民家攻防戦6
一体のゾンビに近づき背中に何かを
貼り付けたハク
そのゾンビは振り向き襲う体勢で接近するも
ハクはそれを何故か倒さずジリジリと後退
何か様子を伺っているようだった。
ハク「……」
一歩近寄れば一歩下がる
それを心配そうに見守る3人
誠「本当にあれでいけるのか?」
晴「……目の付け所は悪くない筈だ」
裕太「他にも策はあるって言ってた
けど……念には念を入れてって言ってた」
固唾を飲んでハクの様子を伺いながらも
ハクに近づく他のゾンビを撃退する3人
時計を見ながらも、未だ攻撃しないハクの
後ろには民家の行き止まりだった……
誠「おいおい大丈夫かアイツ……」
壁際に追い込まれるハクに思わず誠が
近づいて助けようとするも、誠に向かい
手を前にだし拒否するハク
3人もその行方を心配するも手助け無用
そして打開策を探る彼の真意を未だ
読めない
誠「まだなのか!」
晴「信じろ誠」
誠「クソ!待つのは性に合わねーぜ……」
やがてゾンビ数体がハクを取り囲む様に
距離を縮めてゆく……
一歩……そして一歩
ぬぉぉぉ……低い呻き声を上げ何かを張り
付けたゾンビがハクの目の前に来た時、
変化は起きた。
脇を取り囲む様に襲いくるゾンビが何かを
貼ったゾンビを襲いはじめたのだ
ハク(良し!)
誠「……何だ、何が起こった」
裕太「ゾンビが……共喰いしてる……」
ハクは更に近くにいるゾンビに肌色の壁紙を
切ったモノをゾンビ後頭部一体に貼り付け
ると、そのゾンビ目掛け、複数のゾンビが
更に共喰いをし始めるたのだ。
ハク「では作戦開始」
晴 「おう」
(ははーん)
誠 「あいよ」
(そう言う事か……)
裕太「ほい」
(あーわかった!)
3人は一塊になり先程用意したリュックから
袋から雨避けの為にビニールに包んだカイロ
を取り出し、ハク同様に貼れる状態のゾンビ
に片っ端からカイロ、そして壁紙を
貼り付け周る。
晴「なるほどな、何故ゾンビはゾンビを襲う
事がないか不思議であったが気にも
止めなかった」
誠「そうだな、何を基準に人とゾンビを区別
してるかって事だな」
裕太「だね、多分体温とか見た目なんだろね
ハク「そうだね、体温を感じる事は微妙
だったけど、元々心臓は動いて、脳の一部が
著しく低下、もしくは機能していないなら
人間の認識能力が殆ど無い状態だと
思ったんだ」
「違いは低体温と見た目の顔色の良さ
曖昧な判断だから何とも言えなかったけど
成功して良かった……まだまだ検証する必要
はあるけど」
「壁紙は効果あると思ったんだ、顔色を
詳しく判断してるとは思わないが、血流が
悪いゾンビは体温も低い筈、つまりドス黒い、
対して人間は体を動かし抵抗力を維持する
為に一定の温度を保つ、故に大雑把でも
視覚効果は充分あると思ったんだ」
一体の共喰いに15体は群がる
共喰いは更に加速し辺り一面だったゾンビ
に所々に塊が出来ていった。
凄惨な光景が広がる、ゾンビの共喰い
ゾンビは人間とゾンビの区別が付かず
動いている状態は人と変わらないのにーー
の疑問点を探っていたのだった。
こうなると最早、足の遅いゾンビはゾンビの
格好の餌である。
ハク「第二弾行くよ!」
裕太「ほいさ」
晴「次はこれか」
誠「ラジオにMP3だな」
音の鳴らないラジオもノイズ音は聞こえる
それを利用し民家で誘い出した様に辺りに
ラジオやMP3を置き音を大音量で鳴らし
ながら辺りに置き出す4人
ゾンビはこれにも反応し、更に群れは
複数個の群れの塊となり辺りに、
移動空間が幾つも出来た。
それを背後から攻撃する4人は
もの凄い勢いでゾンビを倒して行く。
対面することも無い背後攻撃は体力も殆ど
要らず、作業の様にゾンビの数を減らす事に
成功したのだった。
ーー純衣ーー
剛田が純衣の背後から銃口を向け構える。
撃鉄の音を彼女に悟られぬ様に
降り仕切る雨が撃鉄の音を遮ったとしても
先程の戦いにおいて油断出来ない敵だと
判断した剛田だった。
ーーしかし
純衣「……撃たないの?」
剛田「!……」
「気付いてるのか……」
純衣「……当然でしょ、だからハクの場所に
駆け寄らず、その場で背後を貴方に向け
たのよ」
剛田「なるほど、俺が引き金を引くより早く
俺を倒せる自信があると言うことか……」
確かに剛田が銃を取り出す事を知って
いたなら、懐から出す瞬間を狙うべきだと
思いはした。
が……
剛田から見た純衣は背中越しではあった……
しかし先程、槍のナイフが付いた先端で攻撃
していれば決着は早々付いている。
では何故?
