場外乱闘3
レイダーC「この野郎、ぶち殺してやる!」
棍棒を持ち大きく振りかぶり気味の男の攻撃が放た
れるがまるで木の葉が落ち際に美しい揺らめきを奏で
るかの様な弧を描き半身で交わすとその威力の乗った
棍棒を持つ腕に添えるように優しく勢いがピークのタ
イミングで力を上乗せするように力を与えると男はそ
の加算された勢いに放たれた攻撃は制御できず体ごと
激しく転げるのだった、遊ばれてる感覚に怒りしつこ
い様に何度も何度も大振りを繰り返しながらもその動
きの答えは転げ回る結果となった、その動きは過去に
動画で見た合気道の動きに似ていたのだった。
更に距離を取る雪丸に攻めるレイダー教えを続ける
ように雪丸の動きは多彩に変化していく。
雪丸「相手が武器を持つ場合の最大の力の集約の場所
を見極めよ、その点以外は力は削がれる、棒なら棒の
距離、ナイフならナイフの距離分空ければ攻撃は当た
る事は無い、武器で攻撃する相手はその力に頼り攻撃
方法は狭く単純だ、長けた者でなければ素人ならば尚
更その分隙は多くなる、それは力に溺れる者の典型的
な例だ、だが攻撃には注意が必要だ、最初は中途半端
に避けるな、逃げる事に集中しろ、人は通常当たる瞬
間動きが止まる、武闘家はその止まる動きの中に筋肉
を硬直させたり受けを行うが慣れるまでは半端は最も
危険な行為だ。
一定の距離で構え合う2人に固唾を飲んで見守る武丸
だった、攻め手に困惑するレイダーに対し一定の距離
を空ける雪丸、レイダーから見れば攻撃の全てが躱さ
れ反撃を喰らう想像が脳裏から離れない、だが攻めな
ければ勝てない状況に飛び込む形で雪丸に飛びつく事
しか出来ないレイダーの身が動いた瞬間、雪丸の素早
い蹴りが相手の胴めがけて槍のように刺さるも力の抜
いた彼の蹴りは相手との距離を離す位の力加減に余計
イラつくレイダーは何度も何度も同じ行動に身を任せ
たがその度に動画を巻き戻すかのように同じ光景が繰
り返された。
雪丸「攻撃には近づかねばならない」
呟く雪丸の言動の通り間を見極めればこんなにも簡
単に虚をつく事が出来るものなのかと思わせる程の単
純作業に見えた。
武丸「なぜ同じ行動を奴は取るんだ……だが確かに攻
撃には近づかなければならない、攻撃の瞬間は最も敵
が無防備……か」
雪丸「相手は攻める時必ず身も同時に動くは必定、出
会い頭の挙動は敵自身が制御は出来ぬ、そこを狙い撃
ちする事も戦術の一つ、距離を一定に保ち自身の間合
いを把握、我は制間圏とそれを呼ぶ」
雪丸が構えを解いて敵を誘う、その隙を獣のように
襲い掛かるレイダーに対し殴りかかった距離を近接で
躱すと言うよりは間近な距離を保ち見切る雪丸、放っ
た拳を再び力を乗せるために引くレイダーに対しその
引いた分の距離を積める雪丸、攻撃はしない彼では
あったがその2人の間は常に近接で一定、まるで舞い
踊るかのような優雅でもある挙動に武丸の心は踊った。
武丸「こんな、こんな戦い方もあるのか」
雪丸「見切り……そして掌握それを成せばこんな事も
できる」
敵が引けば軽く敵を押し体勢を崩し、それでもガム
シャラに殴ろうとする勢いを利用して先程とは逆に引
きながらも敵の勢いを利用し力の方向を雪丸が援助す
るかのように手を合わせると過剰な力はレイダーの身
を踊らせる、そして雪丸の目が光ったように見えた瞬
間同じ挙動は静から動に移り変わる。
ハク「押さば引け、引けば押せって感じだね」
「な、舐めんな!俺の破壊力があればお前なんぞ一撃
でも当たれば粉々にしてやれるんだ!」
