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純衣戦 14 怒りの矛先



 黒田の目の色が変わり今まで溜めていた鬱憤や憎

悪をまるで体内から排出するかのような激しいオー

ラが純衣に向けられた、辺りはゾンビが溢れレイダ

ー達の命が混濁する中にあってもその一角だけは異

質の空気を皆感じざるを得ない程に、互いがピード

に力を乗せ戦う様はまるで激しい烈風がぶつかり合

う様な闘いというのが最も相応しかった、気の狂い

そうな心のあらゆる迷いを一途に純衣にぶつけ自身

が傷つく事等全く恐ない、いやもしろ傷つく事を望

んでいる様な戦い方、その戦いの結末に自らの命を

消し去る覚悟で挑む彼はまさに命を燃料とし心の逃

亡の果てに全てを消し炭になり全ての苦悩から逃げ

自ら消えゆく望んでいるかの様な激情と空虚の中か

ら生まれた憤怒の攻撃だった。


黒田「なんで俺だけ!いつも俺だけ、あらゆる時も、

あらゆる状況も、全てが俺を蔑んでいやがる!親だ

ってそうだ!何故俺は人に裏切られ生きていかねば

ならなった!上部では仲よい家族を装っていても相

続等、金がかかれば平気で家族を裏切る、友人だっ

て卒業すれば嘘のように他人の様に振る舞う、其れ

でも人の為に動いた時ですらそのお返しはいつも裏

切りだった、優しさに漬け込み隙があれば掌返して

つけ込んで奪おうと人の心は変わる、俺が歪んでい

ると言うならば其れは全て俺以外の他人のせい、周

りを見ろ、通りすがる奴らでさえ俺を見る目はいつ

も普通じゃなかった、恐怖、異質差別、だから俺は

その蔑んだ目を彼らが最も忌み嫌う『力』を持って

実力で環境を変えた、それが罪か!罪ですら権力や

力で捻じ曲げられる、そもそも罪とは何だ!人が決

めたルールの中で人が考える事はそれらを掻い潜り

自己の営利の為、他人を利用する、こんな時代だろ

うが戦争だろうが闇の中であろうが偽りの平和な時

代であろうが今であろうが何も変わりはしない!そ

んな世の中など、人が住む世界など滅びて仕舞えば

いい!俺の目の前から全て消え去れば、全て消えて

しまえばいいぃいい!」


 力で変えた環境であったが彼の孤独、空虚は満た

される事は無かった其れは本当の彼の求める眼差し

ではなかった事に、口から出る言葉は更に奥深く本

心を隠し、出る言葉全てが嘘に感じた、其れは本当

だった言葉使いは良くなった筈の言葉は疑心暗鬼の

心を更に深め、視線は蔑み陥れる獲物の目から強者

への恐怖や妬み恨みへと変化しただけだった……そ

して今その目は純衣もしていると信じ込み彼女を睨

んだ、深層心理の中の思い込み自身で自分を賢明に

洗脳するように、だがその眼差しはどれも当てはま

らなかった……当てはまりようが無かった、彼女の

一点を見つめる先に歪みなんて言葉が当てはまる隙

もない程に美しい、その目に思考は無くただ純粋に

対象を見ているとしか思えない程にただ真っ直ぐに

俺を見ている、その眼差しに宿るモノは彼が思い思

こもうとしている真逆、ただ単純と言う言葉しか当

てはらなかった、入り乱れた思考の視線を今までみ

続けた中で、思い込もうとした今の状況であっても

自分の思い

が馬鹿らしくなる程にただ黒田を見ていた。

黒田「何だ、その眼差しは……真っ直ぐにただ真っ

直ぐに俺を普通に……ただ普通に見やがって」


そしてハクを見た、鼻歌混じりに戦闘中とは思えな

い程に気楽な姿を、戦闘に参加する者達の支援武器

を落ちている物で作り渡すを繰り返す姿をそんな忙

しい合間を縫って何かを大事そうに丁寧に作る姿を。


黒田「俺を無視しやがって馬鹿にしやがって!」

 突き出した鍵つめ攻撃を寸前の所で躱すも猛追は

息をつく暇も無くどんどん加速していく、そんな猛

追はまるでカマイタチの様に風をも斬り裂き尚も加

速していく、その攻撃を無言で捌く純衣に対し周り

は焦り始めた。


豹「なんだあの攻撃、息してねぇんじゃねぇか、あ

れじゃいつか純衣も捌き切れなくなるんじゃ、あん

なの人の動きじゃ無い!」

由美「ぼーと見てんじゃない!今は彼女を信じろ!

