純衣戦⑩ 力の種類
来栖ーー
「このままではまずい……」
敵のラッシュは凄まじい、槍の先に無数の檄が施
された槍術と近接に特化したサイの攻撃は彼等を苦
しめた、だが近距離に遠距離と言う攻撃に対し辛う
じてはいるが突きに関して勝るものなしの中距離戦
闘に特化した来栖のレイピア捌きは彼の実力が特化
している証拠でもあった。
ヒロ「僕が足を引っ張ってる……何とかしなきゃ」
衆「どうしたどうした!後手後手に回っても敵は倒
せないぞ」
ヒロ「こんな素早い攻撃にこちら側に攻撃する暇な
んてどこにあるんだ」
来栖は敵の攻撃に対処するのが精一杯であった。
来栖「お前の特技は何だ!」
ヒロ「と、特技?と言われましても絵とか……」
来栖「んな事聞いてんじゃねぇ!絵?そんなもん戦
闘の役に立たねぇ!聞いてんのは力だ!他に何か使
えるそうな特技は無いのか!」
その時ハクの声がヒロに届く。
ハク「絵ねぇ……いいねぇ!じゃそれで行きましょ、
はーい此処にいる人で絵の得意な人手を挙げて!」
乙音「はいはい!」
由美「私も元は美術の先生よ、材料だって此処から
近いアジトに」
裕太「僕を忘れちゃいけないよ!趣味は料理に漫画
だからね」
ハク「ヒィふぅみぃ……よぉ、おお!沢山いる!」
来栖「ふざけるな!」
ヒロ「……黙ってハクさんの話を、普通に戦っても
武力の差じゃ力じゃ勝てない、それに力が全てじゃ
ない力は武力だけじゃない、それを僕は彼を通して
見てきた、アナタも彼に何か感じてる筈だ」
ハク「絵が戦闘に役立たない何て誰が決めたのかな
かな、僕は決めてないけどなぁ」
来栖「……策ありか、しかし絵が、まぁいい、どち
らにしろこのままでは体力が尽きる、行け、奴の話
を聞いてこい!」
ヒロは慌て駆けハクの元へ。
二体一の状況に倒す事をやめハクに賭けた来栖だ
った、防御のみの攻撃はヒロを守りながら、そして
勝利を掴むために隙を見出す洞察力を消し余分に考
える動作がなくなった分切れが増していく、だが彼
等も手を抜く事はない、ヒロを追って対峙する衆が
1人になれば確実にやられる実力がある来栖に対し
ヒロを追うリスクを避け、逆に邪魔な防御役が消え
た事をチャンスと捉えた衆2人は来栖にとどめを刺
そうと猛追が加速していく。
来栖「5分が限界だ!」
ハク「5分も要らないよ、沢山来てくれたから」
来栖「?」
栗栖の心配をよそに円陣を組み始めるハク達、そこ
にヌクもいた。
ヌク「ほほぉ面白い事を考えるのぉ……なら効率的
に分担して完成させるぞ」
誠にクリス、孝雄も加わり豹と虎が彼等を守ように
戦い始めた。
誠「おいおい何やら面白そうな事し始めたな!」
クリス「ククク、次は何を見せてくれんだハク!」
来栖が奮闘する中、徐々に体力が奪われる、敵の
攻撃が来栖に擦り始めた時ヒロの声が栗栖の耳によ
うやく届いた。
ヒロ「出来ました!僕の方へ!後ろ向きでお願いし
ます」
栗栖「後ろ向き?は?まぁいい防御しながらだ、敵
に背を向ける暇なんぞ無ぇからな!ハクと裕太とや
らが助っ人に入るつもりならお断りだぞ、俺は対戦
すると決めたからには意地でも俺の手でコイツら倒
す!そうでなければ指導者として俺のプライドが」
ヒロ「安心してください、プライドの高そうな高慢
チキだろうから後は若い者同士でどうぞって言って
もう戻りましたよ」
栗栖「……ふーん」
訳もわからないまま、後退しながらヒロの指示し
た場所へと到達する、ハクの指示で一斉に絵を描い
た場所を隠す様に固まっていた所から霧散する仲間
達、その絵に到達した敵衆の動きが急におかしくな
ったのだった。
衆「何だ!前が歪む?」
衆ニ「お、落ちる!」
ヒロ「チャンスです!栗栖さん、地面を見ないで!」
栗栖「何をした……だがその隙見過ごす程俺は甘く
はない」
勝負は一瞬だった、栗栖の素早い攻撃は動きのお
かしくなった敵に対し的確に両手首の動脈を切り刻
んだのだった、両手首から血が噴き出し、思わず血
でぬめった手首を押さえようとするも片側からも噴
き出す状況に動揺し再び武器を握ろうとする衆の1人
もいたが一度手に着いた血は拭い切れる筈も無く止
め処なく再び血で染まる武器を以前のように握る事
は出来なかった。
栗栖「終わりだ、俺はレイピア使いだが日本では剣
道も得意だ、手首は武器を持つ者にとって最も敵に
近くそして脆い最大の弱点と知れ、小手技が長ける
日本の武道を舐めるな」
栗栖は戦闘が終わり下を見るとトリックアートが
辺り一面と背後の壁に書かれていた、これは地面な
どに書いた絵があたかも崖の上に立つ細い道に見え
たり空間を歪める一定方向から見ると上がり坂に見
えるが坂になってたりする芸術と科学が融合した物
だった。
栗栖「絵が……こんな使い方があるなんて、アイツ
は何者なんだ」
ヒロ「ハクさんですから、あるので何とかする人で
すからね」
栗栖「……」
彼はハクの認識を変えた、来栖にとって彼の想像
物など力の前では何もなし得る事ができない、自身
では何も出来無い男だと言う認識が拭いきれずにい
た、今までは、現に彼はここに来るまであらゆるあ
るものだけで即座に対応してきた、だがそれは仲間
の力を常に借りてきたものだからだ、だがその一つ
一つの原理を応用すればこの絵にしても拠点を攻め
にきた敵に対しコミュニティー内での仕掛けを施せ
ば犠牲者を少なく敵に対処出来る、有利に立てる戦
略家としての才を見出したのだった、それだけでは
ない、彼の周りに集まる人のレベルの高さ、無能な
人間ならば誰も従いはし無い、力や金で動く人間と
明らかに違う彼の周りの人間のハクに対する想いは
彼の信じてきた力を……首を振り心でその考えを振
り払う来栖だったがそれを認める訳にはいかなかっ
た、彼もまた己の信条を通しブレることが許され無
い信念と部下への統率、国としての未来、トップが
ブレる訳にはいか無いからだ。
来栖「違う、敵を粉砕できたのは最後は力だ!圧倒
的こそが敵を粉砕することが出来る」
だが武力のみで戦う事こそが本当の抑止力なのだ
ろうかと疑問が頭から離れなくなり始めたのだった、
地球も経済や流通が一つのネットワークとして成り
立っていた令和時代から各国が戦争の為に軍を強化
し疲弊し一つの領土(地球)を犯し大義名分を抱え、
視野の狭い愚かな行動を繰り返した結果、人を裕福
にする為に生まれた国家という組織は人を殺し人か
ら金をむしり差別や偏見、強制力を生み出した人が
作りし文化の中でより良くするものは大切だ、だが
変えてはいけない当たり前の事を変えるのはいつの
時代であろうが変わりはしない、それを改革だ、現
状を見ろなどと言う、それこそが愚かで視野の狭い
世界を作り上げる現実だと言うのに……。




