昔話
朝を迎え、睡眠を殆ど取っていない晴も一階で少
し横になる、そこへ陸が降りて来た。
晴「おっ陸どうした」
陸「女性が用を足すから変態は下へ行けと言われ
て降りて来た……」
晴「ハハハそうか、そうか、じゃ変態とオムツ野
郎で少し話すか」
そう言うと横になり話だす晴。
晴「陸は部活か何かやってたのか?趣味とかなん
かあるのか?」
陸「部活はやってない、アニメが好きで良く見て
たけど」
晴「そういえばハクもアニメは観てたなぁ……い
や俺の親友なんだけどさ、本当は此処に来たのも
ツイデなんだ、待ち合わせしてたけど、早く着い
たからブラブラしてたら陸達と会ったんだ、で、
そいつ大人になってアニメ見ているから周りが茶
化した事あってな、ハクはアニメに関わらず、ど
んなジャンルでも見るんだけどな」
「ドラマに映画、アニメに歌舞伎、能やら、ジャ
ンル問わず観てたな、何かアニメはアイデアと勇
気、希望、発想力が凄いらしいな」
陸「そういう見方では観てないけど確かに主人公
に憧れたりしてるかも」
晴「あれだろ、巨大な敵に立ち向かう主人公、挫
けない、揺るが無い、カッチョイーじゃないか」
陸「現実とは違うけどね……」
相変わらずナイフをしまうポケットからは手を離
さない陸だった。
晴「そうか?今の現状だって昔からしたら非現実
的だろ?大きく分けりゃ今と昔、非現実にはかわ
らねぇよ、昔が今は非現実になっちまったからな、
今から生まれて来る子供達にとっちゃ俺たちの過
ごした平和な日々は陸が見ていた非現実ってやつ
だぜ?」
陸「そうだね……確かにそうだ」
屋根に向き呟く、
陸「俺も主人公になりたいな……そう言えば部活
はやってないけど町道場に行ってた、空手やって
たんだ、虐められて悔しくて、僕もアニメの主人
公に憧れて、親が唯一許してくれた習い事だった」
晴「空手か!俺もやってたぞ!俺は体動かすのが
好きでラグビーもやってた、空手はハクと一緒に
小学生の時行ってたなぁ、懐かしい」
陸「よく話に出てくるハクって人は強いんだろね、
晴さんもあんな強いんだから」
晴「あははっ、これがまた面白い奴でさ、ハクな、
道場で乱取りした事あるだろ?こう取っ組み合い
の喧嘩みたいな、自慢じゃ無いが俺は全国でも優
勝した事があるぞ」
見た目の体型通り流石といった表情を見せる陸。
陸「……全国凄い」
陸「乱取りはやった事あります、でも怖くて……
すぐ足がすくんじゃって殴られっぱなしでした」
晴「じゃハクと変わらないな、アイツ乱取りとか
組み手とかなると弱くて、自分より下の下級生に
ボコボコにされてるのよくあったわ」
陸「やはり才能なんですかね」
晴「どうだろうな……俺のも良く解らないけど、
そのハクな、俺と何度か喧嘩した事があったんだ
けどさ、ハクはいつも大会メンバーの補欠にも入
れなかったけど……」
晴「実はな……」
陸「……実は?」
晴「俺、一度も喧嘩ではハクに勝てた事ないんだ
わ!」
大声で笑う晴、
陸「え?え?え?」
晴「不思議だろ?喧嘩だからさ俺も本気出してた
けどさ……アイツ、ルールの中ではめちゃくちゃ
弱いんだけど、ルールに縛られないと強い、しか
も普通に強いって訳でも無いんだよなぁ……何と
言うか……独特というか、縛られて無いというか
常識が無いというか……」
陸「……」
晴「うまく説明出来ん!すまん!」
「あとアレだ、猿だ、パルクールって知ってるか?
