ハク戦3 不条理
異例の仕切り直しとなったハクvs雪丸戦、予想だに
しなかった逃げ手を打つハクだったがそれもここまで
逃げられないように柵に囲まれた檻で戦う事となる。
リング設営に慌てふためくレイダー達を他所に眺める
ハクは近くにある穴の空いた場所に設営に使われた鉄
骨の細い既に切られた物を数個拝借、パイプにそれを
入れ、土台に使う建物の穴に開いた部分にそれを差し
込み体重を駆けて曲げるのだった、形状はクリップに
も似た者、靴から先はL字に曲げられ先は靴から飛び
出していた、設営に使われている切断器を使い、黙々
と作業をした。
『バイクのハンドルを暴走族が曲げるやり方の応用だ』
ハク「後は縛って接着剤で乾かし念の為ガムテープ固
定……」
やる事のなくなったハクは横になり寝始めた。
レイダー「緊張感の無い奴だな……相手は雪丸だぞ?」
レイダーB「しかしお前なら寝れるか?この状況で、
ある意味大物か、もしくは馬鹿か……」
レイダーC「しかし何だろうなアレ」
レイダー「足につけてるって事は武器だよな?安全靴
みたいなもんだろ、足技が得意ならあれなら距離も足
せるからな、比較的軽いしパルクールが得意な奴なら
上手く使えんじゃねぇか?」
レイダーB「なるほどな、きっとそうだ!」
レイダーC「だが得意な逃げの手を自ら封じる様な、
あれじゃ走り難いだろう……やはり武器か」
司会「……ようやく武器を使いますか、どうやら今度
こそ本気のようですね、ボスから急ぎ決着を付けろと
言われてるのでホッとしましたよ……貴方足技使いで
すか、安全靴のようなものですね」
誠「……前言撤回だ、ははん、なるほど」
純衣「何よ、どうしたの」
誠「ククク、現場のもんがいりゃ気付く奴もいるん
じゃねぇかな、ありゃあれだククク……ハクめ、あ
いつ本当に一日試合伸ばす気でいやがる、しかも前戦
でパルクールで逃げたのもこの施設にあるあれを使わ
す気でいたな、あの策士め」
純衣「?」
ハクは起き上がると試合前にトイレに行くようでそ
の場を離れた時、背後から複数のレイダーが動き始め
た、トイレの設置場所に着き用を足しているハクの声
をかける3人レイダーは皆巨漢の強そうな男達である。
レイダー「おい、テメェ試合する気あんのか、あ?」
レイダーB「こっちは雪丸に賭けてんだ、このまま逃
げ回られちゃ天候悪化により試合は没収しかねねぇ、
お前の得意な逃げ足は俺らが壊してやっからよ、ここ
なら誰も見てねぇ、その足動く程度に壊させてもらう」
ハク「……」
臆する事なく相手の話も聞いてない様子のハク、そ
のデカい手で肩に触れようとした瞬間そのレイダーを
止める様に遮ったのは雪丸の信者の若者だった。
武丸「おい、待て」
レイダー「あ?なんだお前、ガキじゃねぇか……」
三田武丸、年齢15歳、雪丸の弟子の1人である。
武丸「雰囲気が変だったから見に来てみれば何する
気だ」
レイダー「おいおいガキ、雰囲気が変なら見にくる
もんじゃねぇんだぞ、昔と同じく見て見ぬ振りすん
のが賢いんだぜ、だがもう遅いがな、この場を見ら
れたからにはガキでも逃す訳にはいかねぇぞ」
武丸「俺は15歳だ、ガキじゃねぇ!見て見ぬ振りす
んのは男じゃねぇ!汚い大人のやり方なんぞ俺に押
し付けんじゃねぇ!」
ニヤニヤしながら笑う男、そして武丸の背後に回
り込むレイダーが忍び寄っていた。
レイダー「威勢がいいな、だがよ、大人には敬意を
持って接するのがガキの使命であり生き残る方法だ、
平和に守られた時代じゃねぇ分余計だ、覚えとけ!」
いきなり横のレイダーが武丸に向かい殴りかかった、
だが彼はヒラリ体を半回転させるとその拳を避け、回
転を利用し相手に体ごと勢いを乗せた拳を相手に叩き
込んだ。
武丸「相手が妙に落ち着いて笑った時、師匠は言った、
何らかの策があるかただの馬鹿かと、汚ねぇ奴は複数
で少数の戦いに慣れてるから気をつけろと!」
レイダー「グェ!」
大袈裟に地面に転げるレイダーだったが不適な笑い
を浮かべるのだった。
レイダーB「痛ぇええ……なんてな、やるねぇ、だが
ヒャハハ!軽い軽いぜ、こんな拳、痛くも痒くも無ぇ」
レイダー「少しはやる様だが大人に歯向かっちゃいけ
ねぇな坊主、いいか、お前の体は成長期だ、成長期の
体は力に関しちゃ大人の体には勝てねぇんだよ、持続
力は大人を凌ぐ事は多いが子供が技や感覚、技を使う
スポーツのは長けてるがこと、単純な力のスポーツに
勝てる者が極小なのはそれが理由だ、15歳前後で重量
挙げや砲丸に元の体の大きさも関わるが元は小さな体
を持つ日本人が世界を相手に勝てない理由はそこにあ
んだぜ、見ろ此処にいる俺たちとお前の体の大きさの
違いを含め元の素質が違うだろ」
武丸「体の大きさと義理を果たす事に何が関係ある、
俺は雪丸様の弟子だ、この戦いを汚すものは許さな
いと師匠は言った、それにこの人との戦いは雪丸様
にとって人生を賭けた戦いと聞いた、そんな彼を俺
が守る事につまらねぇ大人のその硬ぇ講釈じみたセ
リフの中に勝利だとか体格だとか力だとか関係がど
こにある!1人だろうが
2人だろうが関係ねぇ!かかってきやがれクズ達が」
レイダー「……言わせておけばガキめ、ならその義理
に対して不義理という力がいかに巨大か教えてやる必
要があるな」
レイダーB「習ってもこのガキもう殺すけどな、それ
にオレ達が3人だと思うか?アホが100の力で1をなぶ
るからこそ安全安心な不義理が成り立つってもんよ」
レーダーC「ギャハハそうだなあっちの世界で正義振
りかざして手も出せねぇお化けでもなってあの世で後
悔し続けろや!此処は戦場と同じだ、警察なんか無ぇ、
どんなに泣いても血が出ようがお前の肉が裂け血だら
けなろうが目が見えなくなろうが土下座して許しを
乞おうがお前の声が出なくなるまで痛ぶり続けるぜ」
武丸「……言葉による戦意喪失狙いって奴か、弱い奴
は言葉で心を攻める、師匠が言ってた、飲み込まれる
と力を発揮できない、平和な時代から愚者が必ず行う
愚行だと」
「俺の目指す漢はテメェ達みたいな姑息な奴じゃ
ねぇ……誰もが憧れる真の漢だ、脅しは通じない、
本当の漢を知ってる俺には鶏がコケコッコ泣いてる
としか聞こえねぇぜ、それに師匠達はその恐怖を乗
り越えてここまで来た、決して逃げないからこそ俺
の生きる道標の存在になった、そこを目指す俺にとっ
ちゃ好機だぜ」
レイダー「まだまだガキだな、勢いだけか、勝てる
からこその存在だろうが、まともな計算も出来ない
奴は袋叩きにあって終わるしかねぇんだよ、不義理
の力を勉強しとけ!」




