ハク戦26 スタート
秘書「何っ!」
笠田「どうした」
秘書「……それが自衛隊以下レイダー全員が無傷、此方の隊は霧散
したとの事です」
「命令も聞かずに霧散だと!この大義も知らぬ愚か者どもが!」
笠田は顔を真っ赤にし怒りを露わにするのだった。
「行くぞ……奴らの大罪の罪は台風が裁いてくれる」
「……は」
幹部に守られながら秘密の地下通路へと入った笠田はそのまま秘
密の避難シェルターへと向かうのであった。
『必ず復讐してやるわ……ハク』
そして風はついに強風となり始めた……が幹部という餌に取り憑
かれた者達が武器を手に取りハクに近づく。
ヌク「そんなことしとる場合か!」
レイダー「引っ掛からねぇよ、台風ごときで何言ってんだ、大袈裟
な野郎だな、いざとなれば施設の中に入れば済むだろうが、コンク
リート製だぞ?文明舐めんなよ」
ヌク「……愚か者どもめ」
レイダー「此方は貴重な銃が何丁かある、弾避けて全員倒すには到
底無理だぜ、爺さん動くなよ、いいか報酬は命を賭ける価値のある
贅沢三昧の幹部だ、早いもの勝ちだぜ、ヒャハッー」
レイダー「だが狙うはハクだ!この強風だドローンは使えねぇ」
複数人が我先にとハク目掛けて飛び込んでいく、だがハクの目の
前に立ちはだかったのは他の誰でも無い雪丸であった、地面に転が
る倒れたレイダーを摩擦術で持ち上げ体捌きで勢い良く回転をつけ
た肉弾と化したレイダーを放つ、複数のレイダーの体は面白いよう
に吹き飛んで行ったのであった。
ヌク「……お前」
ハクの前でどういう顔をしたら良いのか分からず困った表情の中
に何故か事の呆れる結末に自分の本当の悩みの小ささを知り、彼の
中にある強さに最早、自分を比べる気は更々消え失せていた、憧れ
るでは無く、追いかけるものでも無い、強さとは人の中それぞれに
あり、それこそが勝つべき相手だという事を……それを行く道こそ
が『道』である事に。
雪丸「滅茶苦茶だ……昔から、そう昔から変わって無いな、だから
お前は俺が守る」
顔から邪険が消え細く微笑む雪丸が立つ。
「下がれハク、風が強い、もうドローンは使えないだろう」
雪丸「ハク、すまない……本当の敵は誰かようやく理解した、初め
から俺は貴様の敵すらなかったのだろう、それにお前は戦いが始
まってから認めたくは無かったが私に勝つつもりならいつでも俺に
勝てた筈だった……認めたくは無かった事を含めようやくだ」
ヌク『毒を出してるか……心の中の毒を吐き出せ、本心から出た言
葉は強く思うよりもお前を成長させるぞ、認める勇気は始まり、そ
れを口に出す勇気は現実を変える、そして行動する勇気はお前がお
前に勝った証明だ……行け思うがままに、今こそがお前が夢見た真
実の道だ、その行動がもたらしたお前に勝てるお前は居ない』
レイダー「どけコラ!殺すぞ!雪丸、邪魔すんじゃねぇ!」
「制空園……プラス阿修羅」
怒涛の人数でのラッシュを阿修羅で簡単に凌ぎ倒す雪丸。
「柵中でお前が俺にかけていた物、あれはアルコールだな、俺も此
処に入ればわかる、あれはスピリタス、アルコール濃度は96、あ
の時は上の焚き火一つ落とせば俺は負けていた」
「それだけじゃ無い……何度あったか、あの戦いの中、あぁ分かっ
ていたさ、それでも認めたくは無かった、既に負けていた事実に、
そして一番認めくはなかった、相手にすらされていない事に、そ
してそれは俺自身が俺自身に相手にされていなかったんだな」
「雪丸!散弾銃でも喰らえ、ハク諸共な!」