ただ真っ直ぐに、それに犠牲が増える程に後それが

彼女を追い詰めちまうだろうが!あの子は必ず勝つ

だからあの子に賭けた私達が出来る事をしろ!犠牲

者を1人でも少なくするんだ」


 焦る様にそして苦悶の表情、いつもの冷静な彼の

姿はなく焦りを感じ感情をむき出しにする黒田に恐

れと同時に儚さを感じていた。

虎「なんだろ……あんな苦しそうな黒田初めて見た、

なんでだ、散々虐げられてはきたが彼を見ていると

自身の心が締め付けられる様に感じる……」


 次第に数の増えるゾンビ達、犠牲が犠牲を生み数

を増殖させていくゾンビの群れ、腐敗した体に病原

体の塊の様なゾンビはただ倒せばいいものでもない

傷付けば其れなりのリスクがのちに降り掛かる古い

肉体のゾンビは肉が激しい動きに耐えられず皮膚は

飛び肉は捩れちぎれ飛んでいく。


 妙な体捌きから体自体を回転させると腕の肉に仕

込んだ合金製の金属串が純衣の目を狙う、目眩しに

自身の肉体の中にチタン製の金属串を隠していた、

輝きに満ちたその目を黒田は見ていたくない、既に

隠し串は30本は投げ入れていた、回転する棒の中心

に立つ純衣の棒は寸分の狂いもない程に美しい弧を

描き必要最低限の動きと滑らかさに常に幻影の影の

彼女を差し貫いたと思われた場所から串のみが弾か

れる、クルクルと回り続けながら落ちていく串はま

るで花火の花が咲いたように綺麗な弧を描き純衣を

中心にそして彼女を鮮やかに彩るか如く宙を舞った。


雪丸「今の回転からの攻撃、あの女の棒から聞こえ

る風切り音が変わった……あの技は、まさか其処ま

で到達したと言うのか」


黒田「ならばこれはどうだ!」

 大きく前に突き出した足が大地に踏みしめられる

と、その勢いで辺りに落ちている瓦礫や木片が埃と

共に宙に舞う、半歩下がり一呼吸置いた黒田の連続

なる蹴りで瓦礫は凶器となって純衣に襲い掛かる、

更にはその影を利用し仕込んだ針を飛ばすが純衣は

その重い瓦礫を力で破壊する事無く優しく触れるよ

うに掌を当てると石の持つ重さ、飛ぶスピード、重

力を利用し自身の移動力と変換し華麗に避けていっ

た、投げ入れた物は当たれば大打撃となるがそれ自

体を利用し移動する力と変えた純衣には全く通じな

かった。


黒田「力が全て!愛など幻!俺の脳から出て行け!

