民家攻防戦2
ーー民家ーー
稲森晴「自己紹介は後だ、美優ちゃん、仲間がハ
クを助けに行ったからもう大丈夫」
美優「そうなんだ……良かった」
安堵のため息を大きくつく美優だった。
晴「しかしのんびりしてる暇はあまり無いんだ、
話は後でゆっくりしよう、直ぐ近くにもう敵が
来てるんだ」
言ったが先か突然の音にビクっと体が動く、
『ガシャン!』
一階の窓ガラスが割れる音がした、
美優「来た!」
素早く銃をドアに向けて構える美優、
晴「銃はまだ取っといて、本当にヤバくなった時
まで」
手に持ったバールを美優に渡し、押し入れを指差
す晴、
「其処の押し入れの中に入って上にある板をこの
バールで、こじ開けて」
家の構造は2階建、木造建築、2階は3部屋、美優
達は階段から一番手前の部屋に居た。
「そしたら……そうだな」
辺りを見回す晴、そして手に取った目覚まし時計
を美優にそっと渡す。
晴「いいかい?奥の部屋に着いたら入らず天井か
らその部屋にコレを投げて、敵の注意を奥の部屋
に向けるんだ、敵の注意を逸らせる、そして5人
を分断させるのが目的だ、敵は1人でも少ない方が
いい」
美優「……わかった!」
一階からガラの悪い怒鳴り声が響く、
男「いるんだろ!出てこい!」
怒鳴りながら2階に続く階段を上がる軋み音
が聞こえる、人数にして5名。
ユックリと聞こえる音に威圧感が増す、一歩、そ
して一歩、向こうも警戒しながらの慎重な足運び
で……
奥の部屋へと到着した美優は指示通り、天井をバー
ルで壊した隙間から目覚まし時計を投げつけた。
剛田「奥から音がしたな……」
手下「あちらの部屋に居るのか?」
剛田「いや待て階段が一番近いのは……この部屋
だ、奥を見に行って逃げられたら面倒だ、かと言っ
てこの部屋に侵入後、背後を取られるのもマズいか
……となると」
「チッ……俺と、おいお前!奥の部屋見に行くぞ!
後の3人はこの部屋の封鎖してあるドア壊すなり、
ともかく開けとけ」
ーー部屋の中ーー
ドア前でヒソヒソ話が聞こえる、美優が天井から
戻り押し入れから降りようとするのを止める晴、
晴「ちょっと待って美優ちゃん」
真美に手招きする
「真美さんこっち来て……」
小声で美優に語りかける晴、
晴「あと美優ちゃん真美さんを連れて天井で待機
しといてくれないか……」
美優「……鈴は?鈴はどうするの」
晴「鈴ちゃんを抱えて上がるのは無理だ、今はク
ローゼットに居てもらう……」
美優「ヤダ!」
晴「大丈夫、大丈夫だ、俺が命に換えても守る」
首を乱暴に振る美優、
美優「嫌だ!嫌だ!」
混乱する美優の肩に両手を添えて優しい声で語り
かける様に呟く、
晴「……よく聞いて、今、最悪の状況を考えての
行動なんだ、的が大きい君達2人を庇いながら戦う
のは無理なんだ」
鈴の方を見る晴の表情も辛そうだった、
「鈴ちゃんは体がまだ小さいし、敵が銃を持って
たとしても狙うのは体の上部、つまり伏せていれ
ば当たる確率は少なくなるんだ」
それを聞いても動こうとしない美優に対し真美が
助言を加える。
真美「今は言う事を聞きなさい、この人は私達全
員を助けようとしてくれてるわ……鈴ちゃんだっ
て、貴方に何かあったらきっと自分のせいだと絶
対後悔する」
美優「……」
晴「そうだよ、自分のみならず残された者がいる
者は自分の命をも守らねば守った事にはならない
んだ、今は僕を信じて、そしてハクを信じて……」
美優「わ……わかった」
頷く2人は天井へと上がり待機した、しかしそれ
