裕太戦 3
グリマン「戦いの中、何をにやけてる!」
裕太の顔が綻び笑みを浮かべたのを見たグリマンは激昂した。
「戦いを愚弄する事は許さんぞ!」
獣の叫び声を思わせる怒号の迫力はそれだけで威圧感があった。
裕太「……愚弄なんてしてないよ」
片膝を着き呼吸もままならない程の裕太の笑みに不快感を露わに
するのだった。
グリマン「貴様はこの戦いでその身はボロボロの筈だ、他人を見て
笑う事なんぞ有り得はしない、あってはならないのだ、貴様がして
いいのは苦悶と快楽の表情のみが戦いの中で許された表情なのだ、
それを、それを笑うなどとは愚かで愚弄する証明ではないか、俺を
見ろ、そして殺せ、我はそのお前を殺すのだ!」
裕太「……君は戦いの中そうやって生きてきたんだね、でも君は強者
との戦いを望んだ筈……なら彼に感謝するべきだね」
グリマン「理解出来ぬ事を言う」
裕太「力は1人で得られる物じゃ無い」
グリマン「意味が分からぬ、戦いとは個の優劣、あるのは戦う個の
勝ちか負け、他人の行動や言動に意味など存在しない」
裕太「戦えば分かるよ……僕は個の戦いで背負った使命を僕の代わ
りに彼が背負ってくれた、そして彼への心配も最早なくなった、そ
の行動が存在が、想いが生む力こそが人の力なんだ、勝てない敵に
負けないには人は人の力が必要なんだ」
グリマン「戯言を、他人の力が己の力になるなんて事が物理的に影
響する筈はないだろうが、有り得るわけがなかろうが!」
ハクが柵の外に出たのを確認した裕太の前にグリマンが襲いかか
る、重く唸る様に放たれた拳は雪丸とは違う質だ、黒田が人間が故
に越えられなかった空気の層ごと力で押し込む、その無尽蔵に思え
る程の圧力のかかった拳は空気を瞬時に圧縮するかの様に押し出さ
れた、その周りの空気の層は風圧となって普通の人間ならば拳を避
けられようが風圧で体勢を大きく崩し、また当たれば肉ごと抉り取
られる様な感覚だった、裕太はそれを顔面ギリギリで避けるも風圧
で顔の肉が持っていかれる程の威力、相撲で培った足指で地面を掴
み強靭な足腰で風圧を耐えながらも頬の皮膚が避ける度に波打ち揺
れ次第にダメージが蓄積され足は一瞬力が入らない場面が増えた。
裕太『終われないんだ、僕を信じてくれる仲間の為に踏ん張れ!』
グリマン「戯言と共に散れ!終わりだ」
背の高さに全体重をかけた右ストレートがその隙を見逃さない、
よろめいた裕太は体勢を整えようとするが足首から力が抜け体を沈
ませてしまう、片方の残った左足で強引に重き体を地面から突き放
し踏み込んだ、其れは突然の反撃に転じた、柔らかい体から捻るよ
うに力を溜められた拳は足から腰へ腰から胸へ力というエネルギー
を部位を移動する度に増大させた、遅れ出した拳はカウンターとな
りてグリマンに接近する、だが裕太自身にも分からぬ力が加わり一
瞬身がぶれる様な動きを見せた後加速というギヤが加わりグリマン
の顔に拳が捻り込むように決まった、その凄まじき圧力はめり込ん
だ頬の肉を拳状に千切れクレーターが出来る程にめり込んだ、その
余りに激しい重量級の戦いの音は否が応でも周りの視線を集めた。
グリマン(何だ……一瞬奴の拳がワープしたような速さは)
裕太(危なかった、でも何だ……今一瞬早く動けた)
不思議な感覚の2人の中グリマンと裕太双方はよろめく体を踏ん
張りその太い首を横に振り細く微笑んだ。
グリマン「フッやれるではないか……良い拳だ、人間でありながら
ここまでの打撃を我に与えると、我はまだ戦った事は無いが見たの
は雪丸以来、最後の一撃確かに以前とは違う迷いなき一撃、理由は
分からんがお前が強く我の前に立ちはだかる壁となるのなら好都合
我は其れを粉砕しその力ごと飲み込むのみ」
ヌク「この戦いにおいては今奴らが感じ取る感覚こそが裕太の勝負
の鍵、そしてその鍵は2つある」
ヒロ「何か感じたんですか?」
純衣「一つは分かるわ、気づけばいいんだけど……裕太」
ヌク「お嬢ちゃんは一つ目は気づいてるようじゃな」
ヒロ「なんなんすか!教えて下さいよ!誠さんでもいいから」
誠「奴らならではだなこの戦いそして相手がグリマンでもトップク
ラスだからだな、だが油断は一瞬でも許されねぇ、裕太の力は自身
の限界を超える度にお前自身でその体を蝕んでいる筈だ」
ヒロ「……イジワル」
ヌク「残り一つこそが裕太の持つ特性、果たしてこの勝負の鍵とな
る、だがまずはその第一歩となるに時間が必要じゃ……まずはそこ
には辿り着かねばならん、そして越え、通ずる事が果たしてできる
物なのか、だがそれが出来るのは裕太、お前しかおらん、例えお主
が今その力に理解せずとも身を犠牲にしてまでもこの試合で成長せ
ねば負ける、そしてそれは奇跡を起こすことになるやもしれん、た
だ勝つだけでも無くただ負けるわけでも無くただ壊されるわけでも
無くただ1人でも無いその奇跡が試合を超える何かを生む」




