純衣戦11 三心二意
純衣ーー
黒田は焦っていた、状況が目まぐるしく変化する
中で新しい感性、力、自身が否定し強くなる為に捨
て去り己の中で信じた強さを上まる力の存在、現実、
更には菅が抱く感情の複雑さに。
黒田「何故……こうも何もかもが上手くいかない、
今までは上手く行っていた筈だ、恐怖が人を支配す
る事に間違いは無い筈だ、恐怖の行き着く先は破滅
人はそのあがらえない遺伝子に組み込まれ育んだ地
球創造の元ある姿こそが……そうだ俺は学んだ、人
は常に孤独な筈だ、生まれた時も逝く時も、生きた
時でさえも自身の利益の為に人に近づき群れをなし
利用価値のない物を排除し、綺麗事を並べて自身を
守り、偽り……」
その視線の前には誠やクリスが戦っていた、互い
を助け合い、時には自身の危険を顧みず仲間の為に
傷つき倒れ、そしてまた片方が仲間の為に傷ついて
いく。
黒田「嘘……を並べ」
戦い抜いて育った彼には戦いにおいては正確な判
断が出来た筈だった、庇いあい傷ついた彼等は総合
的にはお互いが致命傷を負わず、未だ戦い続けられ
ている現実に、1人では既に双方とも弱点が致命傷
となり生き絶えていた筈だった。
「違う!全ては自身の利益の為、人こそが孤独、そ
れこそが我の知り得た究極の真理、俺は拷問装置に
も勝った、それが何よりの証拠だ、己の中の弱い部
分を切り捨てた、あの女ですら1人では抜け出す事
の出来ない弱さに勝った!だが俺はあの女に……」
精神力では勝った筈だ……だがその精神からくる奴
に強さに俺は何故勝てないんだ、いや、私が強者と
認めた力は常に俺の上を行った力だけでは到達し得
ない力とはなんだ!俺に何が足りないというのだ」
雪丸の方を見つめ純衣を見た、己の信念に迷いの
欠片も感じず凛とした姿勢に輝く目、目に見える力
ではない圧倒的な存在感に己の姿を投影する……そ
の前に立つ自身の姿は捻じ伏せて来た敵とは正反対
小さく矮小で強さに固執すればする程心の奥底の狭
い影の中に身を擦り寄せ震えながら身を潜め隙あら
ば好機を窺う姿が否応なしに心に映し出されていく
のだった、彼等とは違う力を持つ、自身が認めるも
う一つの力の方に自身の力の正当性を求め目で追っ
た。
その力の持ち主、雪丸は眉一つ動かす事なく圧倒
的な力でゾンビを片付けていく、力及ばず無様に戦
う弟子達は己の技量に見合わない敵に苦戦するも強
者である雪丸にゾンビを近づけまいと懸命に戦って
いた、滑稽である。彼の心に映るその景色は『矛盾』
弱気者が強者を守る姿に違和感を感じる、それを意
識する事もなく戦う雪丸に己の道が正しい事を無理
矢理心に刻もうとしたのだった。
弟子「雪丸様に近づけさせるものか!」
弟子2「無理するな、お前では彼等に勝てない」
弟子「勝ち負けではありません、私の家族は雪丸様
に命を救われた、俺の全てである家族を、彼は言葉
には出さないが懇願し弟子いりした私に、いや、私
だけじゃない、彼がこんな場所1人で抜けれるのに
何故未だ此処に居続けた!私達家族に危害が及ばな
い様にだろ、彼はこんな所で殺されていい筈はない
彼の未来には多くの人の救済がある!人の……未だ
みない未来の為に俺は彼を」
弟子2「危ない!」
襲われる弟子の横から出てきたゾンビに雪丸の方
から飛んできたゾンビが彼を救った、偶然か雪丸の
動きは技量に見合わない敵と対峙する弟子の敵であ
る輩やゾンビを一掃しているようにも見えた。
黒田「偶然だ……」
戦いの中、力量ギリギリの敵と対峙する弟子には
目もくれなかった姿も見た、中にはゾンビの餌食と
なる弟子もいたのにだ。
黒田「やはり偶然か」
そして純衣を見る。
黒田「俺は選定して強き者と戦った、強者とは常
に上を目指し強き者と戦い、そして勝つ事ではない
のか、幾つもの戦いを経て此処にいる、だが何故勝
てない、俺は生まれ持って弱き者なのか俺は……」
そんな中、菅を見つめる、黒田の目に映る彼女は
自らの命を賭け朦朧とする意識を保ち懸命に立ち黒
田を守る。
黒田「こいつは俺より弱い……筈だ、だが何故、俺
を強者を守ろうとする?守る力が強いなんてありは
しない、こいつが強いと言うのなら俺はその強きコ
イツを何時でも、いや今でも背後から襲い命を奪う
など……最も簡単な筈」
迷いを振り払うかのように守る菅を押し除け純衣
に立ち向かい激しい戦闘は続いた、が自身の憎悪を
燃やして戦う黒田の弱点が見え始めたのだった、常
に1人で戦う彼には背負う物は己の中にしかない、