は晴にとっても苦渋の決断であった、理由は相手
は5人、自分1人で戦う事は本当は無謀という事を
彼自身が感じていた。
確かに援護射撃をしてもらう方が、敵は殲滅出来
る確率は上がる、だが高確率で誰かは犠牲になる。
それは人質に取られやすい鈴と真美を案じての事
だ、そうなったら、もうハク達も行動出来なくな
る、全てがお終いだ。
今はハクに賭け自分のやるべく事をやる晴はそう
思った、階段手前、晴達の居る部屋前にいる男達
が、激しくドアを開けようと奮闘する。
開かない様に置かれた家具が大きく揺れ、今にも
支えにした家具が倒れ侵入してきそうな勢いだ。
辺りを見渡し武器になりそうな物を物色、晴は近
くの冷蔵庫に駆け寄り中身を急ぎ、全て取り出す。
『バキ!メキメキメキ……』
嫌な音を醸し出すドア
そして中身の無くなった冷蔵庫を紐で縛り冷蔵庫
のドアが開かない様に工夫し、それをしっかりと
両手で握り締めた。
ドアが破壊され男達の影が見えた瞬間ーー
全身を電光石火のごとき冷蔵庫を盾に集団に突っ
込む、彼の大きな体躯を生かし最初に入ろうとし
た男をドア外に押し出すかの様に激しくラグビー
のタックルの姿勢で全体重を載せ、ぶつかる晴、
手下「なっ!、れ!冷蔵庫が!」
不意を突かれバットを振りかぶる暇も無く勢い良
く階段から転げ落ちた。
すぐ後ろに待機した男達も、その勢いと先頭に居
た男の体重を階段で支えようとしたが勢いは止ま
らずて滑落していく。
手下①「イテェ!ドケ!」
手下②「お前がどきやがれ!」
手下③「のヤローっ!」
叫びながら一番の前にいた手下は怒りに任せ階段
を上がろうと上半身を起こすが眼前に既に滑空す
る冷蔵庫が一瞬で彼等を押し潰した、冷蔵庫の落
ちる鈍い音が部屋に響き地震の様な家が揺れ、階
段下からはヒキガエルのような声を発し悶絶する
男達。
男「鼻が折れた!血が!血が止まらねぇ!」
「腕も肋骨も折れたみたいだ!!」
「イテェェ!イテェェェエ!」
階段から見下ろす晴は箪笥をその逞しい筋肉の両
手で持ち上げた状態で囁く……
晴「……まだ雨は降るぜ、オラ!受取な!」
晴は支えにしていた箪笥を階段下に居る男達に向
け、力一杯放り投げた。
(追撃は机、タンス、そして全身鏡、隣の部屋の
奴等が来る前に何とか人数を減らさねば!)
全身鏡の割れたガラス片が男達を襲う、割れた破
片は階段上に積み重なっていく家具の間に入り込
みながら飛散していく、血みどろ状態の階段下、
その内2人は意識を失い倒れたままだ。
奥の部屋に居た剛田と手下1人が物音を聞きつけた
剛田「チッ囮か!この部屋の音は!」
隣のドアを勢いよく蹴飛ばし隣へと駆けつけたが、
既にドア付近は新たに積み重ねた家具で既にバリ
ケードを張っていた。
剛田「……クソが!ゆるさねぇぞー!」
怒りに任せた怒号が飛び交う。
手下「階下の奴らはダメだ2人は気を失っている
様だし、1人は血だらけで転げ回ってるぜ……」
剛田「使えない奴はほっとけ」
(2人でガキと言えど3人か……銃もある、迂闊
には手を出せなくなったか……)
思い付いた表情を浮かべる剛田、
(……いぶり出すか)
剛田は手に持ったライターで封鎖した棚を燃やし
始めた。
剛田「もう、いいやお前ら、燃えとけ……」
ライターで火をつける剛田を止めようとするが間
に合わず焦る男、
手下「おいおい!リーダーにどうやって言い訳す
るつもりだ!命令無視に女共殺したとあっちゃも
う言い訳も出来ねーぞ!」
剛田「……知ったこっちゃねーわ、俺は切れてん
