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ハク戦 1





 呆気にとられる司会に怒号の嵐の中で会場は裕太戦

との熱気の違いにヒートアップするレイダー達がいた。


司会「何を考えているのか!これは初の展開だ!これ

は試合と呼べるのだろうか?かつてこんな戦い誰もが

見た事ないだろう!それほどまでに私にも理解出来ま

せん……」


 ブーイングの怒涛が辺り中から聞こえてくる、裕太

戦を見ていたレイダーからすれば予想すべきは雪丸の

圧倒的強さに目を背けるような残虐な場面が繰り広げ

られたと想像していた、悲鳴というよりは怒りが伝わ

る会場内、他程の熱い戦いに湧き上がる興奮の声でも

無い会場には本来投げ入れがOKの戦いを思い出したか

のように辺りはゴミだらけの試合場だった。


数刻前ーー


開始戦に立つ2人、ハクは通常運行である、雪丸は表情

をあまり表さなかったが、此処に来て笑った。


雪丸「フフッまさか此処で会えるとはな、ハク……久

しぶりだな」

ハク「お久しぶりです、元気そうで良かったです」

雪丸「事情は理解している、だが私は謝りも出来ない

それが俺である意味、お前が……俺まで救おうと言う

気持ちも理解している、だが俺は俺を止める事は出来

ない、俺は此処に来て人の是非を解く毎日だった……

世の中が混乱すればするほど人はまるで神話に出てく

る悪魔そのものだった、善人と呼ぶ種の人間は悉く悪

人に殺され奪われる、そのうち善人は悪に染まりその

所業は元々悪な物より惨めで矮小で反吐が出るほどに

醜悪だった、そして俺は人に絶望した……」


雪丸は話を続けた……


「葛藤の中、お前の事は忘れなかった、唯一敗北をし

俺に光をくれたお前を、だ……あの頃は楽しかった、

苦しい世界にまるで光が射した様だった、だがその思

い出も今では夢……いやむしろその思い出がこの時代

には苦しく心に突き刺さるのだ、俺は此処にきて力と

いうものが理解できなくなった、突き詰めた力は何の

役に立つのか身を守る術など数や圧倒的な力の前では

無に等しい……俺は力を、本当の力を手に入れるため

に義を捨てた筈だった、だが今の俺は力を持ってして

も守れないものがある、ハク……力とは何だ?この心

に残った人間の心が俺を弱くしているのではないの

か?俺だけの力なら此処を脱出することなど造作もな

い事だ、だがそれが出来ないのは俺の中に残る人の弱

さ、つまり弱者を敬う事ではないのか?優しさ故に人

は情が生まれそれ故に行動は制限される……そんな中

お前の姿を見た、俺はそれに運命を感じた、この世界

は変わってしまった、だが強さにおいては時代が変わ

ろうが変わらないものだろう?俺はまだ弱いのか?そ

れは情のせいなんだろ?教えてくれ……その答えを、

今の時代に此処で出会った運命を持ってお前を殺す、

殺せれば俺の生き方が正しいと言える事となる、俺は

情を完全に捨て力を持ってそれを証明し続けることが

迷わず出来る……だが万一お前が勝てば俺の強さは紛

い物、俺の生き方は生まれた時から間違っていたとい

う証明となる……わがままなのは理解している、だが

お前が勝てばその見返りに俺がこの場所に居続けた事

が正しかった道を行くために、お前への殺意の代償と

して、この力を持ってこの命尽きるまでグリマンと戦

いお前達仲間全員を必ずここから逃がしてやる、これ

は互いの命をかけた証明の戦いだ」


ヌク「ここまで雪丸が悩んでいようとは……しかし上

に立つ、人を導く者は何かしらの信念や理念に葛藤は

付きもの、並び従う奴らとは違い皆、結果同じ苦しみ

の中立っている者だけかも知れんな」

ヒロ「……大半は生きるのに精一杯で考える余裕すら

ありませんもんね、快楽や欲に行くのも普通といえま

すもんね」

ヌク「しかしそこ迄して悩むものかね、時代が変わろ

うが変わらない者もおるのも確か、ハクを見てみろ、

恐る訳でもなし見てる物が違う、そういう事が変化に

惑わされる事なく生きる意味だと言える

事を感じさせるわい」

ヒロ「あの人は呑気すぎですよ……なんか手に輪ゴム

はめてますけど、しかも大量に、あれグローブのつも

りですかね」

ヌク「グローブはめてどうする?相手に衝撃をわざわ

ざ緩めるような事をするか?ヒロ、あれ見てお前なら

どうする」

ヒロ「輪ゴムをですか?うーん……」

ヌク「ククク、まぁ見てるがいい」


司会「会話中ですが時間です、では試合開始!」