その燃やす原動力は心の力の弱さの行き着く底辺の
領域だったからだ、対し純衣の原動力は真逆、幾つ
もの魂が彼女に力を与え、燃やす原動力は心の強さ
の行き着く至高の領域、数ある苦難を自身と仲間で
乗り越え、共有する力はその力を何倍にもする、そ
して愛を胸に戦う彼女はその存在から語りかけられ
る、そして側にいる事でその人から与えられそれを
更に己の中で増幅する事ができるからだ、心の領域
は可能性と世界を無限に広がらせ見た景色をより鮮
明に映し出す、黒田が背負う孤独感は常に怯え見た
いものだけを選び常に卑屈さと視野を狭くする、思
想は固まり発想は自己の世界のみ、そして自身が本
能的に行き着こうとする先は自身の『終わり』だ、
対し純衣が包まれる安心感は視野を広くし世界を隅
々まで楽しみ、あらゆる恩恵を肌で感じ味方にする
事ができ常に見たい事だけを選ばず苦難の末に乗り
越えた今の強さ、そして行き着く先は希望とそれを
自身で、そして愛する人と叶えようとするーーそう
『生命力』に満ち溢れた終わりではなく産み出す永
遠があるのだった、生命が命を紡ぎ世界を作り命を
産み出しものならば黒田は生命の根源と戦っている
のと同様だった、それは勝てるはずの無い、いや勝
つという事の思想そのもののにすら囚われない領域
だった。
すぐ側では泥で全身が塗れ砂利を口に這いつくば
っている誠の姿が映る、背後からレイダーが襲い頭
をかち割られる寸前クリスがそれを身を挺して体当
たりして助け誠は震える足を手で支え子鹿のように
立とうとするクリスは嘲笑い彼に手を差し伸べ誠も
またその手を握り、何度でも立ち上がる、彼等の目
は美しい、彼等を襲うレイダーの目は怯え驕り傲慢
の中濁り彼等を襲う。
黒田「……」
戦いは同じ筈、結論は勝ちか負けしかない筈だっ
た、だがその戦いは違った、何かが違った。
黒田「違う筈はない!負ければ終わり詭弁など!甘
さなど!」
だがその行き着く結論でさえも結果は違った、誰
もが支えあい戦う彼等は圧倒的数の不利を尽く覆し
ていくーーそれもまた答え。
ハク「人は1人じゃ弱いよ、全てを1人で賄える人間
なんていない、それこそが傲慢で強さを勘違いして
ると僕は思う」
相葉「お前が生きてきた社会や仕事でも同じだ、組
織は人が分担しその能力を分け合う事で1人ではな
し得ない事をやり遂げてきた、家を1人で建てる大
変さがわかるか、分担し柱一本立てるのでさえ1人
では縦にする事さえも難しい、支え釘を打つものが
いるからこそ、事は効率よく立てることが出来る、
人生に於いて限られた時間の中その無駄がいかに人
の人生の限られた中、障害になっているのがわかる
だろう」
黒田「……黙れ、認めたら俺は弱くなる」
菅のサポートは的確だった、彼の性格、状況を見
極め、そこに愛がある彼女の全ては全てのものから
愛する彼を救いたい一心だった、矛盾にも見える敵
に懇願し、彼のサポートに尽くす姿に黒田自身も本
能的に変化が見え始めてはいたが直ぐに闇が彼を覆
う。
ハク「そろそろ時間だよ、純衣」
純衣は頷き構えを解き無防備に黒田に向かい歩き
始めた……黒田の剣を悉く寸で躱しながら近づく純
衣に黒田は恐怖した。
黒田「この剣が怖くはないのか!」
純衣「剣の当たり判定などたかだが剣の幅のみ、私
が守る相手が見えるか、感じるか、どうだ」
黒田「守らねばならぬ存在は邪魔以外にない!それ
こそが弱点となりお前の力を弱くする!」
純衣「弱いか……私が、なら何故お前は怯えている
私が守り背後にいる存在が傷つく事の方がお前が私
に向ける剣よりも怖い、そしてその守べく存在が同
時に私自身に向く刃の恐怖から解き放つだけでなく
私に無限の力を与えてくれる、愛が続く限り無尽蔵
に、それは形が変わろうとも力の源は同じ、子を思
う親は身を挺し自由を奪われようが命をかけて我が
子を守るのと同じ、友情もだ、誠とクリスを見れば
わかるだろう、そこに脳内解釈はいらないんだ、常
に心あるがまま、常に心を大事にする姿こそが人の
強さだからだ」
いちいち心に刺さる言葉とは裏腹に苛立ちと焦り
が黒田を苦しめ、ほんの少し理解する気持ちがまた
彼の苦しみを倍加させていた、その裏には認めては
いけないというプライドがそうさせていた、焦りは
未来への恐怖となり怒りは心の思考力を低下させる
彼の壁は厚い……だが変化は始まっている。
黒田「な、何なんだお前らは!来るな!」




