日記
僕は、あの出来事以来、実は記憶が無い。
家族探しが目当てだが、思い出せないモノはどう
しようもない、という事で当て所ない旅にいるの
だ、情報も無く彷徨うだけの日々が続く……
「まさか!異星人に記憶操作されたのか!」
等とたまに思うが……思っても解決しないので考
える事をやめた。割と早く……5分位で。
今日は以前拾った日記のような物を読む事にした。
拾ったのはいいが薪のアテにするつもりで拾った
のだが、どう見ても日記だな、これは。
悪いな……と思いながらも、生き残りの家族が居
たなら届けよう、そう思ったから手掛かり探しで読
む事にした、所どころ破れている……
どれどれ……
ーー内容はーー
起きたら病院で、人は既に見かけなかった、運が
良かったのかな、ゾンビにも見つからず今こうし
て生きてる、そして何か行動すべく動いた。
彷徨って、取り敢えず彷徨って……彷徨うしか出来
なかった。アメリカは広い……
病院の側の周りは建物を出るとうようよ居て対処
の仕方も今ほどわかって無かったから見つからな
いように、そこから逃げ出すのが正直精一杯だっ
た、廃墟と化した町は静かで風の音だけがする、
端から家に片っ端に入り食料と水を探した。
常備する食べ物は意外とあった、この辺は昔から
ハリケーン等の対策で地下に部屋がある家が多く、
避難する場所を確保するのが当たり前のようだっ
た。
ふと思う、缶詰などの期限がきれた時、人はどう
やって再興するのか考えねばならぬ時期がいつか
くるだろう、僕も目的を果たしたら、安住の地を
確保しなければならない、そんな事を考えていた。
一刻も早く成し遂げなければならぬ状況に不安し
かなかった、やっと辿りついた食料を貪るようい
に腹に詰め込み、水分を補給する。
体に染み渡る細胞が元気を取り戻す感覚が今も忘
れられない、 腹一杯なんて最早遠い過去の至極
の贅沢であった、ここに着くまでに、ここはもう
ゾンビらしきものは見なくなっていた、 時が経
ち彼等の肉体は硬直し、もはや歩き回ることもま
まならない、動きを止めた者は、あるべき場所に
帰ったのだろう。
『人は土に帰る』
その土はやがて新たな生命となりて命を繋げてゆ
くのだ、しかし全く見ない訳では無かった、地球
全土に恐らく放たれた、あの緑の霧は大気に混じ
り、雨となって再び惨劇を繰り返す、一度腐敗し
たゾンビは蘇る事は出来なかったが、肉体が滅び、
時間の浅いものは、ゾンビとなった感じだ。
人口密度の高い都会など、まだまだ危険ではあっ
たものの、いずれ世界の人口は減少の一途を辿る、
蔓延した疫病のように、そしてゾンビの数が減少
していくとゆう事は人類の数の減少でもあった。
雨の日、其れは今の世界で一番危険な日なんだ。
一定の場所で防護策無しに安易に寝る事は出来な
かった、厄介には変わらなかった。
窓が少ない家の一件を決め、他の家から取ってき
たものを使い、家の窓やドアを封鎖する。缶を紐
で結び、出入り口としたドアの前に取り付ける、
ゾンビ対策だ、夜は蝋燭があったのでそれに灯り
を灯す、ベッドのある二階には、この家の住人が
使っていたと思われるスマホを天井に取り付け灯
りを確保した。
雨が降ると何処からともなく大量のゾンビが現れ
るが彼等が壁を壊し中に侵入する事は工具でも使
わない限り釘で打ち込んだ板を破壊する事は不可
能な事から安心できた。
探索は毎日した……確保出来たのは食料だけでは
無かった。
食料
水
車
武器
ライター
衣服
近接武器、重いけど斧を選んだ。
先ずは車を選ぶ、農業が盛んであったと思われる
この場所には荷台付きのトラック型が多かった、
ガソリンを周りの車から抜き取り予備のタンクに
入れ替え荷台へと詰め込む。
一番重要な食べ物、水は出来るだけ封の空いてな
い新品を選ぶ、保管された場所からは三件も家を
回れば詰め込めない程の物資が手に入った。
一つ一つ缶詰に至っても消費期限を確認し長い物
と短い物を選択した。次はいつ手に入るか解らな
い味のついた食料は至極貴重だ、意外といけるの
はドッグフード、人間が食べても大丈夫とテレビ
で見た事があるが、その通りだった。
人の食べ物では無い理由か此処を通り過ぎた、生
き残った人も少ないのが原因かは解らないが、結
構手に入りやすかった。
後は調味料、大概の食事は野ウサギや食べられる
植物や果物の類だ、特にやさいや肉、魚といった
ものには調味料は有難い、文明の中でも特に有難
く感じた、臭みも誤魔化せるし、何より味が付い
た食べ物自体が貴重なのである、果物を除き大概
の食べ物には癖もあり、飲み込むのが苦痛になる
位の不味さである。
特に塩は取りすぎ注意とよく耳にするが、この状
況ではもはや摂取する機会など殆ど皆無である、
多少重くても大目に持ち歩いていた、探索にあた
っては土に埋め、わざわざ戻り回収する位の貴重
