表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末異星人侵略世界でスローライフ【解説付き】  作者: しおじろう
民家攻防戦
28/237

本当の暗闇


夜が開け カナと山田さんが目を覚ました。

体調のすぐれない山田さんは、僕達の問いに

笑って頷くだけであった。


もう会話する力もないのだろう……しかし持って

いるペンで生きているかもわからない娘さんや奥

さんに手紙を書いている様だった、手紙……正式

には言い方が違うのだろうが、僕は敢えて手紙と

言った、山田さんの様な大人になりたかったと僕

は思う。


もう既になりたかったと言う表現をする自体、諦

めていたのかも知れない、いやきっと、そうだろ

う……


もう既にスーパーから1日、パンを半分食べただ

けの2日目の朝、僕はドア付近に昨日の鍋の位置を

確認した、鍋はドアからは死角となり見えない。


しかし手を伸ばせば届きそうな場所に牛乳パック

が見えた、中身は溢れているが中にはまだ少し残っ

ているかも知れない、そう思った僕は手を伸ばし

牛乳パックを拾った。


太一「やった少し残っているぞ」

その辺に転がっているペットボトルに牛乳を入れ

替えた、それは、ほんの一口という量だった。


ペットボトルのキャップに牛乳を入れ、カナそし

て僕、そして食べ物は取れないと思われたが水分

ならという事で山田さんの口にも牛乳を差し入れ

た、ニコリと笑う山田さんに僕は少しホッとした

何をする訳でも無く、ゾンビの呻き声が流れる本

屋にてただ時間が過ぎて行く……


そして2日目の朝が来たーー


僕は立ち上がり意を決して、再び食料を探す事に

した……


しかし、時は待ってはくれなかった……僕の足は

もう動かす程の体力は残っていなかったのだ。


立ち上がろうとすると、膝に力が入らない、ガク

ンと膝を落とし、転げ、また起き上がろうとする

も自分の体とは思えない位、自由が効かない。


隣に居るカナを見た。


良く見るとカナも元気な面影は無く既にミイラと

言っていい顔つきになっていた事を僕は今更、気

が付いたのだ、見えいた筈のカナの変化に僕自身

も気付かないでいたのだった。


状況を確認しようと脳を落ち着かせ山田さんの方

を見た、同じく山田さんの顔もすでにゾンビと変

わらない程の衰弱状態だった。僕はカナのカバン

から鏡を取り出し、自分の顔を見た。


愕然だったーー


僕も2人と同じく生きているかさえわからない様な

自分の顔にただ、そう、ただ困惑し現実を受け入

れる事が出来ない。


もう僕達には時は残されてはいなかった……理不

尽、そんな言葉を思いっきり叫びたかった、しか

しもう叫ぶ力も太一自身にも無かった。


彼は最後の決意をする。

もう生きる希望は無くした、最後の欲求、それは

カナへの愛情……


本屋の隣は貴金属店、食べ物とは無縁で何も考え

て居なかったが彼は最後に指輪と言う愛情を彼女

に捧げる事を生きる目標にした、生きる目標タイ

ムリミットまで5時間ーー


彼は這いつくばる、そしてドアを開け、もう殺さ

れようが、喰われようが、構わない、どの道、行

くしか時間は残されては居ないのだから。


決意を胸に無様に芋虫の様に時には体をクネらせ、

隣の貴金属店へ何とか入る事はできた、彼の最後

の希望の愛に応えるかの様に、その瞬間までゾン

ビは奇跡の様に彼等の周りから消えていた……


しかし皮肉にも思考能力が低下した彼の目には、

這いつくばり移動する際に視界に入っていた食料、

そうあの鍋も目の前に落ちていたにも関わらず彼

の目には既に映らなかった……


指輪を取り、本屋へと帰る太一はカナの横へ自分

の体を座る状態にするのも一苦労だった。


そしてカナにキスをする、カナに意識があったか

はもう僕にも解らなかった……。


そしてこの行為にカナが喜んでくれるかも解らな

い、ただの自己満足なのかも知れない、そっと指

に指輪をはめる、痩せた指に小さいサイズを選ん

だ指輪も今のカナにはガバガバだった、太一は気

付かなかった、そのガバガバな指輪が外れてしま

わない様に、しっかりとカナの手は握り締められ

ていた事を。


自分の指にもお揃いの指輪をはめる太一。

「カナ、愛してる昨日、怒鳴ってごめん……」

カナ「……」

山田さんが彼等に聞こえない程の囁く声で呟いた、


「雪菜……娘よ」

「……汝、病める時も健やかなる時も彼を愛し、

共に……ち」

「……誓いますか」

山田の目に映るカナは山田からは、娘に見えてい

た……。


聞こえない筈の山田の囁きに呼応しカナと太一が

囁く。

太一「……誓います」

カナ「……誓います」


そして2人は寄り添う様に静かに眠りについた……


山田も静かに目を閉じ、本屋は静寂に包まれたの

だった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