ハク戦 13
明道「おいおい……人の成せる技かよ」
明道の傍にいつの間にか姿を表せていた来栖が呟く。
来栖「合気道は人の動きをシンクロさせ敵の挙動を力に変えて倒す
といった真髄があると聞いた、腕を絡ませ、また掌を合わせ相手の
動きにシンクロさせる練習風景を何度か見た事がある」
明道『いつの間に……』
「其処に加え尋常では無い力技と柔軟性、奴の感性が加わりあの技
を生んだ訳か、えげつ無ぇ技だな、一つの攻撃は一つの敵に対して
だがあの技なら捕まえた人間自体も武器になる」
「服を着ていようがそれは奴の威力を上げる、見ろ、殴りかかった
敵に対しすり抜けただけに見えても腕の皮がズル剥けだ、攻撃を受
けで捌いても同じ、敵に対し攻撃であろうが防御であろうがダメー
ジを喰らう、しかもだ、攻撃する側の威力を利用も出来るから予備
動作が殆どないと言っていい、お前ならどうどう攻める?防具に頼
るか?鎧なら八陘、いやそんなことしなくても密着があんな完璧な
ら摩擦が少ない鎧は相手の威力を高めるだけだ、強固なガードであ
ればある程に強度も仇になり振り回される勢いに耐えれなくなった
身が締め付け最後には骨が砕けるか……だな」
明道「……」
来栖「引き裂かれた皮膚は風が当たるだけで露呈した神経剥き出し
の強烈な痛みが脳を刺激し激しい頭痛や痛みが動かなくとも与え続
ける、手で覆おうが痛みで地面へ這いつくばろうが全ては痛みを増
加させ続ける」
明道「一撃必殺という訳か」
ーー合気 気を合わせ肉体の動きのみならず極めれば体内にある気
を同化させる事により相手の動きを操る技へと昇華する
明道「ご丁寧に説明ありがとよ」
来栖「ふん、お礼にお前達の目的を聞かせてもらうと有り難いんだ
がな」
明道「……んな大した理由は無ぇ。お前も知っての通り至極単純、
人類が生き残る方向に力を貸す、ただそれだけだ」
「で、どう見る」
明道「お前達も居るから現時点で戦力としては半々てとこだな」
「把握してるのか」
「そりゃそうでしょ、諜報はウチの売りでもある、そして俺の持つ
情報一つで笠田、アンタ、何方が圧倒的有利になる事は間違い無い
わな、つまり何方かが破滅する鍵を握ってるのはここの誰でも無い
俺様って事だけは確かだな」
来栖『コイツ完全に我らは軍である事や配備、目的を全て把握して
るな……ならば部隊の動きも当然把握しているという事になるか、
裏返せば笠田の動きも把握していると言うわけか……』
「その有利とやら金で買えるか」
此処で言う金とは現代と同じくその意味と同じである、物資のみ
ならず、武器や奴隷といった総合的な意味を為す。
「無駄だね、金は腐るほどあるさ、勝ちたきゃ祈りな、あのとぼけ
たハクという男の行動で全ては決まる、偉そうな事言うつもりは
無ぇが人類の未来は現状既に終わってる、そこから覆す可能性はお
前達の持つ残りカスみたいな文明最強の軍では歯が立たない」
来栖「……侵略事、無傷で戦ったとして勝ち目は無かったと?」
明道「……んな面倒な説明いるか?お前達の方がよほど本当は理解
している筈だろ」
来栖「……そうだな、だがその情けない軍無くては何方にしろ勝て
はしないのも事実」
明道「……」
来栖「手を貸せ」
明道「やだね」
来栖「何故だ……ハクは俺達側に居る、つまりグリマンの情報源で
あるポルキと言う者は味方という事になる、加え軍の支援もある、
可能性の高さならこちら側の方が確率は上がる、違うか」
明道「今の現状だけで言うならそれは無い、笠田の方が人類の絶滅
危惧種と成り果てても生き残る可能性は高い、加え敵はあのグリマ
ン、文明の高さ、強さ、現状全てに置いて人類が勝つ要素は限りな
くゼロに近い、しかもこの日本含むアジア圏内のグリマンの支配下
だけでの話だ」
来栖「シビアだな」
明道「間違うわけにも行けねぇからな、賭ける対象の命は俺達だけ
でも無いからな」
明道「結論だけ言ってやる、どんな説得にも応じない、俺は俺の判
断でしか動かない、口ならなんとでも言える詐欺師集団の政治絡み
は平和な時代で懲り懲りだ、それに口で言う物事を考えも無しに賛
成やら反対やらする馬鹿な人間にもな……故に本当の意味での再構
築するには悲しいが今は絶望でもあり希望の時でもある、よって今
までの教訓から力では無い何か、俺も欲深ぇからよ、最悪いざとな
りゃ人類が繰り返した歴史を俺達もまた繰り返すだろうが絶滅だけ
は避ける、がこんなくだらねぇ口論すら覆し生き残り、再構築出来
るなら……それに越した事は無ぇ」
来栖「ふん、意外とロマンチストだな」
明道「浪漫は必要だろ?平和には」
来栖「……」
明道「それにハクがお前達に付いたってのも信憑性は無ぇだろ、あ
いつは誰かに従う奴じゃねぇ」
来栖「お前の現実主義的な心に呟こう、ハクは何も持ってない、大
きな勢力にあがらう術も力も無い、これが現実だとは思わないか」
