不穏な空気
こうして次の日を迎え、陸と共に行動する事となっ
た晴だった、陸は大人しく、余り言葉を話す方で
は無かったが、教えているうちに学は晴に心を少
し開いたのか語り出した。
陸「僕は小さい頃からイジメられて育ったんだ、
親もネグレクトって言うのかな……」
晴「……そうなのか」
陸「……」
陸「殆ど毎日親は出掛けて家には居なかった、で
も毎日のご飯はコンビニで買い物する為のお金、
500円は毎日置いていってくれた」
何か思い出し辛そうな表情を見せた。
「口答えすると何時も殴られてビクビクしてたから
かな……友達も出来なくて、寄ってくる人は何時
も僕をイジメるのが楽しそうなんだ……」
チラリと4人の方を見る陸
「出会ったあの人達も直ぐに僕を見て立場はこう
なったよ」
下を向き話を続けた……
「人には役割があって僕は母さんと……そして、
コロコロ人が変わるけど、お父さんのストレスの
捌け口として生まれてきたんだって思う様になっ
て、それでも子供の僕には何処にも行く場所もな
い……でも正直こんな親でも僕自身が離れたくは
無かったんだ、自分の心の居場所っていうのかな?
それだけでも……ある事に感謝しているんだ」
ただじっと陸の横顔を見続ける晴、
「だから僕は今ココにいるんだよね、きっと晴さ
んは不思議な人だね、こんな自分の事、喋る事な
んて今まで無かったのに」
晴「まぁナリはデカいけど人見知りしないからか
な?其れに俺は差別や偏見ってのがイマイチ良く
わからないんだよなぁ……皆んな同じ人間以外に
何かこう複雑な理由をわざわざつけるってのがさ」
陸「それはきっと違うよ、人は見た目やステータ
ス、態度、お金、学校だって先生と生徒の違い、
子供は大人に、大人は子供に差別という事を築く
事で成り立ってる訳でしょ……
だって流行り言葉を使うか使わないか、お洒落か、
お洒落でないか、見た目も、臭いも、歩き方も、
癖も、何もかもがそう」
晴「……難しい事、考えてるな陸は、俺は馬鹿だ
からよくわかんねーや」
陸「いや、理解して欲しくて言った訳じゃないか
ら……」
晴「そうか、すまん!わからん!」
陸「……でも羨ましい、その考え方、周りに怯え
る人間は僕だけじゃない、人の動き一つ一つに色
々考えてしまうんだ、そういうもんなんだよ」
晴「ふーん……」
晴は陸のポケットの膨らみの形からして、入って
いると思われるナイフについて問いた、
「で、ポケットに入っているナイフはサバイバル
用なのか?」
陸「……」
晴(答えは無いか……)
「おっと着いたぞ、濾過の方法は紙に書いておい
たから、素材は衣服も含め、そこら辺に転がって
いるから問題ないぞ!風呂だって入れられるから、
いっそドラム缶とか洗って大型の作るといいぞ!」
そういうと近くに転がっているドラム缶を軽々と
持ち上げた。
「持ってくか!」
陸(凄い……僕にもこんな力があったら)
晴「あと飲み水はちゃんとした方がいいが、風呂
なら、ある程度大雑把に濾過するだけでいいぞ!」
ドラム缶を置き地面へといきなり這いつくばると
キノコを拾い上げた。
「後は……おっとコレコレ、いいか陸君、キノコ
類は大変危険だから、覚えたヤツ以外、絶対に食
うんじゃ無いぞ、わかりやすいのだけ教える、こ
れも他の奴らが居たら1人3づつ分担すれば15種類
も覚えられるんだけどなぁ……」
陸「いいよ僕に全部教えて……」
晴「いや……やめとこう、わかりやすいのだけに
しとくよ、間違ったら大変だ」
陸(独り言を言う)
「やっぱりか、僕には無理って遠回しに言ってる
んだよね……」
晴「そんな事はないぞ」
思わず手が止まり、ギョっとした顔で晴を見る陸、
晴「驚いた?俺、山やら自然の中にいる事が多く
て昔から地獄耳と言われるんだよなぁ」
陸「あぁ、なんかすいません……嫌な気持ちさせ
てしまいましたね……」
晴「マイナス思考ってヤツか、気にするな、俺は
気にしていない」
満面の笑みで笑う晴だった。
「他人に言えないなら俺に言えば?俺は気にしな
いから、ここから初めてみるのも良いと思うぜ?