だわ……」
ドアの向こうの晴達に向かって叫ぶ剛田
「おい!お前ら!消し炭なりたくなきゃ早く逃げ
るんだな」
燃える炎を見て笑い出したのだった。
手下「おい剛田!剛田!聞いてるのか!出るぞ!」
炎がしっかり着火したのを見届け2人は階段を降り
下にいる倒れた仲間を担ぎ家を出た。
煙が徐々に立ち込め、辺りを包む……
剛田「……まぁコレで出てくんだろ」
手下の男「馬鹿か!部屋の入り口燃やしたら出れ
ねぇだろーが!」
剛田「まぁ慌てんなや、窓があんだろうが、2階か
ら飛び降りてくんだろ、ソコふん捕まえりゃいい」
ーー民家ーー
真美「火を付けられたみたいよ!」
晴「あぁわかってる出入口は通過出来ない!窓か
ら出るにも待ち構えてるだろう……」
危機的状況に焦る晴だった。
「……」
いきなり鈴を抱き抱えた晴、
「美優ちゃん真美さん、さっきと通った押し入れ
から、一番奥の部屋に行って!」
真美「煙は上に上がるのよ!危険だわ」
晴「出火元は2階だ、少し時間がある、濡れたタオ
ルで煙吸わない様にしながら移動するんだ!急げ、
早く!」
煙が立ち込め始める中、皆が懸命に互いを庇い合
いながら脱出を図る。
晴「そこからベランダ出て、ベランダから屋根つ
たいに逃げる!下には奴等が待ち構えている筈だ
!早く!」
ペットボトル蓋を乱暴に開け、晴はみんなに手渡
した、鈴にはタオルを口元で縛り鼻呼吸を維持し
ながら、移動する3人、煙の進行スピードはかな
り早いが、判断が早かった為、無事屋根まで到達
に成功した。
ーーハク達ーー
誠「おい……あれ燃えてないか?」
ハクが素早く民家へ駆け寄る。
純衣、誠、裕太も後に続いた。
ハク「……純衣!敵3人任せていいか?」
純衣「任せて」
ハク「誠と裕太は俺に付いて来て、純衣、気をつ
けて、銃持ってる奴がいるかも知れない、ヤバく
なったら必ず引く事、約束出来るね」
純衣「わかった」
二手に別れ行動を開始する。
ハクに追随し走る3人、
誠「ハク!民家の中に飛び込むのか!」
ハク「いや、僕達は浅井だ、家事の煙は奴等も見
た筈、時間が無い、奴が来る迄に準備を整えねば
全滅する」
ハク「それに……晴なら大丈夫」
誠「記憶戻ったのか!」
ハク「いや……でも晴って言ったよね、小さい頃
の思い出みたいなのは思い出した、アイツは大丈
夫、いつだって僕の味方だった、そして君達と同
じく僕の頼れる仲間だった」
ニッコリ笑う裕太。
ハク「僕なら外に出れないなら迷わず直ぐに屋根
に逃げるアイツもきっと屋根つたいに移動してい
る筈だよ、このチャンス!生かすよ!皆んな」
誠 「おう!」
純衣「おけ!」
裕太「あいあい~」
【今日のポイント】
火事の際は濡らしたタオル等で素早く
呼吸器系を守る、一酸化炭素中毒に
煙自体が高温状態の可能性のあるからだ。
消防の報告によると、煙自体に効果は少し
高いのは乾いたタオル、濡れタオルは息を
し難い事もあるが蒸発潜熱により温度を
下げる事が期待できる。
煙自体が高温の場合、肺に火傷をおうと命
の危険が格段と上がる、状況に臨機応変に。
煙は基本上に上がる、場合によっては、姿勢
を低く、酸素がある可能性の高い地面に近い
空気を取り入れながら素早く移動する。
そして視界の悪さにも注意だ。
煙は黒く、視界は相当悪い、壁を頼りに移動
すると出入口は確実に行ける、大きいフロア
で家事に合った際は中央付近で視界が
遮られた時、進んで壁を見つけたら、それを
頼りに移動するといいだろう。




