籠城
籠城する事となった廃墟ビルは5階建、だが、上3
階、4階、5階共に壁は剥き出し状態で屋上へと続
く階段や非常階段も破損し使え無い状態のビルだっ
た、2階までしか使えないが一階の鉄格子の様なド
アは硬くゾンビの侵入は無い。
2階部分は事務所になっており、机や椅子、小類等
で溢れかえっていた、食べ物は無く、給水タンク
から出る僅かな水があるだけだった。
ヒソヒソ声ーー
時男(おい、どーすんだよ食い物無い事忘れてた、
飲み水だって殆どねーぞ)
正人(仕方ねーよ俺だって今気付いたんだからさ)
美香「チョット、晴だっけ……臭いから下行って
くんない?」
ユキ「アンタも陸、オシッコ漏らしたんでしょ、
きったないわね……」
晴(ゾンビの肉片が付いてる、感染症やら病原体
の塊が付いている様なもんだ)
晴「俺は下に行くよ」
美香「そーして」
晴「陸は2階だ、此処なら下より暖かい、あと一階
に一緒に来てくれ」
陸「……」
時男「早く行けよ」
一階に降りる2人。
晴「小便は体が冷える、パンツは無いが、確か2階
に上がる時に見かけた……ん、あったあった!」
スカートは元はユキのものだった、彼等が行為に
至る時、着替えの為に脱ぎ捨てた物である。
スカートを見つけ陸に渡す晴。
陸「何これ……僕にスカートを履けって言うの?
やだよ……」
晴「贅沢言わないの、今は風邪をひく方が心配だ、
さっきも言ったがスカートは……」
陸「わかってるよ、聞いたよ……」
晴「そうか……だな」
ちょっと寂しそうな顔をする晴、どうも言いたい
様だ。
恥ずかしそうにスカートに着替える陸、
晴「良し!俺も着替えるか!お揃いスカートだぞ!
って、ミニかい!これじゃ意味がないな……」
カーテンを引き千切り体に巻きつける晴、その姿
はローマの男の様だった筋肉が美しくすら見える
似合いようだった。
陸「……」
2階に上がる2人。
その2人の姿を見たユキが赤面しながら陸を侮蔑し
た言葉で責める。
ユキ「いや!何履いてんのよ!それ、それ私のじゃ
ない!この変態!」
晴「おいおい仕方ないじゃないか、風邪を引くよ
りかマシだろ?それに元々スカートは……」
美香「はいはいバイキング、バイキング」
晴、口をパクパク「……」
ユキ「でも……アンタ(晴)のは似合ってるわね、
彫刻の人みたい……」
程よい筋肉に割れた腹筋に魅了された様だ。
顔が少し赤いユキとは対照に寒気を感じる晴。
(……何んだ?少し恐怖心が)
晴「まっまぁそう言う事だから陸はココにいる事!
いいね、みんな」
4人は固まり汚い目でも見るように陸を蔑む、晴が
陸に近づき言葉を掛けた、
「いいか、皆の事は知らん、だが俺はお前が気持
ち悪いとも思わないし、それを信じて俺だけの言
葉で今は耐えてくれ、大体、服なんて物は着る為
にあるし、人間が作った概念に囚われる必要が何
処にある?