出ないなら俺自身の手で頭をむしり切り裂いてや

る!」

 今度は純衣の前に掌を突き出し視界を奪った黒田

の取った行動はその掌を自ら突き破り鉄串を刺そう

とした、其れでも純衣を捉える事叶わず虚しく空を

切るのみだった、自身の顔に自らの返り血を浴び躍

起になって彼女を目で捉えようと眼圧がはち切れん

ばかりの形相の目で追う、そして悪鬼羅刹と化して

いく。


 捩れた体から繰り出す筋肉も次第に黒田の動きに

耐えきれず悲鳴を上げていた、だが怒りに痛みは感

じない、自傷行為が心地よささえ感じる黒田のスピ

ードは上がっていく、限界を超える力に風が重く空

気の層が重く彼の腕に伝わる、まるで一振りにボー

トで水を掻き進めるように感じられたのだった。


黒田「重い……風や空気さえも俺の存在を否定する

か今俺は自身の限界を超えた所にあると言っても過

言ではないと言うのに、今度は自然すらも我を否定

するか邪魔をするか、ならその自然の摂理をも超え

て全てを喰らってやるわ!」


 スピードが早ければ早いほど筋肉は疲弊した、だ

が彼の怨念の様な感情に突き動かされた体はまるで

水の中で溺れる感覚だった、執念という感情は気持

ちの中で焦りを生み出し、ダメージに繋がらないと

理解しながらも当てる為だけに足掻きまるで這いつ

くばる様なわざとも言えない蹴りや武器で攻撃を繰

り出すが其れすらも当たらない、無様な姿を晒して

でも少しでもダメージをと願う彼の意志とはかけ離

れていった……対し同じ速度、いやそれ以上の動き

を見せる純衣の動きに戸惑いながらもその域に、こ

の苦しい戦いの中で昇華できる望みを賭けて。


虎「黒田様、苦しそうだ……」

虎「アンタどっちの味方だよ!」

「そんなこと言ったって、まるで地上で溺れてるみ

たい……」


弟子「苦しそうですね、人があんな速さで動ける筈

は無い、彼の動きは生きることを諦めた故の異常性

人は体を壊さぬよう脳が一定の負荷がかかる動きや

力に自制する本能を超えたという所でしょう、だが

解らないのはあの女性はそこを超え何故あそこまで

速くなれるのでしょうか」

雪丸「解らぬか、人は水や空気、風、自然の中で生

きている、水の中では浮力もあるが人間には重力も

加算される、水の中で自由に動けはしまい、其れは

地上であっても同じだ、掌を広げ手を振ってみろ、

意識すれば感じる筈だ」


 弟子は言われた通りやると確かに手のひらにまと

わりつく空気の層を感じた、速さが上がれば上がる

ほど感じるのは車の中で手を外に出した時に感じる

あの感覚に近い、地上にいるものも質は違えど水と

同じ様な中にいる事、彼はその中で戦っている事を

理解したのだった。


弟子「成程、空気なんて意識した事は無かったです

が、感覚を集中させると、確かに感じます」


雪丸「ある一定の生命体の基本的な動作を超えた時

その環境は壁となり、前に立ちはだかる」

弟子「では何故あの女性は……」

雪丸「それを理解せねばその壁を越えることは叶わ

ない、頭で理解するタイプではなかろうがな、あい

つは、だが頭が理解しても出来る物でもないし馬鹿

でも到達出来ない、気づきもしない世界、自分を取

り巻く世界すら知らぬものが万物の力を超える事な

ど出来様筈はない、黒田がそれを理解せねばその領

域には決して辿り着くことは叶わぬ、いくら努力し

ようがな」


 其れは風、空気の層を読む鳥が風を読むように、

純衣はパワーを生み出す為の回転はその層を自ら生

み出す、力に加算されるスピード、そして層の境界

を利用し速さに生まれる力だけでなく人の限界領域

を超えていたのだった、簡単な原理だ、風呂の中で

手刀を作り斜めに素早く入れ込むとスピードが上が

るのと同じだ、其処に加わる力の壁そのものが新た

な力の複合となりスピードを生む、考え方にもよる

が壁を壁とは思わず其れを利用する、その力の複合

力は重力や水圧、浮力、あらゆるいつも僕たちの側

にある力の集合力だった、ハクの想像し生み出す力

とはそういう事である。



黒田「何故当たらぬ!何故だ!我の命をも賭けた力

でも超えられないのか!力が欲しい、摂理など力で

捻じ伏せる力が、そうか力の源である恨みが足らぬか

そうなんだな」


輩「そうだ憎め!お前の強さはそこにある、恨め、

悔恨の中でお前は強くなったのだろ?ヒャハハ、あ

らゆる負がお前を苦しめそして力となる」

(その力を利用し努力せず得る、これが人の頭の使

い方だって事を最後まで知らずお前は俺たちに利用

される為に苦しんでいけ、其れこそが全てを統べる

力だ)