足下に見える目標のような紐を勢いよく引っ張ると銃を持つレイ
ダーの背後からヒモの先に付けられた鎖が音速の速さで敵の後頭部
目掛け鞭となり敵を倒す、勢いはそのままに腕を巧みに操り横振り
に変化させた先に並んだように立つレイダー数人を巻き込んだ。
「そう……俺の敵は」
「俺だった……」
あの時も冷静を装い判断力をミスった、最初からお前は揺らぐ事
なく目的に向かって真っ直ぐだった、俺は……後悔と自責、策、嫉
妬、怒り、迷い、あらゆる負、自身に振り回されていた、勝てる筈
は無かった土俵にすら立てなかったのは俺自身だった」
多勢で押し寄せる敵に少しずつ傷ついて行く雪丸の体だが彼に迷
いは無かった、それを見ていた一部の弟子達が彼を守ろうと駆けつ
けるがレイダーはそれをチャンスとばかりに人質に取ろうと襲い
かった。
レイダー「足手纏いが、だがありがてぇ!」
ヌク「来るでない!正常で無い状態のコイツらは危険だ」
雪丸「!」
弟子の1人である少年の背後を取りナイフを首に当てようとした
時、武丸がレイダーの背後に素早く飛び乗り体を捻ると敵は倒れそ
のまま腕十字を決め腕を折った。
「雪丸様!足手纏いは承知、故に我等に気にせず戦いを!覚悟を
持って俺達は来た、此処でどうなろうが俺達は自らそれを望んでい
ます!だから、だから我等に気にせず!」
『いつもは足手纏いだと心の何処かで思っていた……だが多角から来
る攻撃にハクを守るには……』
その武丸に横から敵の棍棒が頭目掛け襲うも間髪入れず間に入っ
たヒロの腹が打撃を防ぐのだった。
レイダー「何い!何だお前は!」
ヒロ「完全防備で此処に参上!」
武丸「お前……すまん助かった」
ヒロ「なんのなんの、師匠を守るのは俺の役目でもあるぜ、失態だ
らけだったけど……ようやく出番がやって来たー!、名誉挽回!防
具も着けた、顔にはキャッチャーマスクも着けた、悪党共の攻撃な
んざ効かねぇ!クッションの力を思い知るが良い」
武丸「そんな重装備でありゃな……」
ヒロ「ふん、背中にはランドセルだぜ!」
レイダー「邪魔者が増えた!早く抑えろ、せめてハクを殺せれば良
いんだ一斉にいくぞ!」
複数人がハク目掛け槍や剣、ナイフを手に取り誰かがどさくさに
紛れ殺せれば身を引くつもりだった故に雪丸を相手するよりも気迫
が乗っていた。
雪丸「やらせはしない!絶対に!!」
常にゾーンに入れる雪丸の前に複数人の武器の動きが見える、だ
がその数は多く少しのミスも許されない程の数が視界に入る。
敵の槍を数センチの間で首を避けて突かせる、首を通り過ぎた槍先
の棒部分に右手を添え押し込むと弾力で棒はしなり、雪丸の体は勢
いそのままに崩拳の型(体当たり)で吹き飛ばすと同時に敵の手を
離れしなった槍の行き先は雪丸の手を離れ反発する、その挙動に合
わせ体捌きを半身変えたことで横から襲うレイダーに飛来する、一
撃にニ撃の攻撃を加えた攻撃を放ち続ける、容赦ない一斉攻撃に狂
気を乗せた切先が更に数を増やし襲いかかった、制空園を使い脳で
処理するのでは無く今まで修行で培った本能という最速の動きが微
塵のミスも無く敵を粉砕していく。
『この感覚……疲労する所か感覚は以前より遥かに研ぎ澄まされてい
くのを感じる』
ーーそれは雪丸から邪念が消えた事による現象である、迷いの中、
本心を偽った拳は常に一歩躊躇していた、反応に心と身体が一瞬の
行動に自ら制限をかけていたからだーー
「そうだ……これだ、あの頃より技に磨きをかけた、だが何故か上達
を感じなかった……違いは分かる今は迷いも躊躇いもない、頭が軽