嫌な事は吐き出せばプラスがその内、嫌でも底か
ら出てくるさ!それにもうバレちゃったんだしさ
言いたい事」
ニタニタ笑う晴だがーー
陸「……あ、このキノコはダメなんですね、似て
ると言えば似てるケド」
晴「……」
話を誤魔化そうとする陸に無理強いはしない晴だっ
た……。
ここに来て2日が経ち、ハクとの待ち合わせの日で
はあったがこのメンバーが気になって此処から離
れる事が出来ない。
(まぁ時間はあるか、今、朝の5時だから後12時間、
折を見て出るか……)
明け方、ハクの待ち合わせの準備に自分の荷物を
チェックしていた晴だったが、衛生電話だけがリュ
ックから消えていた、朝食時、皆に衛生電話の事
を聞いたが知る者は居なかった、家族や友人に連
絡がつくかも知れない衛生電話に興奮する姿から、
演技とは思えず、それ以上追求する事をしなかった
晴であった。
確かに晴のリュックを覗いた時男、正人、ユキ、
美香ではあったが、彼等達が覗いた時はキノコ取
りに行った後、晴が数日分の水を濾過するペット
ボトルを幾つか製作している隙だったが既にカバ
ンから衛生電話は消えていた。
4人は次の日、同じ行動をする予定の正人、時男で
物資探し、2人の女は留守番となってはいたものの、
陸を晴に預けた後、彼等は物資探しもせず4人で遊
びほうけていた、それは晴のリッュクに食べ物を
見つけた他に理由はない、晴の性格を見抜き、食
料を自分等に分けてくれるという算段である、も
し仮に拒んだとしても時男、正人で晴から食料を
奪う気であった。
それを見つめる3人の影ーー
名は栗栖、佐々木、佐藤の3名であった、彼等3人
はコミュニティーを持つ、リーダーは栗栖、遠征
に出てこのメンバーを見つけ監視していた。
栗栖は頭が切れるリーダーで残虐な面を持つ冷静
沈着な男である、反対に佐々木は特攻隊長と言う
べきか、血の気が多く、残虐性は栗栖に匹敵する。
佐藤も腕っ節には自信がある大柄な男であった。
時男らの居る廃墟ビルから離れた、同じく廃墟ビ
ルの屋上から双眼鏡で偵察する男達ーー
佐々木「ヨロシクやってんなぁ……羨ましい限り
だぜ……」
栗栖「やめとけ、あぁ言う軽い奴は大体病気持っ
てるぞ」
佐々木「……そりゃ勘弁だな」
佐藤「この時代いらん病気貰ったら、最悪だから
な、女も慎重に選ぶ時代になったな」
栗栖「それはそうと手配は済んでるな?」
佐々木「あぁバッチリだ、あいつ等の食料は全て
頂こう、女は残念だが、殺るなら俺にやらせろよ」
栗栖「あぁ好きにしな、自分の役割をキチッとす
れば私は文句は無い」
妙な笑い方をする佐々木に少し引き気味の佐藤だ
った。
佐藤「……お前、異常だな、殺しが面白いか」
佐々木「この時代に何言ってんだ、異常か正常か
なんて異星人にも言えよ、他の生き残りだってや
る事は同じだろうが」
佐藤「……まぁそうだな」
(綺麗事ってやつか)
栗栖「この三日間見張っては居たが銃は所持して
いないらしいな、1人仲間らしき者が合流はしたが
他の仲間は居ない」
佐々木「銃探しの遠征だってのに、此処日本じゃ
中々見つから無いな」
佐々木「まぁ仕方ない、普通はあっても警官ゾン
ビから奪う位だからな、それにもうアレから日が
経ち過ぎてる、既に奪われてるさ」
栗栖「後はそれを奪いコミュニティを大きくし、
今こそ俺達の日本を作るんだ」
佐々木「あぁ、パラダイスジャパンをな」
栗栖「銃が無いとなれば物資のみ、まぁ大した物
は持ち合わせては無いみたいだ、時間と俺達の物
資の無駄だ、明日決行するぞ、仲間になるか、拒
むならやってしまえ」
佐藤「わかった」
佐々木「俺は抵抗してくれた方が楽しめる」