ビルとか飛び移ったり、アイツ中学で体操部入っ
てて、元々身軽で、更にさっき言った映画のジャ
ッ○ー映画の真似事良くやっててさ、壁なんてス
ルスル登るんだ俺はそれに着いて行けなくってさ、
やられ放題」
「アイツの得意技は、そう発想力だな物を作るの
も攻撃方法も身軽な体を生かした戦法、ゲームだっ
たかな、人の動きのパターンやらを読み取る力も
そこに有るんじゃないかな?」
「小学生の時、初めてアイツと会ったのはそう小
学校3年の時だったな……」
ーー晴・ハク小学三年ーー
小林「おい晴、この前引っ越しして来た噂の転校
生いるだろ、何か変わったヤツで、大野が虐めて
るらしいぜ」
ハクは家の事情でよく転校していた、晴が小学生
の時は既に体も大きく、対照的にハクは身長が低
かった。
晴「イジメか……そりゃ許せないな、放課後、様
子見に行ってくる」
小林「またかよ、あまり他のクラスの事に口出す
と後が怖いぞ晴、それに大野って言えば中学生の
兄貴がいるし、すぐ俺らの喧嘩にも口出すうるさ
いヤツだっていうぜ?」
晴「嫌いなものは嫌いなの、俺は」
小林「知らないぞ、俺は忠告したからな」
ーー放課後ーー
晴は放課後になりハクの姿を探すもクラスに居な
い、イジメの定番男子トイレへと向かった。
大野「おい出てこいよ!トイレに居るのは分かっ
てんだよ!出てこないと水かけるぞ」
「シーン……」
大野「チッ、まぁ無視すんなら良いぜ、どうせ水
はかけるからさ、おいお前ら、上から水かけちま
え!」
有田「わかった大野くんいくよ!」
掃除用のバケツを仲間の有田と伊藤で持ち上げ、
勢い良くバケツをトイレにぶっかける。
『バッサーっ!』水は勢い良く個室トイレに流さ
れ辺り一面が水浸しになった。しかし水に混じっ
てドロドロとした液体が大野らの足元に水と共に
流れて来る。
大野「そら!第二弾だ!」
有田「よっし……あ、あれ」
「うわっ!」
足を何かに取られ、転倒する3人。
大野「うわ!なんだコレ!足が、足が滑る」
勢い良く転ける大野はトイレのドアに
頭をぶつけた。
大野「クソ!イッテー!」
晴がトイレの音を聞きつけ、勢い良くドアを開け
叫んだ。
「おい!何やってんだ!」
有田「やべ3組の晴だ、体でかいの良い事に威張り
散らしてるヤツだぜ」
大野「お前が晴か……先生にチクるとお前も酷い
目にあうぜ、覚えときな」
「おい!行くぞ!作戦は為された」
「いてて……」
2人「へーい、行こうぜイテテ……」
晴「たくっ何が面白いてんだ、水かけて」
晴もトイレに近づくが滑りそうになる。
「うわ!滑る!」
転倒寸前で堪え、水浸しになったドアに手をかけ、
「おい、大丈夫か?」
ガチャリ、鍵は開いていた、ドアノブ回し開ける
と中から傘をさしたハクが出てきた。
晴「……傘?」
ハクは便座の上に体育座りで折り畳み傘を広げた
姿でトイレから出てきた、不思議な光景に驚く晴
だったが、ハクは手に持った料理用の植物油の入っ
た瓶を取り出し、残った油を辺りにばら撒く。
晴「おい!そんな事したら後、掃除が大変だぞ!」
ドタドタドタ……
音を聞きつけた先生が慌ててトイレの中に入る。
先生「何だ!コレは!お前がやったのか!」
晴「イヤ、俺じゃ無くて大野達が……」
先生「言い訳か!いや……晴がそんな事する訳無
いか……見たのか?どうせ大野達だろ」
晴「はいそうです」
先生「またか、正直俺も困ってるんだわ、イジメ
とか洒落にならんからな、わかった、お前達もう
帰れ、明日アイツらに掃除させるから」
晴「はい……」
先生は傘を持つハクを見て、またかと言う表情を
見せ、頭の上に手を顔にあてていた。
(いつもの事?傘持ってんの?)
