(チッ流石に早い)
少し体勢を後方に下げた晴の距離に海堂君は膝蹴
りを間髪入れず差し入れる。
晴「うわっ!」
十字受けでソレを受けるも腕が痺れる、動きの速
さに何とか対応するも受けが間に合わず、中途半
端な形の十字受けに膝蹴りは容赦無く晴の腕を破
壊するつもりで放たれたものだ。
海堂(そんな中途半端な受けごと、胴に膝をブチ
当ててやるわ!)
『ドン!』
鈍い音を立て、海堂君の膝が晴の胴を貫いた、
師範「一本!両者下がって」
晴は道着の崩れを直し開始戦に戻る、チラリと海
堂君の顔を見た。
海堂君は一本先取した事による安堵感と小学生に
負けるかもしれないという恐怖感が和らいだ様で、
落ち着き払っていた。
そして俺はハクの方をチラリと見る……ハクも俺
の方を見て何やら変な動きを見せていた、手の平
を広げて頭に置き耳の見立てたその格好で何やら
叫ぶアクションをしているようだ。
晴「?」
晴「何だよソレ、緊張を解いてくれてるのか?」
海堂君の方の仲間の陣営の声が聞こえる、
陣営「いい感じだぞ!晴は萎縮してるぞ一気に行
け!」「膝蹴りナイス!海堂君」
俺の仲間達の声も聞こえる……
「何やってんだ晴!蹴りだ蹴り!」「もっと手を
出して行け!」
しかし俺はハクの動きから目が離せない、今度は
四つん這いになりながらライオン?の様な仕草を
する……隣に居た中学生の先輩の方を向いての行
動に試合を馬鹿にして見えたのかハクは頭を叩か
れた。
(あっ殴られた……)
それでも仕草をやめない、その目はジッと俺を見
つめて決して目を離そうとはしない。
師範「おい!ハク!何ふざけてんだ!両者真面目
にやってるのに貴様は!」
中学生も師範の声に呼応してハクを抑え出した、
中学生「お前!ふざけんのも大概にしろ!」
それでもハクは辞めない、まるで猛獣の様な仕草
に周りが苛立つ、
師範「おい!この試合終わるまでハクを外、出し
とけ!」
中学生達に引きずられながら外へ出されるハクは
姿が見えなくなるまで、晴に向けライオンの様な
アクションを辞めなかった。
晴「……」
(ハクがあんな仕草をからかう為にするか?……
否、アイツの行動はいつも人の為に何かしている、
誤解されようとも揺るがない何かを持ってる奴だ
……考えろ俺、考えるんだその意味を)
師範「では仕切り直しだ!始め!」
両者構え、再び試合は開始された、答えの出ない
晴、しかし晴の精神状態は安定してさらに落ち着
きもいつもより上にいた。
一気に攻め試合を終わらせようとする海堂君の猛
追が始まる、一気に連打が晴を襲う、辛うじて受
けるが、後退に次ぐ後退、責める隙が見つからな
い……
壁際に追い込まれる晴は流石に焦る、しかしそれ
でも晴はハクの行動について考えていた、もう唯
一勝てる見込みがあるとしたらハクの行動が意味
する何かーーと晴は信じて疑わなかったからだ。
(ライオン……がおーっ!)
(怖い……)(あと何だ、動物園……)
(野生……)
壁際での猛追を鍛錬に鍛錬を重ねた晴の体が集中
力も相まって辛うじて捌くも瀬戸際である。
晴(野生……ライオン)
「そうか!がおーっ!」
晴の目が変わった。
晴「ハク……ありがとう、お前が追い出されてま
でした行動の意味理解した!」
空気の変わった晴に危険を感じた海堂君が周りか
ら見れば猛追のチャンスを棒に振る様に後方へ一
気に下げた。
海堂君陣営「あぁ……」残念そうな声ーー
「何やってんだ!海堂!」
しかしここは流石、ナンバー2、空気を読んだ彼の
行動は正しくもあった。
そして試合は激変する……。
【今日のポイント】
十字受け、クロス受け、言い方は多々あるが読んで
時の如く、腕を交差させて二本の腕で受ける、威
力の強いと思われるモノに対し一本では払い退け
られない時などに使う。
※筋トレ等、目標を上げてみよう50やるなら100を
念頭において行うと楽、これは私がやってる方法
だが人によりけりだが楽に感じるぞ!
晴は語る。