 構え相手の様子をみる雪丸、此処に来た過去の試合

通り、雪丸は相手に責めさせ力でそれを粉砕するスタ

イルだ、そこには自分の圧倒的強さを他人に誇示する

というよりは自分の強さを確認するかのようでもあっ

た、そして技の訓練、あとは彼なりの相手に対するこ

れから破壊する人への礼儀的意味もあった。


 長い睨み合いは続いたと言いたいがそれは双方が

あっての話だ、その睨み合いには片方、つまりハクに

は通じなかった、構える雪丸に対しハクは棒立だっ

た、それどころか伸びまでする始末、まるで戦う意志

のないように周りからは見えた。


 隣では湧き上がる歓声の中、静寂に包まれる雪丸

戦、1分、2分時が流れる程に会場は苛立ちを表現に

表し始めた、一つの酒の瓶が会場に投げ入れられる

と2本……3本と数は増え、雪丸に怯えていたレイダー

達も苛立ちの中怒りをハクの方に向けゴミを投げ入れ

始めた、それを器用に避けながらまるでゴミ掃除をし

ているようにいそいそと自分のバッグに入れ始めたハ

ク、この試合に関しては相手が雪丸だけあって力の差

が大きいということで双方武器を最初から持ち込み自

由であったのだ、雪丸はかつて武器を使用した事が無

い、そうした事実を踏まえ試合を盛り上げる為の処置

である、グリマンを素手で殺す男の対戦に邪魔な存在

ではあるものの強さに関しては絶対的な笠田の信頼が

あったと思われる処置である。


 其処には異例の特別処置として銃も認められた筈

だった、司会は持ち物を確認した後、試合は進められ

る予定だった、当然そのような勝てる要素を持ち込む

であろうと予測した司会ではあったがハクが持ち込ん

だものは持ち物を入れるリュックに紐、滑り止め、簡

易な細かいもの、ペンチや紐や食料や中には接着剤な

ども入っていた、まるでピクニックに行くかのような

荷物に司会も唖然としていた。


 汗が滲む雪丸、過去のトラウマであろう、慎重に

様子を見るがハクは汗ひとつ欠かずにのんびりして

いたのだった、冷静な雪丸がここまで慎重になる試

合に皆驚きを感じた、あの小さな男の前に警戒する

理由などいくら探しても見当たらない、グリマンに

比べればまるでチワワかと思うような相手に対して、

だが痺れを切らしたのは雪丸の方だった、地面の砂

が一瞬弾けたかと思えば一気に突進、先手は雪丸から

だった、これは珍しい事だった、彼は此処に来ても

どんな状況でも初見は相手の技を見てまるで修行を

するかの様に一旦攻撃を受けそれらの技を吸収する

かに見えた試合運びが定石であったからだった、だ

がそれは攻められたという状況があって初めて成り

立つものだ、攻撃の意思がないハクには通じなかった。


 太い腕からは想像できない無駄のない動きでまるで

黒田とは違いその拳を空気抵抗など自然のものの反発

を否定して撃ち威力を落とす突きとは違い、まるで空

気が彼の拳の抵抗を避けてくれているような速さだっ

た、空気を切り裂くといった表現が一番近い表現の中

普通の人間ならばその異様な速さに目はついて行けず

何が起こったかも分からず倒されるのが普通だった。


栗栖「純衣の動きと似ているな……だがその原理は正

反対だが、それよりも驚きなのは」


 その速さについていったハクに周りは驚愕した、

それは理論上大いにあり得た、ハクは動体視力は良かっ

た、彼特有の状況を把握する能力に瞬時に判断できる

思考の持ち主だった、それは空中で自身の位置を把握

する器械体操に馴染んでいた事、それを利用し磨き上

げたパルクール技術によるもの、一瞬の判断力を必要

とするその技に加え小さき頃からいじめられた事を逆

手に取った彼の生きる術の技もあったが一番大きい要

因は開始早々彼の得意な下がる避け方にあった、過去

にも彼の戦い方はこれが定石であった、人は拳に威力

を乗せると必ず動きは止まる、だがその瞬間もハクは

後に移動する攻撃はイコールハクに取っては敵の動き

が止まる瞬間、それと同時に敵の攻撃がハクから遠ざ

かる事を意味する、そう彼の動きを正面から、いや攻

撃しようと向かう限り止める事は出来ないのだった、

これこそが最強にして最も安全なバックステップの完

成形と言えた、ひたすらバックで下がる技術、この長

い人の歴史と戦いにおいて誰もがやらないレアな動

き、発想の転換を見つけ長い時をかけ磨いた技はレア

だからこそ対処が難しい技だった。



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