変わった奴だな、と思いつつも下校途中まで帰り
が一緒だった事も有り話かけた晴。
晴「おいハク、困った事があったら言えよ、同じ
学校の仲間だ、俺がお前を守ってやるからさ」
ハク「慣れっこだから大丈夫……」
晴「慣れっこって、お前……転校多いって聞いた
けど、いつもこうなのか?」
ハク「まぁ大体……」
肩に触れ同情する晴にあまり言葉を話さないハク
だった。
翌朝、大野達3人は先生の指導の元、便所掃除をさ
せられていたが油がなかなか取れず通常の何倍も
苦労しながらも掃除をさせられていた。
晴「あ……油ってまさか、この為にププっ」
思わず笑う晴。
ハクに興味を持った晴はハクを観察する事が日課
となった、何度か危ない目に合いそうな事があり、
助けに飛び出そうとするも寸前で、逆転する光景
が既に楽しみになっていた。
小さな消しゴムを授業中に当てれば数日かけて、
それを大きくし、ボール大になってから返却する。
足を掛けて転ばそうとすると転倒時、必ず転かそ
うとする子に寄りかかる様に、しかも肘を顔面に
適確に当てながら同時に転ける、無論、転かそう
とした奴の方が被害は甚大だ、更に周りの物をワ
ザと転がり時、被害が大きくなる様に転ける様は、
最早、芸術だ。
仕掛けた側は怪我をし、先生に叱られる当の本人
は、無傷……。
下駄箱の上履きを隠そうとすれば、下駄箱の中の
靴はベチョベチョ、どうやら上履きは持ち歩いて
いるらしい、トラップはそれだけに留まらず、開け
ると花粉だらけだったり、カエルが大量に入って
いたり、しかもそれは全て大野達のせいにされ、
毎日大野達は先生に叱られていた、やった事が証
明出来る様にペンキがいつも靴に塗られている位、
用意周到だ。
下駄箱に触れなければ良いのに、と思う晴だった
が彼等も意地になっている様だ、しかし半年程経っ
た時にはもう下駄箱には手を出さなくなっていた。
学校ではハクの下駄箱は禁断の下駄箱として有名
になっていた位だ。
体育の授業の時も大野達はハクを集中攻撃をする
も最初はやられていたハクだったがその内、上達
し彼等を軽く凌ぐ程であった。
やられた事をハクは落ち込む事なく、訓練として
受け入れてたようで……ソレを証明するかの様に、
やられたらメモを取っていた、一度後ろから覗い
た事があるが、ドッジボールの時は行動パターン
やボールの軌道、どうすれば早く反応出来るか、
そして素早く身を移動する為の足運びなど、あら
ゆる事がノートにびっしり書いてある、向こうの
作戦パターンなのが記されていた。
確かにあんな集中して、やられたら特訓を受けて
いるのと同じである、イジメと取るか訓練と取る
か、受け取り方が、まず普通では無かったのだ。
俺たちも5年生になり、同じクラスになる事が出来
た、俺はもう毎日が楽しくて、俺の方がハクの観
察日記をつけていた位だ、しかし彼はクラスでは
浮いている、そう、かなり、相当……。
俺は毎日ハクに話しかけた、無論イジメは許さな
い、しかし俺の目を盗んでまで仕掛ける大野達に
は俺もウンザリしていた。
ハクは引っ越しして間もない頃、ハクの虐められ
る元になった事件があったと、前の学年の時一緒
のクラスだった奴に聞いた事件があった、ハクが
いきなり女子に水の入った防火バケツを女子の頭
にぶっかけた事件だ、その女子はクラスの中でも
可愛く人気者であった、性格はあまり良く無かっ
たようだが、その時、女子の中にも虐めがあった。
その時の話だ……




