内部侵入 生きる力
静かにヌクもその小さな体を腸器官の隙間に身を隠す。
『馬鹿者め……こんな老ぼれより待つ者もいる自分の心配をするのが
ジジイ孝行じゃと言うのに』
「我々は身を隠す、喋るなよ」
少し異臭の放つグリマンが近づいて来るのを匂いで感じ身を潜め
じっと待つヌクであった、2体のグリマンは傷をジッと見つめる、
下に滴る血を見ながら何やら話をしていた、グリマンの翻訳機の無
い2人はただジッとしている他無かったが孝雄は既に意識を失いか
けていた。
ヌク『早く行け!』
心で叫ぶヌクの願いとは裏腹に作業を始めた2人は小型の噴霧器
のようなもので傷に向けて噴射すると傷は塞がり片方が何やら懐中
電灯にも似たもので光を当てると見る間に傷は跡形もなく塞がって
いったのだった。
ヌク『傷は塞がった……が孝雄の体から流れる血が未だ流れとる、
まずいぞ……気づかれる前に、やはりやるしか無いか』
手に持ったナイフを腸の上にある肺に向けナイフを突き立てようと
した手を止めた、理由は血の流れが止まったからである。
作業の終わったグリマンが立ち去り急ぎヌクが駆けつけた。
「大丈夫か!体内の血は体重の8%が流れると命の危険が……お前の
体重は100キロ前後か、だが既に20リットル近く流れとる筈じゃ
何とか、何とかせねば!」
懸命に孝雄を見つけるべく腸の隙間に身体ごと手を作っこみ探す
ヌクの指先に当たる温かい感触を感じ渾身の力で孝雄の体を引っ張
り出そうとする、腕そして顔の一部が露出し始めその姿を見たヌク
は驚いた。
「孝雄!」
孝雄は生きていた右手で足の傷を肉ごと捻りながら密着状態にし
手首は口の中に突っ込み流れる血を全て飲み込んでいたのである。
「お前……」
孝雄の目はギラついていた。
「何で」
ガー……マイクから声がする。
勝木「恐ろしい……」
ヌク「?どうした」
勝木「いや……なんか役に立てねぇかと思ってマイク切る前に孝雄
に言ったんだ、このままお前逝っちまう気か、由美の、その……胸
まだ揉んでねぇんだろ?ってさ」
ヌク「……」
孝雄「このまま逝けない理由があった……それだけだ」
ヌク「この馬鹿もんが……」
相葉「欲望がアドレナリンと共に血のめぐりを良くし血を循環させ
たのか、この野郎!素晴らしい欲望の化身だな、おい!」
喜びに声をあげる相葉だった。
ヌク「アホか、血が足らんのは変わりないわい、眠らず興奮状態を
維持し体が生命に必要なエネルギー分をありえんスピードで循環さ
せ続けた血止めをしたのは結果オーライじゃが血管がよくはち切れ
んもんだ……手首を飲み込んだ血がそのまま血液に流れとるわけ
じゃないわい!急ぎ止血する、が道具が無いから奴らの使った噴霧
器に賭けるしかないが……」
相葉「得体の知れないもの使って問題無いのか?」
ヌク「保証はないが傷を塞ぐ為に使用したものだ、止血というより
傷を見ると細胞そのものを恐ろしいスピードで培養した形跡がある
医術でもそういったものはある、指を切断したとて細胞は隣の細胞
を覚えとる、それ自体を利用し傷が塞がるより早く生成できる事が
出来れば傷は跡形もなく元に戻る、人間界にあるものをより進化し
た文明が持つテクノロジーだろうな」
勝木「宇宙人の最新テクノロジーと欲望のコラボレーションって訳
か!」
ヌク「言い方……」
手で培養液を拭うと服を破り止血した後の傷に少量含ませた布を
当てがい再び繰り返し塗り込んむと見る間に傷が塞がっていった。
ヌク「彼等の傷の治し方、カプセルに入った主原料はこれだったと
いう訳か……」
孝雄「私はおっぱいのために生き、またおっぱいに生かされたとい
うのか、やはり女は美しい……」
ヌク「言い方……」
勝木「言い方……」
相葉「言い方……」
ポルキは腹を抱えて笑っていた。
ポルキ「ククク、人はなんて面白い……」




