ハク12 究極技
『ヒぃぃッ!殺される!』
身を縮こませるが男の頭に衝撃は感じられない。
『何だ?横の男の頭骨の様にいま俺の頬にあの衝撃が来る、いやも
う来てる筈なのに何故?逆に頬がなんか温ったかい、体勢が崩れた
のか?雪丸の奴、渾身の力で倒した筈だもんな……いやきっとそう
に違いない!違わないと言ってくれぇえ』
掌から伝わる感触はとても柔らかく瞬時には彼の体温を感じる程
度だったが瞬間ほんの数センチレイダーの男の頬に深く入り込んだ
その時だった。
雪丸の大きな掌は敵顔面の皮膚に完璧に密着する、同時に手首が
鋭く捻じられた、動く敵にも完璧にシンクロした掌は強固な金属が
溶接し合うかと思うくらいに見事に離れないのだった、完全密着し
た皮膚部分に鍛え上げられた筋肉の力が瞬時に加わると猛烈な捻転
に昇華する、本来持つ皮膚の柔軟性である弛みが、いわば細胞と細
胞の繋ぎあう時が追いつかないのである、それはまるで濡れた和紙
を思わせる程に簡単に引き千切られた。
「っ……痛ぇ!」
痛みが瞬時にレイダーの脳へと走り本能が身を縮こませる、露呈
した皮膚に容赦なく襲いくる独特の痛みに力なく姿勢が下がった、
その時既に左手は反対側にいるレイダーのスクラム姿勢独特のかが
み込んでいる背中へと触れていた、優しく触れる掌が再び背中の皮
膚ごと押込むと先程よりも少し深く捻り込むのだった、先程よりス
ピードも遅く引き千切るというよりは弛みを利用する力に変化、よ
り深く回転する力は例えるなら機械に巻き込まれる人間の様に、簡
単に言えば洗濯機の中で衣類が捻りこみ、衣類を巻き込んでもつれ
ながら回転するのを人間の体で再現する様なものだった、男は自ら
の皮膚の弾力と皮膚本来の持つ強度が仇となり無理やり身体を回転
せざるを得ない状況に陥る、そして掌の向きが縦に変わると少し伸
びた皮膚が男の体を強制的に空に浮かせ掌の動きに呼応する様に巨
体はダイナミックに縦回転へと変化する、背中の苦痛を感じる暇も
なく雪丸の手が関節を無視するかのように捻りこむと掌の回転にも
スピードが乗り切った瞬間、男の皮膚の弛みは先程同様スピードに
ついて行けず破裂する音と共に捻り千切れ飛んだ、勢いに乗った
ボールが手から離されたと同様、男は雪丸の武器と変化する、その
向かう先は後衛のスクラム状態にいるレイダーに向け弾け飛んだ、
威力たるや重量100キロもあろう男の重量も加算される、いわば昔
の大砲の砲丸と化し射出された先にいる前衛部隊の屈強な男達を巻
き込みながら吹き飛んだ……が残りの前衛は3人残りスクラムが崩れ
た今各自バラバラで襲い掛かる、だが剣を振り下ろせばその剣に合
わせ回転、一瞬で敵の手から弾かれ飛ぶ剣、左から殴り掛かる拳を
掌で受け止めると男の腕がありえない方向へと捻り骨は砕けた、体
勢は自然体で緩くすら感じる雪丸の手が敵の男の顔に乗ると掌を離
した敵の顔はぐしゃぐしゃに潰れ地面へと倒れた、一瞬で1人を残し
前衛が全滅したが敵はまだ居る、後衛組が勢いあるまま襲い掛かっ
た、が皮が千切れ身を縮こませた前衛の男の体に雪丸の手が伸びて
いた、投げる挙動の先の手の行き先が男の体だった為、無駄がな
い、そして最早敵ではなく雪丸の肉棒武器となり果てた男は襲い掛
かる3人のナイフを受ける盾となり、捻り込むとまた複数の人間が
吹き飛ぶだけだった、残された後衛の最後の1人の胸に既に添えら
れた掌にレイダーは震え上がる、それはそうだろう、いくら動こう
が振り払おうとしても雪丸の手は離れる気配すら無かった、
密着した掌に恐怖は最高潮に達し気が狂った様に暴れようと足掻き
もがくが何故か足掻けない……離れない掌の前で手を合わせ許しを
乞うたが軽々と片腕一本で持ち上げられた瞬間、強烈な勢いを乗せ
地面へと一気に降ろした後静かに手は敵の胸から離れた。
雪丸「俺が編み出した最強の技だ……剛と柔の特性を持ち、人間問
わず獣であろうが奇妙な形状をした生物であろうが如何なる生物に
も対応可能な究極技だ」
シールドマン「摩擦を利用した技、だけじゃ無ぇな……」
ハクを囲んだ男達の驚嘆の表情が伺えた。
男「あちらじゃなくて良かった……」
ハク「僕も……」
シールドマン「お前なぁ……お前の敵じゃねぇか元々」
ハク「ぐへへ」
男「コイツだけは読めん、心臓だけは凄いな」