そう初撃で既に決着は着いていた事を剛田
自信も理解していた。
弄んでいるのか?の疑問もあった
が更に純衣は懐に忍ばせた銃の存在を
知りながらも背を向けた……
何故?……
余程の余裕?
……
否
今までは考えたくも無い人間の憎悪の世界に
生きてきた剛田が一番認めたく無いもの
優しさ……を認めざるを得なかった。
其れしか今までの行動の理由に納得する
理由が無いからだ。
(こいつ……)
しかし槍にナイフが突き出た側が、後ろ向き
とはいえ、シッカリ俺の方を向いている。
俺に最後のチャンスを与えている、つもり
……なのだろう
(俺は仲間を見捨てようとした)
剛田「ふっ……私流か」
「後ろ向きでも棒を真っ直ぐこちらに向けて
るな……そして左手は棒を押し込むと俺の
心臓目掛け刺さると言うわけか、さっきの
無拍子とか言うやつなら引き金を引く前の
撃鉄起こした瞬間、俺を殺れるかもだな」
「だが解らんぞ?俺の銃の方が早いかもだ」
純衣「……そう思うならやってみたら?」
雨の中2人はジッと動かない
剛田「……」
純衣の背中を睨む顔に雨が容赦無く流れる、
しかし瞬きも出来ぬ状態が2人の時間を停め
ていた。
剛田「……」
「お前……いい女だな……」
純衣「当たり前じゃない」
剛田「フッ……」
緊張、そして命のやり取りの中、剛田が
はにかむように少しだけ口元を緩めた。
剛田「もし、お前が勝っても俺の銃がお前の
体のどこかしら傷つける可能性も
高いんだぜ?何て言ったかハクか」
「お前アイツが好きなんだろ、体に傷でも
付いたら振られちまうかも知れないぜ?」
純衣「……」
「私の体はハクのもの、傷つけさせると
思う?」
「それにアンタ、ハクの事、理解して
無いわね……あの人はそんな事で人を
判断しないわ……」
剛田の視界に仲間の朽ち果てたゾンビと
なった姿が目に入る。
その体には機関銃の創痕が胸に見えた
剛田(銃の跡か……浅井か……)
剛田「……なぁ?」
「……そんな奴いるか?」
純衣「自分で判断しな」
剛田「……」
「……あぁそうだな、居るかもな……」
「お前みたいなのが居る位だからな……」
撃鉄から指を離す剛田
「お前みたいな、いい女、殺せない……わ」
純衣が剛田の方に振り返る
純衣「いやん!惚れても私はハク以外男とは
認めないわよ!」
剛田「……」
クネクネする純衣を見て剛田が笑った。
「あははっ心から笑うなんて……俺が、この
俺が……あ……は…はは……」
軽くため息をついた
剛田「先に出会ったのが、お前だったらな、
ハクでも同じか……いや、お前の仲間なら
皆同じか」
剛田「浅井だったんだな……俺は……」
(そうか、それも俺がしてきた事か、だから
浅井なのか……)
純衣達の前にもハクの作戦によりゾンビの数
が激減しはじめた。
純衣は剛田から殺気が消えた事を感じ取った
純衣「ほら、アンタも手伝いな、そこ
転がってる仲間なんだろ?近くの民家
に運んで、封鎖するよ」
剛田「助けるのか?」
純衣「当たり前でしょ」
剛田「……当たり前……なのか?
そうか、そうだよな……」
【今日のポイント】
この世界のゾンビ、こうであったが、架空
ではあるが、何かしらゾンビ以外、獣で
あろうが宇宙人であろうが、それを観察し
『それを知る』事が自分の身ならず他人や
大事な人を守る手段である。
何かしらの被災地であっても、人は
流されやすく極限状態になると『人』で
ある事を忘れる。
剛田がそうだった様に。
現に被災地では、民家への泥棒が後を
絶たない、危険を顧みず、家に帰る者も居る
何気に魔が刺したとしても、それは人の命を
危険にさらす結果となる。
子供への被害も多い、守るべくものが
あるなら、報道もそれをいち早く警告すべき
であった、社会的、人道的配慮に隠れた保身
に思いやりは『無い』
自分の子供を守る為に、店舗に侵入し物を
持って行く報道もあった、その食料は他人で
あろうが子供にも配分される結果となる
だろう、直接とはいかないであろうが
人は普段の生活の「建前」ではなく本性が
現れるのは危機感がある時だ。




