民家攻防戦3
民家は家事、既に火は雨の中でも燃え続けた……
そして浅井もそれを目視していた。
浅井「クソやはり囮か!戻れ!」
雨の影響で浅井のいる場所にもゾンビの数は加速
度的に増して来ていた、行きは然程、影響なかっ
たゾンビ集団に手こずる浅井達。
手下「戻ろうにもゾンビがさっきよりも増えて、
そう簡単にには……」
浅井「チッ!出来るだけ早く戻るんだ!」
ーーハク達ーー
ハク「誠、今から大声出すから周りのゾンビの方
頼むよ」
誠「言われなくても助けるぜ?」
ハクはリュックから拡声器を取り出し、予測され
る移動場所、つまり家事のある民家に対し風上の
民家の並びに沿って走る、雨に増えてきたゾンビ
の呻き声もあり、音が掻き消される事を恐れたか
らだ。
同時に 家事から逃げる際、当然風下に逃げる選
択肢は無い、晴ならそうする筈という2点からだ。
立ち止まり静かに目を閉じ息を止め願う……
(頼む答えてくれよ……)
拡声器を握り風向きと反対側の屋根の民家に向け
て叫んだ。
ハク「晴ー!!屋根にいるんだろー!答えてくれ!
頼む!」
「……」
「ザー……」
雨と呻き声が静かに一定のリズムで音となり、ハ
クの周りを虚しく流れる……
ーー民家ーー
純衣はその頃、体の小ささを生かし、静かに剛田
に近づく、雨音が純衣の気配を殺す……
時折近づくゾンビを素早くリーチを生かした攻撃
で心臓を貫き通す、剛田を視界に捉えた純衣はポ
ケットからビニール袋に入れた乾いたタオルで槍
の右手側のグリップを丁寧に拭き取る、体を丸め
雨を体で防ぎながら丁寧に……
剛田「飛び降りて来ねーな……燃えちまったのか?
浅井に怒られんなこりゃ」
手下「だからいったじゃねーか!」
ゾンビにナイフで頭を刺しながら剛田突っ掛かる
手下、
手下「もう逃げた方イイぞこりゃ、ゾンビがドン
ドン増えやがる……俺らもアジトまで到達できる
かも怪しくなってきたぞ」
剛田「そうだな……おい、そいつら置いてくぞ」
手下「なっ!何言ってんだ!お前」
剛田「どうせ使いもんにはならねぇ奴等だ、ここ
でゾンビの餌にしよう、俺らはその隙に逃げるぞ」
周りを見渡す手下も納得するしかなかった。
手下「……そうだな、しのごの言ってる場合じゃ
ねーな……」
剛田「そうだ人間らしく自分の身の心配だけして
りゃいーんだよ、俺らは生きる、こいつらは餌だ、
仲間はまた作りゃいーじゃねーか」
手下「あぁ、そ、そうだ……な」
雨が激しく降り刺す中、会話を終わる寸前にユッ
クリと膝を折り手下が体勢を崩し倒れた、手下の
背後から純衣は剛田の前に姿を現す。
純衣「……クソだなお前」
剛田「おいおい何言ってんだ……生きる為に何か
いけない事でもしたか?俺達」
(女か……)
純衣「生きるだけが生きた事になるのか?」
剛田「……言葉の意味がわかんねぇが?」
純衣「わからないだろうね……」
雨の中、対峙する2人、ゾンビ数体を互いが倒し
ながら会話は続く、バットでゾンビの顔面に向け
て叩き割った剛田が睨む様に純衣を見た。
剛田「そうだ……お前、拐っちまえば浅井も納得
すんだろ」
純衣「……ゲスが」
槍を構え剛田に矛先を向ける純衣、握るグリップ
からの軋み音が純衣の腕に伝わる。
剛田「ほう……やる気かテメェ、女が男に勝てる
とでも思ったか馬鹿め」
純衣の周りをバットを肩に抱え廻る剛田に狂気を
感じる純衣、
しかし彼女は怯まなかった、狂気には怒り、彼女
は怒っていた、それに彼女は守るべき対象がいる、
ハク、仲間、そしてハクが守ろうとした、まだ見
ぬ鈴や美優、真美だった。
剛田「他人の為に命はるなんざ弱い奴のやるこっ
た、自分1人じゃ生きていけませーんってな、お前
は 今、俺と対峙してんだろ、その糞みたいな理
由が原因でな、既に無謀なんだよ……」
純衣「……揺さぶろうたって意味無いよ、言って
もアンタには解らないだろうけど私は自分の命よ
りも大事な物を持ってる、その人達が居ない世界
は私の生きる場所でも無い、それは言葉で言える
ものでは無いし、揺るぎ崩れるものでも無い」
剛田「ふーん……屈辱にまみれた顔がますます見
たくなる台詞吐くじゃねーか、ははっ」