「それに、雪山でのオムツは基本何だぜ?なんせ
尻出したら凍傷なる位だしさ、オムツだぜ!スカー
トなんか可愛らしい物じゃないか、気持ちがしん
どいなら俺をオムツ野郎と思え、陸が優位性を感
じるなら、お前が恥ずかしいとと思った感情を俺
に対して優位性を持て」
「俺は恥ずかしいとは思わないし、あの場所では
それが常識だ、今なら2回分吸収出来るスポーツタ
イプのオムツもあるんだぜ」
意味の分からない自慢気な晴を見て陸は少し恥ず
かしさが紛れたようだった。
時男「で、どうするよコレ、この状態じゃ出るに
出れない、水は乏しい、食料は無い出口も無い」
晴「……いざとなったら突進するしか無いな」
正人「またそれか……俺らには無理だソレゾンビ
を吹き飛ばす程の力はないぞ」
ユキ「ちょっと……ホントにシャレなってない状
況なんじゃぁ……」
事の重大さを理解し始めていた。
晴「取り敢えず寝よう、様子を見てからでないと、
今は体力維持だ」
美香「ちょっとホント悪いけど臭いから2人は下で
寝てよね……」
晴「俺は臭いが陸は此処に置いておく、そんな臭
くないだろ、小便なんて皆んなするんだから、異
論は認めないぞ」
晴の言葉に4人は納得し晴は一階へ1人降りて行き、
辺りをライトで物色し始める。
「武器になりそうな物は……お、ハンガーかけか、
コレは使えるな、よく小学生の時、ハクと遊んだ
ジャッ◯ー映画ゴッコの奴だ、コレの他は……」
忘れてた事に気付きハッとするーー
「しまったハクだ待ち合わせの日だった」
実の所、晴は1人ならゾンビを突き飛ばし、この窮
地を脱出する事は単独なら出来た、がそれをする
晴ではなかった。
「今日で1日か、明日で2日目か……」
「全員脱出……袋小路、事務室、椅子、机に商談
のパーテーション……」
「そして……2日か」
何かを思い付き、早速準備に取り掛かる。
「いっちょやるか……」
1日が過ぎ、状態は変わらず、そして2日目の夜を
迎えた、5人は陸を除き内部でも喧嘩が絶えなかっ
た、あの時あーすれば良かった、アンタが悪い、
そんな事を繰り返し雰囲気は最悪だった。
陸は喚き散らす声に怯え、部屋の隅でナイフのあ
るポケットから手を退けず、ひたすら身を低く目
立たぬ様にしていた。
晴の筋肉を見た2人の男は彼がいる事から陸への直
接的な暴力は使わなくなったが、苛立ちを隠す事
が出来ず、辺りの書類等を撒き散らし、その紙を
晴のいない時に陸に投げ、怯える陸を見てストレス
を発散させるのだった。
2日目の夜、相変わらず能天気に口笛を吹きながら
一階の辺りを見渡すーー
2階からユキと美香が怒鳴り散らした。
美香「もーうるさい!毎日ガタガタ何してんのよ!」
晴「あーごめんごめん、出来るだけ静かにしてる
つもり何だけど気をつけるよ!しっかり寝て食い
物が無い分、体力残しといてくれ」
ユキ「あーもう腹立つ!なんで私達がこんな目に
合うのよ」
黙々と作業する晴に気になったのか陸が下へ
降りてきた。
ライトを持った手に震えを抑えて……
陸「……ごめんなさい、手伝いもしなくて」
晴「あー良いんだ、気にしない気にしない、俺が
勝手にやってる事だし、それに皆んな苛立ってる
だろ?「怒鳴れば気持ちが楽になるならそれも良
しだ、今、壁作ってんだけど数が少ないから、資
源を無駄に出来ないんだ、アイツら作業苦手そう
だし壊されたら困るからね……よっと、痛てっ」
陸の目に晴の手が見えた、その手はボロボロどう
やら釘やネジを手で抜いたりして傷だらけの様だっ
た、釘抜きも無い状態で、そこら辺にあるハサミ
や物差しでパーツを外しパーテーションを丁寧に