い、心が軽い、今まで何処か結果に判断に畏れを抱いていたが今は
不安や恐怖を感じる所か心を原動力とするこの湧き出る力を感じる
苦悩の中いつ心が折れるか紙一重の際で力は常に限界を越える事に
執着していた……今は心が折れる所か行動の一つ一つが心を軽くす
る!これだったのか無限に湧き出る力の源は心だったのか」
ーー心技体ーー
レイダー「雪丸!所詮手足は数が決まってるんだぜ!」
味方の背中を突き飛ばし背後からの一斉の複数人の散弾銃での射
程範囲に入った。
レイダー「すまねぇな!お前ら分も贅沢してやるから贄となれや、
これだけの散弾が近距離戦に忙しそうなお前に避けれる筈は無い」
レイダーA「テメェ!仲間まで撃つつもりか!」
確かに攻撃は前方を防いでいる雪丸には手に余る数だった、危険
が迫る時ハクが声を上げた。
ハク「シールドマン!」
なんとその間に入ったのはシールドマンだった。
「ジャンジャジャーン!ようやく俺を使いやがった……散弾だ?大型
盾には効かないぜ!」
雪丸「すまない……助かった」
シールドマン「おっ?おお?あらまぁ随分しらしくなっちゃって、
俄然やる気出るじゃない!まとめて吹き飛ばしてやる!こちらは任
せな!」
レイダー「まだまだ!俺らのメリットは数だぜ!右から攻めろ野郎
共!……ってあれ?少なくなってねぇか?」
襲いかかる右側面から見慣れた多人数の声が響く……。
弟子「遅くなりました!此方は抑えます、存分に戦って下さい!」
雪丸『間に余裕が出来た、これが繋がる力……俺の力だけでは出来
ない複数の力」
その背後にハクが付いた。
ハク「それも先輩の力の一つです、そして雪丸先輩の力もまた皆の
力の一つ」
雪丸「俺もまた皆の力……何だこの湧き出る高揚感は」
『背中を任せるなんて思いもしなかった、人は俺が守らねばならな
いと決めつけていた……俺もまたこの世界の力の一つ、そしてそれ
は大きければ大きい程それもまた大きくなる……それに躊躇いが無
くなっただけじゃない守りたいと思う気持ちが強くなる程に溢れる
この力は何だ……あぁ分かっているさ、もう』
「……ハク!いくぞ!」
ハク「はい!」
心の余裕……自戒など使わずとも湧き出るこの力は無駄な動きや
躊躇いが無い、故に1動作自身に攻撃する無駄がなく自戒による加
速より遥かに速く……動ける!」
まさに神速と呼べるに相応しい動きに湧き出る心の力はハクのい
うノリの力が加わる、助けたい、守りたいという願望は欲望とは違
い躊躇うブレーキとは反対のターボがかかった状態である、動く度
に成し得てゆく希望は行動する度に何段階も雪丸の動きに冴えを生
み出していった。
ーー目的が加わるーー
失敗は許されないと言う緊張とは正反対、決意と願いは剥き出し
の魂となり心を照らす、隠す事もなく迷う事もない後めたさ等とは
常に反対の反作用に雪丸の拳からついに音が消えた……陽炎のよう
に見えた突きは今人の限界を超えた瞬間だった。
雪丸の背後から支援するハクの攻撃に見ずとも明瞭に動きを感じ
るーー共感能力ーーが雪丸の隙を消し去ったゾーンに共感脳力、迷
いのない心は無駄な動きを消し身体が動きに対し喜びを感じる感覚
が加わる、その動きそのものが雪丸の心に癒しを与えた。
『俺らしく自分の思う俺になる』
雪丸を中心に最速の動き円を描き出すと取り巻く風が砂煙を吹き
上げ舞った砂塵は美しく空に舞った、そして彼の動きが止まった時
あれだけ居た敵は1人残らず地面へと倒れていた。