黒田「そうだ……そうだった、そう社会もだ政治も

だ、この世の中の成り立ちはどうだ、談合や横領、

着服、税金を我が物のように浪費し、其れに対し補

填もなく国の成り立ちはいかに税金を回収し、

票を集めるだけの者、誰も国の行末など思っちゃい

ない今がよければどうでもいい奴らばかりだ、会社

なら同じ事をすれば当然逮捕や債務、それを行う国

の機関自体がそれをやってもお咎め無しだ、反対す

れば自身の身が危うくなる事を恐れ何もしないで」


 同時に戦う来栖も考える所であった、今までの

腐った体制を立て直す為、彼は指揮を取った、最

早平和な時代では自己中心的な考えな政治が世界

を握っていた、任期は延ばされ逆らえなくなった

国の指導者達はこの広い宇宙の中で狭い領土を奪

い合う、そしてその中で生まれたのは民主主義の

中に隠された独裁政治だった、その中であっても

変わらない制度に破局に真っ直ぐに向かう日本を

危惧し、自身の生まれた地位を利用し、それが運

命と感じた来栖は賢明に理想の国、日本を作るた

めに努力を重ねた、だが出来上がったその体制を

変える事は最早遅すぎた、出る杭は打たれ政治が

損をする出来事は踏み潰され国民には生かさず殺

さずを常抜いて私服を肥やす豚共の国となっていた


来栖「……奴の言う事も最もだ、だが事を成すため

には犠牲は必要、多くの者を救うには上に成らねば

ならない事実もまた真実、だが、その為には……更

に犠牲が必要だった、だから今、この時代を逃せば

もう日本は終わり何だ、だから俺は迷わない、俺は

日本を愛し、日本を世界のトップにさせる事以外は

考えない、ブレない」


黒田「其れは今のこの世の中の人間と何も変わらな

い、愚者が愚者を非難し愚かな者や弱き者の影から

その全てを遊び半分で狙う、戦争を非難しながら武

力を持ち、いざ戦争になれば己は安全な場所からこ

んこんと口論だけが飛び交う、誰が真実を、何人も

のものが真実を見ようとした!ネットでは子供の体

が二つに千切れる写真や内臓が飛び散った写真、綺

麗な映像だけを写すテレビや規制を真実と捉え現実

から逃げる、知っていたか何故その様な写真が飛び

交うか知っているか大半は現状の真実を危険地域と

訴える為に出された事を、知っているか血を!知っ

ているか、知ろうとしたか現実を!凄惨な光景を理

解しながらもその現実に目を背ける事なく、真実を

知り、本当に守べき存在の犠牲の前に現実となった

時後悔しても遅い現実に、堕落の中、狭い世界の中

で誰が真の平和を願った!その上部の平和の中にあ

っても行動はあったか!テメェらが臭い口で吐いた

言葉にどれ程の犠牲があった、その犠牲の大半は子

供という現実更に混乱を招く、非難を恐れ国やメデ

ィアが真実を伝えない事を、造られた非現実の中で

其れを現実にしている国民を、国の為にだ?人は其

処まで、いつから人を区別した、国を区別した其れ

こそ愚か我が国?国はなんだ、そんなものは存在し

ない、ただ領土を作りただその場所に生まれただけ

の事、境界線など人間が生み出した幻想という真実

に己の欲望のみで構成した物に価値などありはしな

い!日本人だ?誰が決めた、そんなものは存在しな

い」


血だらけで言葉を天に向かい叫んだ……

心の叫びだった。


そして細く呟いた……

「狭い地球で同族同士が争うことが辞められない愚

かな人種だと言うことを、いくら文化が発展しよう

がだらけた事実を見ない考えない愚か者を生産する

国を、其れらを起こすのも力、虐げるのも力、守る

のも力なら、なら真実は力のみ、だから俺は……」


 己自身を抱きしめる様な仕草を見せ肩に爪を立て

己の流れる血で顔を拭い、そして純衣を見ると再び

駆け出した。


 幻影に次ぐ幻影技に更に足を使い砂を純衣に向け

て蹴り上げると視界は一層悪くなり幻影と重なり合

い技の完成度は研ぎ澄まされていく、だが反対に一

見技に回転を生み出す純衣の動きに予備動作が必要

で一見するとロスが多い技に見えるが其れは違った

力を補うのにパワーの無い純衣には必須の動き、そ

の一連の動きは流水の如くであり避ける動作と攻撃

につなげる動作、常に相手との距離を一定に保つ無

駄の全く無い捌きの中に一見避けるのみの様に見え

る力に反する攻撃力を生み出す物だった、其れは機

械の中で小さな歯車がやがて組み合わさって大きな

力を生むのと同じ、技に至ってはわかりやすく言う

と誰もが経験したことがある調子のいい時に自身の

脳では失敗する出来事を連続して繰り出す様なもの

ゲームの中でも敵の攻撃を意図せず調子だけで捌け

る様なものだそれをゾーンに入った純衣の集中力が

プラスされ継続されていく。



純衣「人の視界を惑わす技のいく末から惑わされる

のは視覚のみお前の言う論理も社会も政治もまた幻

術から成り立つ物、その中で苦悩するお前の心で、

本当は理解している心の奥の真理を見出せ、この闘

いの中で」

 いくつもの姿に見える黒田の足を純衣は見た、い