明道「……その無い物に力を借したお前の心にも問う、わかってん
だろ、在る力で勝てなかった相手が今回の敵だ、何も無いと思って
ないのはオタクらの一部だろ、お前はわかってる筈だ、物質的にい
えば確かに何も無いのは明かだ、だが無い筈の力にどれだけの仲間
……いや調べた結果それに関わる人間が居た、そして奴に関わる者
は自ら危険を冒してでも奴の力に自らなりたがる、最初は自分中心
に考える奴らだった、いやむしろ今の世ならそれが以前より当たり
前となったこの時代にだ、それだけじゃねぇ今までとは違う創意工
夫や考える力、心の力をつけた者達だ、『ただ群れ襲うゾンビでも
無ぇ』『考える意思すら辞めた愚かな忠誠心』でもなけりゃ『欲望で
繋がる此処の様な組織』でも無ぇ、人の力の本当の強さである自ら
行動し考え、守りたい者のた為に実力以上の力を発揮できる奴ら、
そしてその意思はハクの中に見る希望や未来を見た者、『意思の無
い者に意思のある者』『ただ従い、ただ自分の為だけに動く者』こ
の差は根本から違う、その根本こそが人の真の力じゃねぇのか?」
来栖「だがそれはハクという言わば先導者に従う狂信者と同じ」
明道「違うわな、わかってるくせに面倒臭い奴だな」
来栖「個々に考えつつも、その意思は一つの目的へと通ず」
明道「人がそれぞれ違うのと同じさ、目的が、そして根っこの部分
が無けりゃ結局人の力なんぞ大した事は無ぇて事」
来栖「世界が目的とする一つの意思、例えるならば誰もが苦しむ病
気ですら薬の開発にさえ利権や個々の欲望がそれを邪魔する、皆が
苦しむ薬に利権という欲望が無ければどんな病にも対抗出来る薬の
開発に最も簡単に成功しただろう、いつか自分や愛する家族にもそ
の病が襲う事をわかっていながら……な、病だけじゃねぇ宇宙開発
や兵器、平和に貢献する文明の発達は今とは比較にならない位進ん
でいただろう……な、そもそも偉そうに講釈たれようが兵器開発が
先で後が文化のために進む考え自体間違ってるて事をな、その考え
方が間違ってなかったら侵略事、敵と同等で敵対できる位の力は地
球も持っていただろうな」
現実と理想、虚像と実像に苛まれ組織と言う事に執着した彼の本
意を理解しながらも明道は淡々と語った、どちらを取るか……大半
の人間は現実を見ろと言葉を並び立て言うだろう、その『現実』を
過去には存在しなかった今ある『現実』を作り上げたのが人間自身
だという事を忘れて、そして終わりが見えた現実に言った者達は後
悔しただろう、だが『仕方ない』と口を揃えて弁明に励むだろう、
『あの時は仕方無かった、誰が想像した、生活があるんだ』その先
の未来にまた同じことを言うだろう『仕方ない』、『今の時は仕方な
いじゃないか』『現実を見ろ、もう諦めるしかない』と……。
ハクが戦う姿を見る来栖の目は真っ直ぐにその先の薄暗くしか見
えなかったとはいえ微かに見える未来の青空を見ていた。
「アイツのこれ迄の経緯を調べた……さっきも少し話たが諦めてた奴
らや有象無象に思われたコミュニティーがこぞって活気付いてるの
も確か、今は小さくとも積み重ねればそれは大きな力となる、兵器
に頼る現代戦が出来ない今、勝つにはゲリラ戦、其処に賭けるしか
ねぇ、組織集団が要では今まで同様勝てはしない、せいぜい笠田止
まり、穴狙いには間違い無ぇが此処の生きる意味を知った者達が今
後も増続け、その意識が感染する様に波に乗ればそれは『革命』だ。
来栖が以前には見もしなかった、いや気づきもしなかったというべ
き未来の別ルートが頭によぎるも認める訳にはいかなかった、それ
が外から見る政治への今まで信じ築いた社会を否定する事になるか
らだったが彼もまたそれを変えようと再構築する今をチャンスと捉
えていた心を明道に揺さぶられた気がしていた。
明道「……で、お前もお前のやり方に信念があっての事だろう、あ
らかたお前が昔の政治体制を変えるるとでも言いたげだが、お前
がそれを成し遂げても永遠にトップにいる事は不可能だ、人が変わ
ればお前の理想も終わりだ」
明道「だが現実は現実だ、手は抜かねぇ、そんな悠長に待ってる時
間も無ぇ、武力も必要不可欠である事には間違いねぇ、空想と現実
の違い位はわかっている、此処で俺を殺っても何も変わらねぇぞ」
「……」
「まっ安心しろ俺が殺られたら通知が笠田に行く手筈くらい読める
だろうから仲良くお喋りしに来たんだろ」
背後に突き立てられたナイフを静かにしまう来栖だった。
「そうだな、お前達も味方になれば戦力になる、此処でお前を生か
しハクがもし敗北すれば」
明道「勝てても味方にはならねぇぞ」
「お前が納得する道しか無い訳だ、万が一あの雪丸に勝てても敵に
なる確率は高そうだな……負けても敵、分が悪いな」
明道「そうだな、かなり分が悪い」
我らが全滅するかどうかもアイツ次第か。