「これが……力、求めた力、俺はようやく戻れたのか、またあの時、
ハクと会ったあの試合の時のように再びあの眩しく輝いていたあの
時のように、俺はようやくスタートに戻れた……」
目には大粒の涙が溢れていた。
「まだ夢を追えるんだ……」
「何故なら……もう俺は俺を信じられるから……」
だが台風の強き風は時が経つ程に一層強くなっていく……。
辺りは暗くなる中、戦いの音は消えた……。
雪丸「終わりか……だが楽しかった」
ヌク「そうだな、そして終わりじゃな」
雪丸「お前達……逃げれば良いものを、もう間に合わないぞ」
弟子「覚悟の上、我らも此処に居ねば助かったとて後悔に生きた事
でしょう……生きるとはの意味を考えたら此処にいる事こそが生き
る事であると皆集いました」
皆清々しい顔で雪丸を取り囲むのだった。
雪丸「すまぬ……出来の悪い師匠で、だが助かった」
武丸「諦めてはダメです!足掻きましょう、最後まで!」
ヒロ「だけどあれ……」
皆が台風の方を見た、言葉に希望を見い出そうとした彼らの目に
映ったのは絶望という名の台風であった、巻き上がる風が巻き込ん
で見えるのは大木や車が見える、地面から黒い土煙を巻き上げ唸る
風はまだ距離のあるこの場所の空気をも振動させながら所々に稲妻
が走り世界の終わりを思わせる程の淀んだ雲は全てを捩じ込み巻き
上げていく、それは地球に現れたブラックホールを思わせる位に。
レイダー「ヒィいい!なんだあの規模は!聞いてねぇ、あんなの
シェルターでも防げる訳無ぇだろうが!」
ヌク「だから逃げろと言ったろうが……災害を甘く見たばかりに、
哀れじゃのう、とはいえ……ワシらももう遅いがな」
弟子「車でも、もう無理ですね……速度が速い、あの後ろに見える
のもまた台風ですよね……あそこにも別の台風が」
ヒロ「世紀末って感じですよね……」
武丸「ビビリなお前がよく此処に留まったな」
ヒロ「ハハハ……ちょっと後悔してたりして」
武丸「無理は無いな、俺もビビってる……」
シールドマン「明道と一緒に行けば良かった……まっ仕方無ぇか」
『明道の指示でお前を迎えに来たがお前はそれを拒んだ……此処に
いる事を望むお前の気持ちも分からなくは無かったが大義の前の小
事に……馬鹿野郎が、お前が生きてれば世界はまだ終わってねぇと
思えたのによ、まぁ明道と同じ惚れた男だ、最後まで付き合ってや
るよ……そんな事気にして無ぇだろうがどうせコイツは、だが俺の
この熱い気持ちを気にしてねぇてのが……やぱコイツムカつく』
来栖「……終わりか」
栗栖『だが指令は完遂した、これで希望はまだ繋がった、ハク、お
前が成し遂げた意味は大きい、お前は人類絶望の危機から人を救っ
たんだ……まだ希望は薄いがな、だが0ではない、例え1%だとして
もお前は愛する者達や希望に生きる者達に金では変えない希望とい
うものを残したんだ、父上貴方とは同じ道を歩みながら進む道は
違ったが行き着く先は同じだと思っています、後の事は頼みます、
日本を人の血の通った国に……世代が変わっても2度と戦争など無
い国に、弟達よ、お前らも目指す先に見えてるのは同じな筈、それ
ぞれのやり方で精一杯生き到達すべき未来へと繋げ、見守っている
ぞ母上の描いた未来を……頼んだ』
明道「ハク……馬鹿が、救助を断りやがって、置いてけなかったか、
雪丸を、そして逃げ切る自身があったのか?だがいずれも時間をか
けすぎたな、もう貴様らに助かる術は消えたぜ万が一にもな」
既に終わりが目の見える範囲まで接近していた……。