くら動きを惑わそうとも人間が瞬間移動できる筈は

ない、腰の位置を見極め更にゾーンに入っている彼

女と黒田との時間感覚の違いも大きく差があった、

それだけでは無い、人には五感があり、その一つを

封じ込められた分、六感が開花しやすい、音もその

内の一つであり空気の振動からなるものや空気の歪

みを捉えていく、殺気は気配となり水の様な心で見

る純衣には少しの動きで波打つ波紋のように少しの

動きも見逃すことはなかった。


 彼女の棒先が揺れ始めるとやがてその回転は力を

増し砂煙をまるで旋風のように巻き込みながら黒田

に襲い掛かる、その美しい絵画のような突きは黒田

の耳そばをかすり巻き込んだ砂は黒田の目の中に入

り逆に視界を奪う。


 中国に伝わる棒術は以前いった通り、日本の樫と

は違う柔らかいそしてしなりのあり棒を使う、長さ

の違うインドなどに伝わる棒術素材により技は武器

は同じでもあらゆる変化を伴う、純衣の使う棒はし

なりのある中国武術の棒を使用していた事も技の一

つの要因である。


黒田「ちぃいい!」

目に砂が入り視界が奪われた黒田は身の危険を感じ

取るとすぐ様後方に下がるそのスピードに追いつく

様に回転し砂煙の砂塵旋風の突きが黒田の目に映る

たまらず手で棒を掴もうとするが砂塵と凄まじい回

転、棒の引くスピードと付くスピードに掴むどころ

が悉く手から弾かれる、更に勢いの乗った突きはも

う黒田の目には複数の棒先が同じ大きさで時が止ま

った様に無数の物体が突き襲う様にしか見えなかっ

た、その無数の砂塵旋風の中心から一際大きい回転

円の姿が見えた時、着ていた服をも捻り巻き込み黒

田の大きな体を大きく一周回転するように吹き飛ば

したのだった。


 周りから見ても純衣の棒の高速で揺れ回転する先

にまとわりつく砂塵を見てまるで魔法の様だと感じ

た、過去そういった技や発想が出来たか、またその

思考の技に辿り着いたものがいたのか、それも敵の

攻撃の不利を常に自身の力に変えてなど……


 捩れた服は千切れ飛び、その下からは彼の鍛え上

げられた美しい胸の皮膚も千切れ異様な円形のサー

クルのような傷跡を残した、そこを中心に血飛沫が

円を描き飛び散った……自身の血ながら技の完成の

異様な美しさにふと心奪われた黒田がいた。

黒田「なんだ……この美しさは、戦いの中で黒い渦

巻く感情の中でこんな技の究極の完成とはこうも美

しい物なのか……俺とあの女の違いは何だ、年いく

ばもいかないあの女と俺、何が違うと言うのか、俺

の方が長く生きてきた環境も境遇も経験も全て優っ

ている筈だ」


雪丸「技の完成の美しさは見た目だけではない、

全ての競技において人の目を奪うような美しさは

演舞でもある様に全ての合理性、正確さが完成に

近づくほどに美しくなる、その究極の形に進化し

た時、格闘技のみならず全てのものが感じただろう

他人の評価を待つ事なく、その技の卓越さに応じた

感覚に」


 格闘技をやる物ならばうまくいかない時は鏡を見

美しさを極める、全ての合理性が合わさった時、技

は至高の美しさを醸し出す歯車が合わないものは

格闘技に及ばず器械体操や機械、いや宇宙において

全て美しさに通ず、美とはそれ力なり、力とは其れ

美しさなり相反するものが一体と化す時、其れは万

物の理と成りて力と化す。


跪く黒田に隙が生まれた、だが追撃は来ず純衣は

ただ俯いた、棒先の揺れ動く回転は小さくなりやが

て静寂の停止状態の姿の戻る、目を擦りかすむ視界

など構わず勝利に貪るが悪鬼の如く涙ながらに駆け

出した黒田、純衣に近づくと口に含んだ針が純衣を

襲う、其れすら軽く凌いだ様に見えたが次第に攻撃

の避ける範囲が大きくなる。


孝雄「む……不味い、奴の動きが変わってきている」

風を切る攻撃に雑味が減り『ヒュ』という心地い風

切り音が2人の間に流れて初めていた、激しい攻撃

だった、其れは確かだ、だが二つの風は自然が育ん

だ一陣の風の様に優雅でそして気の向くままに流れ

誰もが感じたことのある頬に伝う風の動きに変わっ

ていく。


 次第に辺りの人間達にも黒田の動きが変わって

きている事に周りも気づき始めた、出し切っていく

憎悪が空気に馴染み薄れていくようにその動きは違

う種の動きへと変化していった、鋭く、突き一つが

純衣の動きに似てきたのである。

純衣「無拍子」

黒田「無拍子!」

突き刺さるような一点を狙う無拍子同士が激しく当

たり合い割れた破片が当たりに散弾銃の様に飛び散

って行く、純衣の棒の先は砕けまた黒田の左手に持

つカトラス剣も綺麗に2つに折れ空を舞い互いが距

離を取った。


虎「とうとう黒田が純衣を捉えた!」

 純衣は膝を落とし俯いた、黒田もまた膝を落とし

息も絶え絶えに咳き込んだ。

夏帆「ヤバイかも……動きが似てきた、あいつ此処

に来て動きが異様に良くなって、このままじゃ」


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