なものである。
水に関しては消費期限が短いものを選択、いざと
なったら濾過の方法もある、 車に至っても知
識のない自分でも出来る限り調子の良さそうな物
を吟味した、ボンネットを開け、見える範囲の液
状の確認バッテリーに関しても予備は必要だ、配
線をしっかり頭に叩き込み、念の為、ノートに図
を書き込む。
車は此処に来るまでにも時折だが拾う事はあった、
常に乗り捨てが基本だ、灯油等の入れ替え出来る
ポンプを此処で見つけるまでは、ガソリンの詰め
替えする方法が解らなかったからだ。
しかし歩くのと違い、距離が稼げる車は本当に便
利だ。音には気を付けねばならないが、基本、人
口のある都会を中心に徘徊する異星人との遭遇を
避ける為に、あえて人里離れたところを選び、移
動を繰り返す。
勿論タイヤに至っても充分な溝も確認、予備タイ
ヤをワンセット荷台に乗せる、ノーパンクタイヤ
と言えど安心は出来ない。1人だと車を2台持って
行くことも出来ず何かあった時は色々と覚悟をし
なければならない。
詰め込む車にも限界がある断捨離を繰り返し、念
密に……慎重に選んだ。
しかし嬉しかったのは飲食物、車の他に使い込ま
れた年代物のカセットテープだった文明に触れな
い期間も長かったせいか音楽のある生活がこんな
にも気持ち安らぐ物なのかと改めて感じる。
スマホには音楽は入っていたものの、著作権上、
既に保管という概念はなくネットが繋がらない今
は其れを聴く事すら出来なかった。
この車の持ち主の趣味なのだろう、オールディーズ
が落ち着いた音が流れる……
わざわざカセットで聞くこだわりようだ、聞いた
事は殆ど無いが、安らぐ曲が多く、開拓時代後の
故郷を離れた人々が多かったのだろう……今の自
分にはハマりすぎる曲だった。
たまに涙が溢れるが今は恥ずかしがる隣人も居な
い事が余計悲しみを増す、それでも少しの羞恥心
を持ちながら大声で泣いて見ることもあった。
こだまする荒野に音は最後にまた悲しさを連れて
くる……風が少し憎くもある。
空き家に入ると居ないとわかりつつ、
「お邪魔します」
「こんばんわ」
などと呟く日も多い……
散乱した部屋の子供部屋に入ると人形が落ちてい
た、家庭の匂いはもうしないが心の残り香が香る
僕もこうやって何時か、こんな空間を作っていた
のか……なんて思いと、自分の家族を思い出す。
大人になって振り返る事もなく、ただ幸せだった
この子供の時の守られた空間が今はとてつもない
感謝と、今の僕を支える生きる目標だ、会ったら
ちゃんと「ありがとう」を言おう。
俺はこの町に来て三日が経った、準備もそれなり
に整えた。何かあった時の為のリュックに最低限
の物を詰め込み武器のチェックをする。
今ある武器は倉庫にあった古典的銃と思われるレ
バーアクションタイプのライフル弾は45口径、狩
で使われていたのだろう、弾は大量にあった、練
習もかなり出来て感覚は掴めたと思う、二箱、計
100発以上はある。
後は小さいながら警察署から頂いたピストル、医
療品もあるだけ集めた、この世界だ、怪我は即、
命に関わる、消毒薬は常に持ち歩いている、ガー
ゼはあるにはあるが貴重な品物である。
毎日が体調が良いわけではない、風邪を引いた時
は本当に焦る、ベッドで暖かくなんて事は、この
ような状況になった時だけだ、硬いコンクリート
に薄いキャンプ用の寝袋、なかには敷き詰められ
るだけのその辺に落ちている新聞紙を詰め込んだ。
敵を恐れ車の下に潜って寝る事も多かった特に道
路しか無いようなところではかなり隠れる所も少
なく獣への警戒も同時に取れた、閉鎖空間も少し
安心出来た。
状況によっては火を焚くことも出来ない、無論、
重症化しても病院はもう無い。
都会で暮らしていた頃、全く気付かない事も多かっ
た、月明かりがある時はまだ良い、夜道の暗さに
は驚いた。月明かりに照らされる獣の目も恐怖だっ
た、僕には見えないけど相手は僕を見ている、昔
はお化け等、テレビで見て怖いなんて思っていた
時期もあった、最初の頃は、そう言ったものも怖
かった時期もあったが、今は恐怖の対象は捕食動
物、そして侵略者、そして人間……お化けと言っ
た仮想のものに恐怖を抱く心の余裕もないのだろ
う。
そんな事を考えながら音楽を奏で銃の練習、そし
て誰かのベッドで暖かく眠りにつく、身体を包み
込む毛布が頬を優しく包む、暖かさを感じる今は
至極の安らぎの日々であった、しかし此処も準備
が出来次第出立する。
出発の準備は整った、少し名残惜しい生活に心引
きずられるも、英気は養えた。地図を確認し人気
のない、車が通れそうなルートを割り出す。
久しぶりの音楽に自然と顔がほころぶ、リズムに
身を任せハンドルを手に廃墟の町を出発した。
日記を閉じるハク……
ハク「俺の今の生活これでいいんだろうか……」
「……」
シリアスは苦手だ……