雪丸「ならばその剛と逆に打撃の柔でその自慢の力を
超えよう」
勢いを利用し軽く握った拳を広げ脱力すると素早く
敵の顔面に向かい裏拳に近い打撃を加えた、鞭のよう
に当たった衝撃音は今までと違い『バチン』という音
に変わる。
ハク「あの撃ち方は力の無い僕もよく使うなぁ、手を
ブラブラさせて……準備運動でよくするアレだね、簡
単に出来るよ、面の大きいあの打ち方は背中を勢いよ
く叩かれる感じに似てるが痛みの質が全く違うんだ、
痛いんだよアレ純粋に、それに顔面に喰らうと神経が
過敏に働く場所では無類の強さだよ」
武丸「あんな準備運動如きの動きで手をぶらぶらさ
せる事自体が打撃に使えるのか……戦いの中考えた事
もなかった」
ハク「でも手の構造上気を付けるべきは慣れて早さが
増し始めたら緩めた指が実際は振られた瞬間勢いを増
してくれるんだけどその勢いは自身の指に負担が大き
くなる、熊手で応用するか小指から相手に向い放つと
良いよ」
雪丸の挙動は止まらない、打撃による痛みに怯み顔
を上げたレイダーの姿勢は上を向いた人体の筋肉が緩
む場所、つまり胴に向けて軽く打撃を与える、グェと
いう奇妙な声を上げ反射的に今度は身を縮こませ腹を
抱えようと頭が下がった彼の目の前に見えた物は雪丸
の膝であった、再び跳ね上がるレイダーの顔を右手で
軽く押すとヨロヨロと後に下がるレイダー。
ハク「あれは脱力した体に押すことで自分との距離を
空ける技、打撃には相手にダメージを放つ撃ち方1、
そして距離を空ける撃ち方2、次の攻撃が同距離なら
ば重い撃ち方で打撃の衝撃だけを相手に伝える撃ち
方3基本はこも三つ、重い撃ち方に反し軽い撃ち方の
特徴は速さによる隙を作る、重い攻撃は相手を破壊と
同時に距離を離さず追撃する攻撃に多く使う、そして
拳が距離を開ければ最大の破壊力で敵を襲う、コンボ
という事だね、動きの中に常に一歩先を考える事によ
り繋げていけるんだ、慣れれば自然と身につくみたい」
レイダーC「畜生……余裕ぶっこきやがって」
地面に這いつくばりながら息を荒くするレイダーが
懐から出したボタン式の発信機のような物を押すとニ
タリと笑を浮かべ、嫌な顔で3人を見つめ言った。
「いい加減にしろよクソ野郎が……ここはなレイダー
の拠点って事忘れてねぇよな、不条理の力ってのはな
欲望の塊である事を真の意味で理解してねぇ」
その言葉通り彼らは既に多くのレイダーに囲まれて
いた、その数総勢20人程である、半分は武器を所持し
ていた。
レイダー『……少ねぇな、確か80名はいた筈だが』
レイダー「クソ!」
「だがいいか、この賭けに人生賭けてる奴も多い、
雪丸、お前に賭けた人数の分、敵はこの施設のほぼ
全員が敵だと知れ」
武丸「汚ねぇ……いくら何でも数が多い」
雪丸「臆するな、不条理な条件であろうが自身を貫く
強さこそがお前の求める力であった筈、この状況を負
に思うかどうかはお前の心の強さと比例する、目指す
頂が高ければ壁もまた高い、それを乗り越え無ければ
その求める力は手に入る事は決して無い、苦境とは力
に近づく最も近道だと知れ、道が険しければ険しい程
に心は強くあがらう程にその身は己のものとなる」
武丸「そうですよね……俺の目指す頂は簡単に勝ち取
れる物じゃないって最初からわかってた筈だ、宗この
状況は逆に有難いぜ、潰されれば終わりだが得られる
ものはそこにしか無い物だってある、ブレない心が、
諦めない心のチャンスが今ここにある」
頬を自らの手で叩き心のエンジンをかけ武丸だった。
 




