表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
223/241

ハク戦 9



 緊迫が続く中、時間だけが緩やかに進む時の中で慣れた者たちの

目に状況を正確に把握する者達が出始めた。


レイダー「あの野郎……動きながら何かしてねぇか?」

「攻めあぐねてんじゃねぇのか?」

「手元で何かモゾモゾしてやがんな」

「呼吸も穏やかだ休憩してんじゃねぇ?」

「戦闘中だよな……」

 その言葉に気づいた司会、その仕草は何かを企んでる様で休んで

る様にも見えた。

司会「……あ!この野郎攻める気ねぇな!おい!雪丸、制空圏かなん

か知らねぇが奴に攻める気なんかねぇぞ!それも何かしてやがる、

時間与えてろくな事が無ぇのは知ってるだろが」


 だがそれでも雪丸は黙ったまま動かなかった、それでも動けば振

り出しに戻る事を一番よく理解していたのは彼自身だった。

司会「この阿呆どもめ!奴は元々攻める気なんかねぇ奴に強いか知

らねぇが待つ態勢してどうすんだ!」

 確かにそれもまたそうである、またも試合は成り立ちはしなかっ

た状態に戻ったのである、辺りのレイダーも一斉に騒ぎ出した。


 野次では済まされない状態まで一気に陥った会場、投げてはいけ

ないルールに物を投げる者まで出始めた、元々が統率を取れる様な

物たちではない上に酒も入っている、この状況にマズいと感じた司

会は声を挙げた。


司会「まずいぞ、わからねぇが何か仕掛けてやがる、仕方ねぇ!イ

ベントだ、野郎ども!行きやがれ!」

 その言葉と共にレイダーが6人投入された、勢いよく円の中に入

るそいつらは刀剣を持っていた。

司会『投入した6人は全てハク、お前の敵だ、襲うふりして3人は

雪丸に襲いかかるがククク、全て演技だ、残り3人はハク、お前に

襲いかかるのさ、いくら逃げ回ってもこの人数に円とかわけわから

ん理論が通じるとは思うなよ、クソッタレ』


 即座にハクは持つ物を一本の棒にチェンジ、棒の先にリュックか

ら取り出した短めの棒を捩じ込んだ、先は金と銀の先端をはめ込み

振り回す、そんな棒は見た目まるで如意棒の様に見えた。


 投入されたレイダーはハクと雪丸の中央に立つ、演技とは言え3

人は雪丸側に向かい立つと構えた。

「聞こえるな、お前に責めてくる者は 味方だ、致命傷になる攻め

はしない、これはあくまで賭けだ、ハクに全員仕掛けたらいくらな

んでもおかしいからな、後はあの3人が何とかしてくれんだろう、

奴に隙が出来れば俺らを倒すフリしてハクを仕留めろ、お膳立てし

てやる、これでお前の目的も果たせる上にお前の命も助けるとよ、

ボスに感謝するがいい、おいこら聞いてんのか」


雪丸『……お膳立てだと?我にか、我にとって邪魔されず正々堂々

ハクを倒し前を向く事が本懐!それを実質7対1だと!』


司会「考えてる事は分かるぜ?だがな、このままでは埒が明かない

此処で試合が終わればそのチャンスももう無いんだぜ」

『こんな闘いなど望んではいない!』

司会「まだ納得しねぇか、が……奴が殺されればどうだ、お前はも

う2度とその想いを果たせず生きていく事になる、いいのか?あ、

いいか時間も無い今、嵐が来て視界が悪くなった時が最後だ、見ろ

左上の鉄塔を、狙撃手は既に配備済みだ、お前がやらなくても奴の

運命は変わらない、何が大事か見極めろ、奴が消えればお前のトラ

ウマの原因は消える結果が全てだろ」


『……殺される?ハクがか?確かに奴は普通の人間だ、狙撃手が狙う

的を避ける術など持たぬ、俺は……何年も何年も前へ進めずひたす

らにその想いを断ち切る為に修行に専念してきた、だがあの日の想

いは決して拭う事が出来なかった、俺が変われたあの日、だがまた

その日の出来事が俺の更なる高みの前に立ちはだかり未だかつて無

いその壁を……いくら修行を積み重ねても何故か越える事が出来な

いままだった壁を……時を経てそのチャンスが今、目の前だと言う

のに!そのハクをお前ら如きが!……だがこのままではいずれハク

は殺される……俺の、俺の人生が無駄になると言うのか!対象が消

えればもう苦しむ事はないのか、もう悩まなくて前だけを見て生き

て行けるのか……否!それがそうであったとしても俺の手で終わら

せなければならん!俺の為に……』


 自分に何度も言い聞かせるように呟く雪丸の額に汗が滴る……が

切迫する時間に一つの答えを出した。

『……いや違う、そうだ、お前をむざむざ苦しませ奴らの手によって

苦しませ無い為に、そうだ俺の手で仕留めるのがお互いの為』


 『信念』『結果』『現実』が雪丸の心をかつて無いほどに激しく揺さ

れた……それはそうだろう人が前を向くキッカケなど早々ある物で

はない、長きに渡り血反吐を吐きながらそれに耐えた日々は彼がハ

クと出会った頃の楽しかった日々、そして苦難の道、敵に倒された

訳でもない、だが心の中に引っかかる己の葛藤の答えを探し続けた

結果であった、侵略時その希望すら見失いいつか相見え答えが出せ

ると信じたものの生存すら危ぶまれた世界で希望を持てなかった、

だが奇跡的に出会い求め己の力ではどうにもならない奇跡が現実と

なった今彼にとって希望を見出すラストチャンスだったのである。


 雪丸の口には自身に向けてかのような憎悪に似た怒りと共に鮮血

の血が流れる、ハクもそれを見ていたが表情に変化は無かった。

司会「悩んでる暇はねぇぞ!雪丸」


 雪丸側に3人が構えると同時にハクに向かい動き出そうとした3

人ではあったが意外に先に動いたのはハクであった、出鼻を挫かれ

た3人が迎え撃つべく動き出した。


刺客1「オラァ!終わりだテメェも」

敵が言い切る前にクルリと後向きの態勢から棒を地面へと刺し、勢

いをつけた敵に向かってのバックステップから半身になり刺した棒

を引き寄せる態勢に入るまで瞬きの一瞬の素早さを見せる。

 叫び腰に携えた剣を抜く動作に入った瞬間先に到達したのはハク

逃げ専門のハクが突然前に現れた事に急ぎ剣を抜く動作には入った

ものの刺客1の目の前には既にハクの棒の先が顔面を捉えていた、

だが戦い慣れた刺客2と3は即座に左右に分かれると剣を抜きにか

かかった、その時間は秒の世界へと入る。


刺客『馬鹿め……いくら棒とて俺の顔面を捉えようがその非力な腕

で大したダメージも与えられないだろうが、鼻の骨位くれてやるわ

だがな俺の太い首はテメェのか弱きダメージを受け止めた後、貴様

の姿勢を崩してやる、得意の逃げの姿勢を一歩遅らせてやる、その

間に2と3がテメェの体を真っ二つにして終わりだ』


 予想通りハクの棒が1の顔面を捉え歪んだ頬肉が波打つ様に食い

込む形をとった瞬間刺客はニヤリと笑う。

『終わりだ』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