繋ぎ合わせているよに見えた。
陸「僕も手伝うよ」
晴「おーそうか!助かるよ、陸なら丁寧にしてく
れそうだからな、任せた」
照れ臭そうな仕草を思わず出してしまう陸、
陸「……こんな僕でも助かるんだ」
晴「当たり前じゃねーか!助かる助かる、俺1人な
らあと2日は掛かるところだった、あまり時間を
掛けると逃げる体力も無くなるからな」
わかった、と言い陸は丁寧な作業で晴を手伝うの
であった。
するとーー2階から悲鳴が聞こえた。
美香「キャーーっ!」
その声を聞き、急ぎ2階へと駆けつけた晴の前に一
匹の蛇が迷い込んでいた。
ユキ「ちょアンタ達、へ、蛇よ!何とかしてよ、
もう!訳わかんない!!」
ドタバタとする室内、男2人も逃げ惑い、悠々と動
く蛇を見た晴は何故か嬉しそうだ。
晴「おーー!タンパク質見っけ!」
喜び勇み、逃げる男2人の間を悠然と歩き、おもむ
ろに素手で蛇を捕まえた。
手を合わせ蛇にお辞儀する仕草を見せる彼、
晴「晩飯ゲット!神様有難う」
ユキ「ちょっとアンタそれ食べるき?」
晴「何言ってんだ食うに決まってるだろ?昔は蛇
を良く食ってたというし、俺もよく食うぜ?」
涎を垂らしそうな顔で獲物を見る晴。
「皮はよく焼いて香ばしいくてさ、身は魚っぽい
けど淡白で美味しいぜ、噛みごたえは満点だ、つ
まり何時迄も噛めるって感じ、満腹中枢を刺激す
るから、尚、お得だぞ」
美香「うげ……」
晴「手羽先好きか?唐揚げ好きか?」
ユキ「鶏肉は好きよヘルシーだし」
晴「なら大丈夫だ、味は鶏肉に近い、それにお茶
漬けの袋見つけたんだ、喜べ皆んな!
海苔は腐り難いし、基本乾燥してれば大丈夫多分
だが」
時男「多分て、おいおい……」
晴は蛇をこんがり焼き、お茶漬けの素を出す、海
苔が乾燥しているかチェック、匂いカビ等は無く、
海苔だけを分ける、そこに給水塔からの水を少し
加え、水を温めて塩味付きの蛇料理の完成だ。
匂いは良いが果たして……。
コネコネしている様子を皆が覗く、ペンを箸に混
ぜる中身は黒くなった皮が浮き、美味しそうと言
えば美味しそう、グロいと言えばグロい、複雑な
表情を浮かべるも匂いが空腹感を更に引き上げる。
何も無いよりは有難い食事の完成!
よく焼いた皮を細かくハサミで裁断し、噛みごた
えまで追求した、こうでもしないと彼らは食事す
らしないだろうと踏んだ晴の心使いである。
ユキが先陣を切って、蛇肉の端っこを恐る恐るか
じる……気持ち悪い顔をするも、少しずつ噛むユ
キの顔を真剣な表情で見守る仲間達。
ユキ「……」
コロコロ表情が変わるユキの顔だったが……
ユキ「あら!結構イケる、コレなら食べれるわね」
晴「しかし、もう作られてない加工食品以外にも
慣れないと今後は大変だぞ?」
解ってはいるが認めたく無いが認めざるを得ない、
聞きたく無い結論の言葉に一同が難しい顔をする。
時男「そうだな……しかし辛いなぁ、こんな食事
が毎日か……」
晴「虫だって貴重なタンパク源だからね」
美香「あ、もう言わないでいい、虫!バグ!イン
セクト!いや!聞きたくない、聞きたくなーい」
口をパクパクさせ言葉を飲み込む晴。
晴「……」
正人「金魚2回目ー!」
笑う一同。
晴(良かった元気が出たみたいだ)
食事をとり皆はスヤスヤと落ち着きを取り戻し安
眠に着いた後を見計らい1人作業をこなす晴であっ
た、しかし猶予はない現実に晴も悩んだ。
晴(あんな都合よく蛇が出る事は無い、元気なの
は持っても明後日までか、早く仕上げなければ)
晴は関わった人間を見捨てる事を知らない、懸命
に全員助かる道を照らす為、懸命に作業をこなす。
そして次の日を迎えた。