純衣「アンタと喋る時間は無いわ、自慢の暴力で
私を屈服させてみなよ」
そう言うと槍を回転させ、ナイフの装着していな
い棒の先を剛田の目に向かい真っ直ぐ突き出すよ
うに構えをとった。
剛田「……そうだな、そろ……そろ俺も、お暇さ
せてもらわないとな!」
そう言うと、近くにあったゾンビの千切れた腕を
純衣に投げつけた。純衣目掛け空中を飛来する腕
と同時にバットを振りかぶった剛田の血塗れバッ
トが襲う。
ーースローモーションの世界が広がる
純衣の視界にはゾンビの腕が徐々に大きく接近し
て見えた、が、純衣は微動だにしない、腕は純衣
の頬に当たるが彼女の目は閉じる事も無く、その
先にある剛田から微塵も視線を逸らす事は無かっ
た、頬に当たった腕が重力落下で肩を通りすぎた
剛田はバットを振り下ろすモーションに入り純衣
の頭目掛け頭上から振り下ろされた。
純衣の頭をかち割る事を確信した剛田の視界が黒
く歪むと、その体は大きく吹き飛んだのだった。
剛田「は?」
尻餅を突き無様な姿を純衣の前にさらけ出す剛田
は状況が掴めず叫んだ。
「何しやがった!」
純衣「……私は棒をただ真っ直ぐアンタに向け出
しただけ」
純衣は棒を剛田の目線から寸分違わず向けていた、
そう瞬きもせず、剛田から見た棒の視界は動かし
ているようにも見えず、遠近感を失った状態で棒
はすでに剛田に向け真っ直ぐ伸び剛田の顔面を捉
えていたのだ。
純衣「私流槍術『無拍子』
剛田「私流だと?ふざけやがって!この……野郎!
その可愛い顔、二度と見れなくしてやる!」
体を起こし襲いかかる剛田、しかし槍のリーチの
長さに槍の先に付けたナイフと、誠が威力増加の
為に付けた重りもあり威力は倍増、子供をあしら
うかの様に、その場から動かず顔の表情を変える
事なく剛田を叩きのめす純衣だった。
剛田「くそ!女なんかに俺が!女は男の言う事聞
いてればいーんだよ!」
純衣「そう思ってる自体お前は弱い」
視界が剛田を闇に誘……
ユックリと倒れ込んだ剛田だった……が、それは
純衣を油断させる罠だった。
ーーハク達ーー民家到着前
誠「そういや、純衣1人で行かせて大丈夫なのか
よ、ゴリラといえど女だぜ?」
ハク「大丈夫、元々体からしたら男より女の方が
戦いでは有利な事が多い、そして純衣の身体能力
は俺達以上だよ、誠も彼女には勝てないと思う」
誠「そうなのか?」
ハク「機械体操を見ても、段違い平行棒あるでしょ
女性の体はあの衝撃を体で受け止める事が出来る
位の男には無い柔軟さと弱点も少ない、更には痛
みにも強い」
裕太「でも力押しされたら……」
ハク「武器ありきが前提だけどね、今の話も武器
を持った女性は訓練次第でもあるけど素早さは骨
格上、元々安定もしてる」
ーー力は重さで
ーースピードは距離(武器の長さ)
ーー反応速度も距離で、マイナスをカバー出来る
「故に武器持った純衣に勝てる奴はそんなに居な
いよ」
誠「そうだなワープ出来るわけでも無いし、獲物
数センチ動かすだけで1メートルはカバー出来るも
んな、重さにしたって1キロの鉄アレイで殴られた
ら男も女もねーわな」
誠「おー怖っゴリラがますます化け物じみた未確
認生物に……」
裕太「誠はこりないな、また叩かれるよ……けど
荷物運びとか、力仕事に特化した体型を持つ男は
女を守る為に作られた感じだね、本来は男、女が
逆転してもおかしく無いのか」
誠「ちと待て……想像する」
ハク「おかえり」
純衣「ただいま」
「おっ今日は肉か!」
ハク「そうだよ、特売で安かったんだ」
純衣「美味しそう!今日は寝かさないぞ!」
妄想解除
誠「……ハク」
ハク「ん?」
誠「……似合いすぎ」
【今日のポイント】
力は重さ
スピードは距離
速さも距離で補える
力という言葉は、素手で殴り合うだけで
決まるものではない。
武道では支点、力点、作用点の応用
社会では人徳や軍資金、交渉術
言い変えれば原始時代には力
現代に置いては顔の良し悪しも武器
権力も武器
金も武器
力は時代や対象のものによって変わる。
しかしソレの殆どは自らの力や思考で身に
付ける事が可能だ。
力は一つでは無い。