ハク戦 4 檻
司会「さてさて遅くなりましたが設営できました!これが新ステー
ジ鉄の柵でございます!これでいくらあのガキが逃げようとも逃げ
場は無い、あ、おや失礼、最早口が悪いのは許せ、前司会者とは違
い俺もガードの1人だ、今度舐めた試合した場合俺自身が制裁も加
えられる人事配置だ!改めて異例の早速試合開始だ!」
設営されたのは鉄の棒で簡易的に作られた檻だった、金網案も出
てはいたものの雪丸の力から耐えられる構造が必要だった為だった
からだ、衝撃には強いものの幅は狭いがハクが外に出ない幅にも設
定され念の為に檻のすぐ外には剣を持ったガードが何人も配置され
たのだった。
司会「おっとゴングがなると今度は躊躇する事なくハクに向けて
飛び出電光石火の如く迫る雪丸!ぶち殺せ」
雪丸「今度は逃がさない!建物さえ無ければ一気に仕留める!お前
のバックステップの特性はこちら側の敵意にある、ならば攻撃で動
きを止めるのではなく、駆け抜け動きを此方はタックルのように攻
撃するのみ!ただの突進では無いぞ八極拳の技、鉄山にて仕留める
!」
叫ぶ雪丸を無視するかのように後へ同じ様に躊躇いなく駆け出し
たハクに対し雪丸は加速する、スピードが乗る度に速さと肉体の比
重が上乗せされ当たればただでは済まない事は明白だった、その狭
いリングの中ハクは自ら檻の壁に行くと先程の下駄靴を素早く履く
【L字型の下駄】Lの先の曲がった部分に檻を挟むと一気に檻を駆
け上がったのだった。
司会「早速嫌な予感……」
横にいた司会も何かを気付き手に持った棍棒を用いて2人でハク
目駆け襲いかかる、背後と横からの襲撃に司会の方を見て微笑む彼
は素早く足を檻に掛けるとまるで壁を駆け上がる、その速さたるは
まさに猿、垂直に建てられた檻の繋ぎ目なども足を入れ替える事で
難なく駆け上がった(この道具は海外でもよく使われる、文明が発
展してない地域の特性だろう、知恵を生かし事を成す、現代人が故
に発想の乏しくなった者の方が知恵が無いと言える、釣竿を使い魚
を釣るのではなく飛ぶ鳥を捕まえると言った様な発想の転換、当た
り前のことを当たり前にしない事が発想だと言えるだろう)
雪丸「クッ!ならばそのまま体当たりで落としてくれる!」
けたたましい音を立てた雪丸の鉄山が檻の壁を雪丸の体の形状に
曲がったのだった、その激しい衝撃にハクの体は膝を曲げ大きくの
け反る程だった。
レイダー「落ちるぞ!これで決まりだ」
ハク「あわわ……なんちゃって」
と誰もが思ったが下駄の形状上仰け反ることは摩擦を大きく生み
出し落ちるところかガッチリとハクの体を支える結果となった、さ
らに檻の隙間に摩擦を起こしやすい素材の紐を通しさらに早く天井
付近へとたどり着いた。
誠「なるわな、あいつ身を縮ませたり腕で柵をしがみ付いたら落ち
んの理解してやがる、のけ反って衝撃を緩和させながら靴の特性上
落ちないようにワザとあの体勢になりやがったな」
純衣はキラキラした目で両手を合わせハクを見つめていた。
誠「てかあいつの戦いはなんかいつも緊張感が無ぇんだよな……し
かし笑えるわ、聞こえてんだろ?クリス」
クリス「ククク、あはは!聞こえてるぜ、安心した、アイツに心配
は元々無かったのを思い出した、成る程な、この方法なら全て上手
くいく」
安堵のため息と呆れるようなため息が口から漏れたクリスの目は
輝きを取り戻した。
「これで任務に専念出来る……一旦切る、こっちは任せろ」
誠「安心して行ってこい」
(ハクめ……これも読んでの作戦か、あの強敵相手に時間も稼ぎ、
作戦に支障も起こさない、欲張りな奴め)
雪丸はしばしハクを見つめた後、天井部分に蜘蛛のように張り付
いている紐で固定された足場を作るとハクを静かに見上げると一瞬
呆気にとられたがリングの端に行くと静かに鎮座し目を閉じ始めた。
司会「まさか……こんな試合あるか?もっとこう血が飛び出て血湧
き肉躍るハズだろ?だが雪丸の体躯では上がりながらの攻撃は猿の
アイツには通じないか、追って無駄なら……と言って試合はもう止
める訳にはいかねぇどーすんだこれ」
騒めく会場に座する雪丸、雲行きも怪しい曇天の空に加え異様な
雰囲気に鎮まる会場、誠は転げて笑い純衣は目をキラキラさせて黄
色い声援を送っていた。
元々体の大きく無いハクは天井に付くと丹念に繋ぎ止められてい
る天上付近の繋ぎ目の弱い部分の繋ぐ針金に武器と思われたリュ
ックから出したあらかじめ用意した2本の鉄の棒の穴にボルトを繋
ぎペンチに加工した後、丁寧に針金を解くと天井へと到達した。
司会「……クソ点検した時ピクニックみたいな装備ばかりだったか
ら気が付かなかった、まさかパーツをバラバラで持ち込んで道具に
するなんて、武器にしちゃ合理的におかしいとは思ったがまさかあ
んなもので道具を作るとは」
大きく伸びをしたハクに会場は怒号とヤジで騒然としていた、戦
いである筈の会場はもう何が何やらわからない状態、怒りなのか雪
丸の座する下では瞬時に行動できる体勢なのだろう座しながらも彼
の周りだけは緊迫の空気が流れていた、其れに対し上では元々入れ
ていた食料をむしゃむしゃと食べ出すハクの方は最早ピクニック状
態であった。
食べながら持っていた食用油を丁寧に檻に塗り込むハク、雪丸が
痺れを切らし上へと攻撃するために上がってくる事を防ぐためだろ
う、だが柵が雪丸の体では上がることすらままならない上にハクが
到達した上への攻撃は柵が邪魔をする、蹴りを繰り出した所で威力
は支える土台もなく弱い上に向こうからは飛べば避けれる、更には
油を仕込まれた檻を雪丸の体重で支え続けるのには相当の力が必要
である、最早雪丸には打つ手なし状態をいち早く察し体力を温存す
る為に座した雪丸も相当に戦局を見極めることのできる冷静さも兼
ね備えていたと言える。
其れを会場の片隅で見ていた道明もまた笑い転げていた。
「アヒャヒャ、ハァハァ……だがジッとしてるわけにもいかねぇ、
どうするか……おい周りが騒動を起こすのは明白だ、奴らが会場に
物を投げる騒動に紛れて矢を放ち奴を殺せっても無理か、ご丁寧に
柵の中央に陣取ってやがる矢は楕円を描く、下から狙うには周りに
バレバレか……ソレもお前の策中か?さてどうしたもんか」
『チッ俺の土産を無下にしやがって、動き回れば神経毒はより早く
、そして過激な運動は奴の体、つまり心臓すら麻痺させる事が出来
れば雪丸とて簡単に後で殺せたものを……』




